青い夏
ミーンミーンミーン…。
最近よく聞こえるようになった鳴き声を聴きながら私は自転車をこいでいた。
あまりの暑さに汗が出てしまう。そんないつも通りの7月だ。
でも、この日は何かがおかしかったのかもしれない。
ふと、蝉の声に混じって頭の上から聞きなれない音が聞こえた。私以外、誰もその音に気づいてはいないようだった。
私はその音の正体が気になって空を見た。目に映ったものは、赤く、長く線を引いて、落ちてくる隕石らしいものだった。
この時私は何も感じなかった。いや、そういえば嘘になるかもしれない。ただ、『恐怖』というものは全く感じなかった。
あ、これでわたしの人生終わっちゃうのかな。そんな程度だ。
ふと、目の前に見覚えのある背中が見えることに私は気がついた。
中学3年生の時に一緒のクラスだった女子である。華奢な彼女の背中は少し押せばすぐに折れてしまいそうである。
ただ、話しかけるようなことはしなかった。なにせ彼女とはあまり関わりがなかったのだ。
接点といえばせいぜい修学旅行で余ったもの同士班を組まされた程度である。あとは卒業式で少し話したぐらいだろうか。
今行っている高校も知らなければ連絡先すら知らない。それに、話しかけられたら彼女にとってもいい迷惑だろう。
そんなことを考えているうちに信号が青になった。小さくて華奢な彼女の背中が遠くなっていく。私も慌てて自転車を漕ぎ出した。
私は彼女と近すぎず遠すぎずな距離を保っている。
3分くらいだろうか。目の前の曲がり角を彼女は曲がるそうだ。私はこの先ずっとまっすぐ行かなければ家につかないので彼女との奇妙な追いかけっこもここで終了だ。
なんだか少し楽しかったような気もする。だがそれも多分気のせいだろう。
彼女が曲がった直後、心地よいサイダーの匂いがした。中学校で少しだけ香ったあの懐かしい彼女の匂いだ。
ふと、思い出して空を見上げた。隕石らしいものはあと1分くらいで地球に激突しそうな距離まで迫っていた。
彼女はこの隕石のことを知っていたのだろうか。
私はそんな小さく、どうでもいいような疑問を胸に抱きながら気持ちいい夏の風に吹かれた。
こんなことがあったらいいのになぁという妄想でこの作品を作りました。
まあ実際に起こったら死んじゃうんですけどね(笑)