一章 ~弟~
一つひとつの章が短くなりそうです……。
のんびりと待っていてください!
妙に高い目覚ましの音で、優斗は目を覚ました。(この妙な音を最初聞いた時、選び間違えたと思ったのを、優斗は覚えていた。)
叩く様にその音を止めると、まだ開ききらない目を擦る。
“彼”が開けたのであろう窓から流れ込む風は、この季節らしいじっとりとした風で、首筋や足に纏わり付いて朝からイライラさせた。
「あれだけ濡れて、風邪をひかないのか……。」
いきなり降り出したあの雨に打たれた次の日なのに、優斗はいつも通りだった。
「……我ながら、凄いよな。」
「単に、お前が馬鹿なだけだろ!」
「いでっ!? あ、いや、馬鹿じゃ……。」
後ろから聞こえた声に、振り返る間もなく背中に衝撃を受け、優斗は反論しながら振り向いた。
そこには穴埋めにワッペンの貼られて使い古したようすの青い星型のクッションと、優斗の予想通りに、“彼”がいつも通りの笑顔で笑っていた。
「なんだよ。馬鹿は風邪ひかないっていうだろ?」
そういって、更に歯を見せて笑う“彼”、翔太は、優斗の一つ年上。友達、相談相手、先輩、ルームメイト、兄と、優斗にとって様々な形深い関係を持ち、大切な存在だった。
「ま、そうですけど……。それとこれとじゃあ、話は別ですよ。」
「それもそうか。ところでさ、今日も陽君のとこ行くのか?」
いきなり話が変わり苦笑いしつつも、はっきりと答える。
「はい。4日後に退院予定なので。」
「12歳で“がん”なんてな……。陽君も、お前も大変だっただろ?」
優斗の弟の陽は、数ヶ月前にがんがあることが発覚した。早期の発見だったため、大事にはならなかったが、今はまだ入院しているのだった。
「でも、誰より辛いのは陽なんで。俺は、それを支えたに過ぎません。」
そう答えた優斗に、翔太は顔をしかめた。
「お前さぁ……。そうやって律儀なのはいいんだけど……。なんつーか、もっと自由になっていいんじゃねーか? お前がよくても、俺からすると、なーんかかたっくるしいんだよ。」
「は、はぁ……。」
優斗は、首を傾けた。
「お前分かってないだろ。」
黙って頷く優斗に、ケラケラと笑いながら背中を叩いた。
「とにかく! 言いたいことは言っておかないと、後々後悔するからな!」
「じゃあ、あえて言いますけど、痛いです……。」
いきなり話が変わってないか……? という質問を飲み込み告げると、翔太は、
「え? あぁ、ごめんごめん」
と言いながら、悪気のない笑顔を向けた。