硬派乙女は昭和生まれ
若返った祖母とそれに振り回される孫を描いた日常ものです
部屋に生暖かい風が吹き込んだ。穏やかで温かい陽光が僕を包んでいる。気持ちのいい春の朝だ。時計を見ると七時すぎ、学校に行く準備をしよう。
そう思いつつ眠気には勝てない。目覚ましがわりの携帯のアラームが鳴るまで惰眠を貪るのもいい。僕は再び目を閉じた。
「晋太郎、朝じょ、起きない」
今時珍しい、キツイ阿波弁が僕の部屋に引き渡った。声の主はセーラー服を着た一六歳位の少女だ。身内の贔屓目に見ても、鋭い目に鼻筋の通ったクールそうな印象の美人さんである。
「もうちょっとしたら起きる」
「はよ用意しい。ご飯できとるで」
やけに老けた口調だが、それには理由がある。そして僕が両親から離れこの家で彼女と同居しているのも同じ理由だ。
上半身を起こす。ベッドに座って六畳ほどの洋間を洋間を見回す。毎朝のことだけど走馬灯のように幼い頃の思い出が蘇ってくる。
この家は僕ら一家のために増築された。隣の平屋の日本家屋が僕が幼い頃過ごした場所、祖父さんや祖母さんとの思い出が詰まっているからだ。
制服のブレザーを着ると、歯磨きに顔を洗って、スタイリングウォーターで寝癖を直す。これで朝の準備は終わり。朝食は隣の祖母さんの家で食べる。
隣の和室とは屋根付きの通路で繋がているため出入りが自由だ。昭和三〇年代を思わせる台所と食堂にはトーストと目玉焼き、炒めたキャベツがある。我が家の定番朝食だ。
「早よ食べよ遅れるで」
「あんたもな」
そう言うと目玉焼きを口に運ぶ。ここまで見ればよくある親戚と同居する幸運な男子にしか見えない。しかし事実は違う。
一通り食事を食べ終えるとカフェオレを口に運ぶ。といってもミルク一〇〇パーセントのミルクコーヒーだ。向かいでは彼女が経済新聞に目を通しながらコーヒーを飲んでいた。
そして僕をみると呆れたように呟く。
「もうちょっとしっかりしい晋太郎。あんた後継なんやけん」
「祖母さん今はそういう時代じゃない」
そう目の前にいる少女はれっきとした僕の祖母なのだ。ではなぜ祖母がこんなに若い外見をしているのか。それには少々説明に時間がかかる。
「サナちゃん、迎えに来たよ」
「ほい、晋太郎行くで」
祖母さんに促されるように僕はカバンを手に持つ。なぜこういう生活に至ったのか。それは別の話でしかも長くなる話だ。