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注:異世界モノです……

 河原崎町には二つと半分の自衛隊基地が存在する。


 陸上自衛隊河原崎混成駐屯地と航空自衛隊河原崎航空基地の二つ。


 そして半分というのは新たに建造されるはずだった海上自衛隊所属護衛艦の母港になるはずだった河原崎町日ノ明港の事だ。


 もともとは旧海軍の入渠ドックがあり軍港として栄えていたのだが、戦後民間に払い下げられ民間船用として再スタートする事になる。


 しかしいかんせん陸の孤島と揶揄されるこの町では時代の変化に対応できる訳が無く、造船業のアジアシフトとともに地元造船会社および港を管理していた会社が破綻。


 この町は終わったと誰もが思った。


 そのさなか起死回生の策として先代の町長が地元の政財界を巻き込み護衛艦建造を誘致し、日ノ明港を海上自衛隊の母港として再出発させるという荒業をやってのけたのだ。


 奇しくもさらにその先代は旧帝国海軍航空隊元主計官という前歴と人脈をフル活用して航空自衛隊基地を引っ張り込み。


 さらにその先代はかつて所属していた旧満鉄調査部の仲間を戦後日本政府に売り飛ばし、その論功で陸上自衛隊駐屯地を誘致を成功させている。


 このように歴史的背景から本来は防衛上軍事基地を集中させないという基本に真っ向反対する河原崎という町が誕生した。


 ただ残念な事に護衛艦建造の途中で町が移動してしまったため建造が無期限で延期。


 しかも港の機能は一緒に移動してきたものの肝心の海があった場所は陸地になっており、あと数十mずれていれば海だったのにと港湾関係者および漁業関係者は嘆く事となった。


 しかしこのような好戦的、もとい軍事的な町として歩んできた河原崎町の現町長達が反軍的というのは皮肉と言わざるを得ないだろう。


 その陸上自衛隊混成駐屯地にある官舎の駐屯地司令室で、報告を受けていた駐屯地司令の森野忠弘一佐が頭を抱えていた。


「総数として約八十騎から百騎の竜に乗った騎士達が確認されています。そのうち六十二騎の撃墜が確定しています」


 仕官が一人淡々と報告をする。


 竜騎士の部隊による襲撃から三日、ようやく混乱と狂騒が収まり河原崎町で何が起こったのか把握できるようになり被害の全容が見えてきた。


「最終的な被害ですが逃げようとして怪我をした民間の方が三十六名、混乱による火の不始末での火災が二件とドラゴン落下の下敷きによる家屋の損害が二十四件です」


 森野司令は軽いため息を付いた。


 侵入者の撃退には成功したものの、そもそも町への侵入を許してしまうという事が大失態だったからだ。


 そのためこの事件以来駐屯地には市民の人々から苦情や抗議の電話が引っ切り無しに掛かってきており、隊員達がそれに対応を余儀なくされていた。


「あいつらの目的は何か分かったのか?」


「目的、ですか……、威力偵察だったというのが大方の見方です」


「まあそりゃそれ以外ないわな……」


 偵察には大きく分けて二つの種類に分けられる。


 一つは偵察する相手に見つからない様に隠れて行う隠密偵察。


 もう一つは小規模の部隊で攻撃を仕掛け相手の出方(反撃)を見る事で敵情を探る威力偵察である。


 今回は百人規模と河原崎町を攻め落とすには明らかに少ない戦力だったため、後者なのだろうと考えられた。


「OK 報告書は後で目を通しておくからもう下がっていいや。この後も面会の予定が立て続いているから」


 そう言い報告を行っていた士官を部屋から退室させる。


 程なくしてノック音がして扉が開いた。


「藤原二佐入ります」


 敬礼をして入室する。表情から察するにあまりいい知らせ持って来てない様子だ。


「お疲れさん、まあ座りなよ。どうだった?」


 来客用のソファーに座るよう促す。


「鈴谷のお嬢さんから頼まれていた件なんですが、どうやら本当の様ですね」


「確かか?」


 森野の問いに頭を縦に動かす。


「ええ、うちの隊で使えそうなのを何人か出して調べさせたんですが、加賀紀一郎君が連れ去られたというのはほぼ間違い無いかと」


「警察の方は?」


「それがさっぱり。一応現場検証みたいな事はやったみたいですけど、そもそも

俺達を仲間に入れる気は無いそうですよ」


 よくかつての旧海軍と旧陸軍が仲が悪かったというのは有名な話だが、実は警察と自衛隊もあまり良くない(これも戦前からの伝統)


 権限や仕事の内容が微妙に被っているからだ。


 河原崎町でも同じで、しかも町が移動して以来かなり助長されていた。


 行政組織の宿命とでも言うべきの権限を侵されるのを嫌う体質のため、規模と能力で劣る河原崎警察署が自衛隊の下部組織と化してしまうのを恐れたためだ。


 そしてそれは同じく自衛隊を嫌う町長達と親和性を持ってしまい、森野司令達にとって非情に厄介な問題となってしまっていた。


「そりゃそうだよねぇ…… でもどうするつもりなんだろうか?」


 森野基地司令はただただ暗澹たる気持ちになるのだった。


「それが襲撃のごたごたで他にも捜索届けが十数件出されていて、それに混ぜて握り潰す気らしいんですよ」


「え? そんなにいるの?」


「いえ、加賀君以外は家出だったり徘徊だったりと、襲撃と関係性が無いという

事はこちらでも調査済みです」


「まさか町長達本気で見捨てる気なのか?」


「警察発表でも行方不明者がいる事しか出していませんから、最終的に家出人って事で終着させたいんでしょう。拉致されたって事になると助けなきゃいけなくなりますからね。鈴谷のお嬢さんが父親ではなく我々を頼って来たのはその辺じゃないでしょうか」


「直接連れ去られるのを見た者はいないし、状況証拠だけで確証は無いからな。鋭意捜査中って事にしとけば誰も文句は言えないか。とにかく我々は彼の捜索に全力を尽くそう。まずはなんとしても飛行禁止措置をとかないとな」



(武蔵乃学園)には中等部と高等部そして共用施設の三つのエリアがある。


 元々別々の学校だったのを無理やり一つにまとめたために別々の敷地に立っている。


 そのため共有のエリアは中・高双方のエリアに点在するので移動教室で双方のエリアを十分以内に行き来しなければならない等のアクロバティックな現象が起きたりもする。


 そして高等部の共有棟にある生徒会室では会長の鈴谷八重が頭を抱えていた。


「会長? 大丈夫ですか」


 竜騎士の襲撃以来思い詰めた表情をしている鈴谷を心配して青年が声を掛け

た。


「ありがとう遠野君、大丈夫よ。それより学校のみんなはどんな感じ?」


「特に問題ありません。むしろ大人しくなってくれて助かってますよ、以前は肝試しというか根性試しで町の外に出たがる馬鹿が大量にいましたから」


 彼女が悩んでいる理由は遠野恭二にも分かっていたのだが、あえて触れる事はしなかった。


 鈴谷八重に責任があるわけではないのだが、紀一郎が行方不明になってしまっている事に彼女が自責の念を感じていたからだ。


「鈴谷会長のおやじさんは何と……?」


 鈴谷は首を横に振った。


「何度も言ってるんだけど、捜査中だって事しか教えてくれなくって」


「大丈夫ですよ。あいつは南部とは違うベクトルで根性がありますし、適応力ってやつですか? どんな状況でも上手くやる男ですよ」


 遠野の言葉に口元が緩む。


「遠野君がカロの事を褒めるのなんて初めてなんじゃない?」


「褒める所がありませんからね」


 憎まれ口を叩く。


「今日はもう帰られたらどうですか? 南部達も来ませんし、適当に私が片付けておきますよ」


「そうね、そうするわ。後はお願いね」


 生徒会室を後にした。


 帰路へ向かう鈴谷八重には、すれ違う友人や彼女を知る生徒から次々と声が掛かる。


 恵まれた容姿と独特の魅力から先輩後輩問わず人気のある彼女は他生徒に引っ切り無しに捕まってしまい学校を出るのに結構な時間がたってしまった。


 いつもなら生徒会のメンバーが付いて睨みを利かせるのでそんな事は無い。

 

 元々人好きな彼女にとってそういった事は苦ではないのだが、今はさすがに疲れを感じてしまっていた。


 校門を出てようやくそれから開放される。

 

 しかし最初の角を曲がると不意に声をかけられ、振り向くとそこには揚屋友広が立っていた。



 この日揚屋家では『河原崎町転移事件』を凌駕する出来事に揚屋家夫妻はパニック状態に陥っていた。


 幼稚園の時に向かいに住んでいた愛美ちゃんが遊びに来たのを最後にまったく女っ気が無かった不肖の息子が女の子を連れてきたからである。


 しかも町でも有名な才色兼備の鈴谷お嬢様である。


「こんにちわ、おばさま。お邪魔します」


 お得意な余所行きの口調で頭を下げる。


 下町気質の夫妻は鈴谷のお嬢様オーラに当てられて後ずさんだ。


「ささ、会長様。こっちでありまつw」


 揚屋は例の口調で奥の居住スペースへ案内する。。


「ど、どうすんだ母ちゃん。唐揚げ出したらいいのか?」


「何言ってんだい、そんな茶色いモン出したら笑われちまうだろ! 赤羽さんトコ行ってケーキ買っといで、ケーキ」


 そう言って旦那の尻を叩きケーキ屋『メルヘン』へ向かわせる。


 茶色い料理(揚げ物や肉料理)で全てが回っていると言って良い揚屋家ではお洒落な物というのが何なのか分からないので、お洒落な店舗として定評のある赤羽さんが経営しているお店の物をとなった。


 そもそも何か食べ物を出す必要は無いのだが、不肖の息子の錦に飾りを付けたかったのだろう。


「どうも鈴谷お嬢さま、こんな小汚い所に来ていただいて。ささ、お座りください」


 自分達が日ごろ使っている座布団の二倍以上厚みのある来客用の座布団を居間の上座に置く。


 揚屋友広の部屋で話をするのでと断ったのだが揚屋母が汚い部屋に入ると足が腐ると言って譲らず、息子との間で問答が続いたが最終的に居間で話をするという事で決着が付いた。


 その後揚屋父が猛ダッシュで買ってきた苺のショートケーキと玉露をテーブルに置き揚屋母は去っていった。


「いやいやお恥ずかしい。じきに盟友の曽根崎氏が来るでありまつから、もう少しお待ちくだされ」


「…… ああ、そう? ていうかその口調は作ってたのね」


「何の事でござりまつか? 拙者いつもこうでありまつよw」


 母親と話していた時は普通の口調だったのに自分と話す時はイラッとするわざとらしいオタク口調なのでその落差にさらにイラッとした。


(何でカロの周りには変なのが集まるのかしら?)


 これ以上イライラが溜まらない様に黙って出されたケーキの相手をしていると、店舗と居間を隔てている扉が開き中肉中背の青年が入ってきた。


「おー、曽根崎氏。待っていたでありまつよ」


「ご、ごめん。し、し支度にて、手間取った」


 チェックの服にチノパンといういわゆるオタクファッションに身を包み、大きく重たそうなリュックを背負っている。


「こんにちわ、彼もうちの学校の子?」


 自分に向かってきた女子の声の主を見た曽根崎は前髪に隠れた目を見開き顔を真っ赤にさせた。


「せ、せ、せ、生徒か、会長! は、は、はじ、め、め、まして……。そ、そね、そね、ざ、ざきで……」


「落ち着くでござるよ曽根崎氏。吃りが酷くなって何言ってるか分からないでありますよ。話すのは拙者がやるから、氏はアシスタントに徹するでありまつ」


「ご、ごめん」


 揚屋に促され席に着いた。 


「早速でつが本題に入るでありまつ。曽根崎氏アレを……」


 揚屋に促されリュックからボロボロになった雑誌の切れ端を鈴谷に手渡した。


「これは? ていうかあんまり触りたくないんだけど」


 これまでのアホなドタバタ劇を見せられた鈴谷は馬鹿々々しくなり猫かぶりモードを辞めている。


 嫌々ながら切れ端を受け取るとそれをざっとだが読み始めた。その雑誌はあまり良識的な雑誌ではない様だ。


 鈴谷は顔を顰める。


「で? このエッチな雑誌が何なの?」


 勝ち誇った表情で揚屋は鈴谷を見つめる。


「お分かり頂けたでしょうか?」


 曽根崎も目が隠れていてあれだが、満更でもない感じである。


「は?」


「いや、だからここのAV売り上げランキングでつよ。『J○新田美月の淫らな

保健体育』が一位になっているんでありまつ!」


「は? だから?」


 段々と鈴谷の表情が険しくなっていく。


 彼女が不機嫌になっているのを気付かない揚屋はヒートアップしながら話し続ける。


「でつからでつね会長様、これはすごい事なんでつ。前作はデビュー作『美月の初体験』で三月に発売されて拙者要チェックだったんでありまつ!」


 揚屋の話にキレた鈴谷は『ドンッ』とテーブルを叩く。


「私にセクハラするために呼んだんじゃないでしょうね。だとしたらシメるわよ」


 彼女の冷え切った表情を見て青ざめた揚屋は口をパクパクとさせる。


「つ、つつまり、こ、このAVビデオはし、四月に、は、発売さ、されてるんです」


 揚屋の代わりに曽根崎が話を続けた。


「は? だから? って……、あれ?」


 鈴谷も違和感に気付いた。


「そうなのでつ! 『J○新田美月の淫らな保健体育』もこの切れ端も我々がこの世界に転移された後に発売されたものなのでつ!」


「えーっ!」


 鈴谷八重は驚きの声をあげた。



 事の発端は三週間前にさかのぼる。


 天体観測にいささか飽きがきていた揚屋友広は小学校時代から仲が良い曽根崎を連れて、恒例のエロ本捜索ツアーに出掛けた時である。


 都市が移転して以来東京から出版されていた雑誌等が入ってこなくなり遺棄されるエロ本が激減したため、彼らは普段なら行く事の無い丘の方まで足を伸ばす事になった。


 そこで目ざとく例の雑誌の切れ端を見つけた揚屋はそれの意味を知る。


 本来なら警察か自衛隊か学校の先生かに知らせるべきなのだろうが、何か特別な事がしたいお年頃である。


 自分達だけで秘密を解き明かそうと密かに調査を開始する事にした。


 普通なら中学生二人が出来る事など高が知れているのだが、幸運にも天体が関係していた事と二人が破格なまでの優秀さを発揮し一定の仮説と実証を確立する事に成功する。


「じゃあその事で私と話がしたかったの?」


「そうなのでつ! 会長様を通じて大々的に発表しようと考えていたのでありまつ。しかしまさかカロカロ氏があのような事になるとは……」


 視線を落とした。


「それで……、次に日本とこの世界が繋がるのは何時になるの?」


「ぼ、僕た、た、た達の仮説が、が、正しいなら、と、十日後にな、なります」


「しかも次の扉はかなり大きなモノになるはずでつ。拙者達が日本に帰る事が出来る位」


 それを聞いた鈴谷は目を見開き歓喜の声を上げた。


「すごいじゃない! 日本に帰れるなんて!」


「しかしでつね、会長様。そうなるとカロカロ氏が……、取り残される事になるであります」


「あ、そっか……」


 それから少しうーんと考えると口角を持ち上げる。


「大丈夫よ、何とかパパに言って彼を助け出す様に頼んでみるから」


 鈴谷の言に揚屋と曽根崎がほっとした表情になる。


「それは良かったでござる。実はカロカロ氏の事も頼みたくて、今日来てもらったでござる」


「OK 任せておいて。私を頼ったのは正解よ」

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