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水曜日

 昼休み。珠子と真加瀬は、菜月、木暮井、桃山達とともに学食でテーブルを囲み、昼食をとった。

「お邪魔しちゃって、ごめんなさいねぇ」

「いいえっ。大勢の方が楽しいですもん。ね?先輩」

「う、うん……楽しい……」

「でも、よかったわぁ。二人、仲良くなれたみたいで」

「はいっ」

「あたし、ちょっと、心配してたのよぉ? 真加瀬君が女の子に興味ないタイプの人だったらどうしようかって……でも、錦野ちゃんなら、男だと思って付き合えなくもな」

 木暮井は、桃山を無理矢理引きずって席を立った。

「急ぐもので。失礼」

 苦笑とともに先輩達を見送ると、菜月が珠子をつついた。

「ね、菱沼に事が知れると、対策練られちゃうんじゃない?」

「大丈夫だよ」

 珠子は胸を張った。

「ゆいはいっつも昼ごはんは生徒会室でシェフだかシュフだかの作った特製弁当食べてんだから。まったく、あれで副会長って、何を売り込んだんだか……」

 菜月はなぜか笑っていた。

「特製弁当、って。あんたが言うとなんか煮しめとか焼きサバの入った折り詰めを想像しちゃう。きっと洋風だよ。なんとかランチとか言うんだよ」

 真加瀬もくすくすと笑っていた。珠子は顔を真っ赤にした。

「な、なぁにがランチだよ。あいつにはパンチとか食らわせときゃいいのよ」

「誰がパンチラだって?」

 勘違いもはなはだしく会話に食いついてきたのは、いかにもノリが軽そうな男子生徒だ。

「誰がパンチラの話をするかっ! あっち行け! 忠則め!」

「こ、こんにちは……」

「あ、ちわっす」

 真加瀬は男子生徒に挨拶をして、珠子に目線で彼が何者かうかがうようにした。

「先輩、こいつはあたしの近所にいる来間くるま忠則。忠則、こちらは先週ウチに転校してこられた、二年生の真加瀬成之先輩。失礼のないようになっ」

「うるせぇ。あ、こいつに言ったんで。先輩じゃないすよ。……それと、お前の近所に俺がいるんじゃなくて、俺の近所にお前がいるんじゃねーか」

「なんだとう?」

「あ、あの、まぁまぁ、っていうか、その、穏便に……」

 来間は真加瀬と珠子を交互に見てから、真加瀬に寄っていった。

「えーと真加瀬、先輩? 何でまたこんなのとメシ食ってんすか?」

「え、と……その、同じクラスの木暮井さんと桃山さんが、錦野さんを紹介してくれたんです。まだ、僕、よく……わからな……もので……学園の案内を……転……し……」

 フェイドアウトしていく真加瀬の言葉に、こいつはちょっと違う、と思ったのか、当たり障りのない笑顔を浮かべて「そうすか」と、その場を離れようとする。

 しかし、何事もなく去るのがいやだったらしい。

「まあ、こいつなら、男子トイレだろうと、更衣室だろうと平気で案内してくれそうだし」

「ただのりぃ~」

「こいつキレると暴力振るうから気をつけたほうがいいっすよ」

「あたしがキレるのはあんたぐらいなんだけどっ! 今振るわれたくなけりゃさっさと行きな」

「サルが怒ったー」

「このぉ」

「……あんたたちってば……小学四年生かっ?」

 菜月の言葉に、二人はとりあえず刀を納めると、お互いに変な顔を見せ合って退いた。

「……間違えた。小学三年だ、こりゃ」

「だってぇ、忠則が~」

 ふくれる珠子を真加瀬はにこにこしながら見ている。

「ほんとは……仲、いいんでしょ? えっと、幼馴染? いいなぁ、なんか……そういうの……」

 珠子は慌てて否定した。

「違いますっ。仲なんか良くないです! あいつ、馬鹿の一つ覚えみたいにサルサルって。幼馴染なんてほのぼのとしたもんじゃなくて……なんていうかなぁ、喧嘩友達、いや、友達つかないし。ね、菜月、こういうとき、『拳で語り合う相手』とか言わないっけ?」

「ち、違うような気が~」

 学食を出ると、珠子は真加瀬を連れ、早速案内を始めた。

「どうですっ? いーながめでしょっ?」

 二人は真っ先に屋上へ上がってきていた。

 フェンス越しに、目の前に広がる街並みと、ゆったりと流れていく『小川』の流れを眺めながら、珠子は大きく伸びをした。

「こっから、釣り出来たら、面白いと思いません?」

「え? お、小川で?」

「なっが~い糸つけて! 国道を渡るあゆ、とか、ここにつくまでに猫が何匹追っかけてくるか、とか考えたら楽しいじゃないですか」

「……錦野さんが、楽しい」

 真加瀬がやっと打ち解けたような柔らかい笑みを見せた。珠子は思わず、それに見とれてしまった。

「いいなぁ、先輩、きっと鼻かんでてもかっこいいんだろうなぁ」

「……すごい、例えだね……」

「あたしの場合花持ってても笑われるもん」

「そんなこと……。錦野さんは、元気だし、それに、明るいし……」

「それしかとりえがないんです」

「あの、ウチのお姉ちゃん達が……言って……その……明るくて、元気なのが、いちばんって……あんたも……もう少し、なんとかしろって……」

「先輩はいいんですよぅ。その奥ゆかしいとこがいいんです」

「……奥ゆかしいどころじゃ……」

 それから見に行ったのは、中庭の番猫。(マサと呼ばれている犬並みにでかい猫)

 そして、実習棟の裏の林のぜいたくなリス。(ちょっとでも傷んでいる物は食べない)

 続いて、玄関前にある立派な銅像と同じなのにこちらはえらく扱いがフレンドリーな、渡り廊下横の『吉兵衛』像。この学園の創設者らしい。名前は古臭いが明治時代の人ということで、普通の頭にスーツ姿だ。両手を広げてウェルカムな笑顔が印象的、なのだが。

「こ、この銅像……女子の夏服、着てる……」

 銅像の横には立て札があり、『吉兵衛くんは君のともだち! 偉業賞賛部 部員募集中』と書いてある。

「あれ、昨日は体操服だったんだけどな。着替えしたんだー」

「きがえ、するんだ」

「面白いでしょ。雨の日にはちゃんと傘さしたり、レインコート着たりするんですよ」

「……あはは……」

 その後、最後ということで学園長室へと向かった。

「が、学園長室、って、いいの?」

「いいんですよう」

 珠子はドアをノックすると元気よく開けた。

「えんちょー、おられますかー」

 中に入ると、大きな机の、これまた大きな椅子に埋もれているように見える小柄な老人が、手に急須を持ったまま笑顔で二人を迎えてくれた。なんとなく吉兵衛像に似ている。

「おぉや、錦野さん。いらっしゃい。そっちは、ええっと、こないだ来た子だね」

「ま、真加瀬です」

「ああ、そうだった。どうぞどうぞ、いっぱいお友達が来てるよ」

 確かに、大きな机の周りには、スチール椅子に座った五、六人の生徒が、お茶と『桔梗屋』のもも蒸し饅頭をよばれていた。

「あー、いいなぁ! もも蒸し饅」

「まだあるよ、お茶いる?」

「いただきます!」

 すんなり座に加わる珠子に、真加瀬は、いいの? いいの? を連発しながらいつの間にか、手にお茶と饅頭を持たされていた。

 学園長と生徒達は、予鈴が鳴るまでそこで和んでいた。


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