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月曜日

小学生並みに無邪気な高校生達と、ぬる~いお笑いでつくりあげたラブコメです。今時の高校生、っていうよりも、一昔前くらいなかんじかもしれません。

「あんたに彼氏なんか一生できるもんですか」

「言ったな。ふん、彼氏なんか三分でつくってやるよ。あたしが本気出したら」

「へぇ面白いじゃない。じゃあやってみせてよ」

「……う」

 夕闇迫る空の下、『稲葉屋宗右衛門吉兵衛学園(いなばやそうえもんきちべえがくえん)』と銘打たれた門の奥で、二人の生徒がにらみ合っている。

 花壇と自転車小屋に挟まれた通路には、彼らの他には数人がいるだけだ。

 にらみ合う二人は目を離したら負け、というようにお互いの顔を見据えている。

 一人は、長い艶やかな黒髪に小さく丸い顔、華奢な身体だが胸にはそれなりのボリュームのある、いわゆる美少女。

 相対するのは、同じような背格好だが華奢ではなく、短くした癖毛が跳ね回る髪に強情そうな眉とそれをさらに強く印象付ける黒目がちの瞳をした、スカートが目に入らなければ男子にも見えかねないような少女だ。

「……で、でも、今は人がいないしさっ」

 男前な少女が悔しそうに言うと、美少女の方は勝ち誇ったような笑みを見せた。

「そうだね。じゃあ、少し待ったげる……そうだ、今度の日曜日!」

「にちようび?」

「“アクアマリン”でWデートしよう」

 そう言って娘はにやりとした。

「いっ! ……い、いいとも!」

「ようし。じゃ、決めたよ」

 娘は長い髪をなびかせ、くるりと背を向けると、後ろに手を振った。

「逃げちゃだめだからね! 珠子たまこ!」

「あんたこそねっ! ゆい!」

 ゆいは校門の外で、ボディーガードらしき男がドアを開けて待つ、黒塗りのリムジンに乗って帰っていった。

 両手の握りこぶしを固め、リムジンを狙撃しそうな目付きで見送った珠子は車が見えなくなると、とたんに泣きそうな顔で後ろを振り向いた。

「どうしよう~、菜月~」

 彼女が呼び掛けた先には、肩までの黒髪を後ろで二つに結んだ、すべての造りが細い少女が腕組みをして珠子をじっと見ていた。

「あんた、簡単にのりすぎ!」

「だってぇー」

「だってじゃない! 売り言葉に買い言葉の見本市じゃないんだから」

 うなだれる珠子に、菜月はひとつ、大きく溜め息をつくと近付いていって肩を叩いた。

「でも、負けないんでしょ?」

 珠子は顔を上げた。さっきのしょんぼりは瞬く間に吹き飛んでいた。

「あったりまえよ!」

「強気だけは世界一だわ。あんた」

「ありがとう!」

 胸を張って笑顔を見せる珠子に菜月はため息をついた。

「……ほめたのと違うって。しかし、何で菱沼はあんたに事あるごとに突っかかってくるんだろうね?」

「ゆいに聞いてよ」

「自分に無いものを持ってるとうらやましく思うもんなのかしらね」

「ゆいは何でも持ってるよ」

「でも、あんたの豪快さとおとこらしさは持ってないよ」

「それってうらやましい?」

 菜月は唸った。

「そうだねぇ。うらやましくはないわねぇ」

「……あのねぇ……」

「女として存在するのが許せないとか?」

「ひどっ!」

「ははは、ごめん、ごめん」

「でさぁ、どうする?」

 まるで人ごとのようにたずねる珠子に呆れながらも、親友は頭の中の情報をかき集めて対策を考えてくれているようだった。

「とにかく、男を一人、捕まえりゃいいのよね……」

「そう」

「簡単に言うなぁ~」

「とにかくカッコイイのを! ありあわせじゃ、きっとゆいに負ける」

「ありあわせって……あんた、自分の立場を考えなよね」

「立場って?」

「はぁ……男子よりも漢らしい、身体的魅力ゼロ、ゆいみたいにばらまくお金も無い女の何を売り込めばいいのよ」

「う、う~……い、イキの良さ?」

「あんた、アジとかイワシなら一番に売れてただろうに」

「い、イワシって」

 珠子もさすがに考え込んでしまった。

 二人は花壇の縁へ腰掛け、お揃いで『考える人』のポーズを取ってしばし沈黙した。

 最初に顔を上げたのは菜月だ。

「あ、あんたの幼馴染は?」

「え! 忠則ただのり! やだ」

「何で?」

「あいつ、すぐあたしをサルにたとえるから」

「……間違ってはいないと……」

「いつだったかは、フクロテナガザルにたとえやがったし……あ、今笑ったでしょ」

 菜月は笑いをこらえている顔で首を横に振った。

「だ、誰か、いい男、いないかしら、ねっ?」

「う~」

 その時、彼女達の前を通り過ぎようとした二人組みが足を止め、そのうちのひとりが菜月の顔をのぞきこむようにして話しかけてきた。

「なんか楽しそうねぇ? ヒトちゃん?」

 菜月はその人物の顔を見上げると、さっと立ち上がった。

「あっ。つや先輩!」

 菜月に続いて珠子もその人物に向き直った。

 彼女らの目の前には、本当に高校生? というような色香を漂わせる女子生徒と、その連れらしい、賢そうな、さらさらストレートヘアの女子生徒がいた。

「えーっと、菜月、この方達は?」

「珠子会った事なかったっけ? 同じ部の桃山艶(ももやまつや)先輩と木暮井律こぐれいりつ先輩」

 珠子はぺこりと頭を下げた。

「そっか。えっと、『稲宗さん部』だっけ?」

 艶が、楽しそうに笑った。

「省略しすぎぃ。『稲葉屋宗右衛門吉兵衛偉業賞賛部(いなばやそうえもんきちべいいぎょうしょうさんぶ)』略して『稲宗偉賞部いなそういしょうぶ』。衣装部と間違えるひとがいるのよねぇ」

 四人はこの変わった部について話しながら通路から校門の外まで並んで歩いた。

「……へぇ“いぎょうをたたえる”ってなんか面白そうですね」

「そうなのぉ。あなたも入らない~?」

 ここで、菜月のほうがさっきの難題を思い出したようだ。

「あ、そうだ、それどころじゃないんです、先輩! 助けてくださいよう」

「まぁ、何かしら」

 菜月は先輩たちに珠子の窮状を訴えた。

「日曜までにねぇ。う~ん……二、三年の中で見た目がまぁまぁでそういうコトに見返りナシで乗ってくれそうなボランティア精神溢れる男子は……」

「い、いますか?」

 見返りナシのボランティア、というところに何の疑問も持たず、目を輝かせる珠子に、桃山は唸ってみせた。

「だいたい急なのよねぇ。いい男はたいてい彼女いるしなぁ~。簡単には貸してくれそうにないしぃ。あ、自慢じゃないけどあたしたちカレシいないのぉ。貸してあげられなくてゴメンねぇ」

 桃山の派手さに隠れて目立たなかったが、ずっと考えてくれていた木暮井が何か思いついたようだ。

「一人、いないこともないわね」

 彼女は一斉に三人の注目を集めた。

「ほら、あの先週転校してきた子。部の勧誘したら脅されてるって勘違いして」

 桃山も思い出したようだ。

「あ、そっか。あの、Newカマぁ君?」

「……あなたが言うと何か他意を感じるわね……」

「ど、どんな方なんですか?」

「すごくかわいい子よぉ」

 一年生二人は手を取り合って喜び合った。

「でもね……」

 しかし木暮井は意味ありげな視線でそれをけん制した。

「……まぁ、会えばわかるわ」


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