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愚民の会  作者: 秋月秋星
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流れ星になった松本君

ボクには少し変わった友達がいます。

お隣に住んでいるクラスメイトの松本くんです。とても星が好きな男の子です。

星のことならなんでも知っている星博士でした。だから理科の天体のテストでは満点を取っていました(他の教科の点数はあまり良くありませんでしたが)。

彼の部屋は星だらけでした。本棚は星の図鑑で敷き詰められ、ベッドには星の布団カバーに星のまくら、壁には横浜ベイスターズのポスターが貼られていました。もちろん天体望遠鏡もありました。

ボクはもう慣れましたが、初めて松本君の部屋に入る人は多分目がチカチカして、頭の上に星が回るでしょう。

それに持ち物や着るものだって星だらけです。星のプリントされていないものは使わないのです。

「苗字、『星野』に変わんないかなあ。」というのが彼の口癖でした。それを聞くたび「名前だけはどうしようもないね。」とボクは笑いながら答えるのでした。


ある日、学校で『将来の夢』についての作文を書いて発表する授業がありました。

みんなそれぞれ自分の作文を読み上げていきました。野球選手、警察官、政治家、ケーキ屋さん、お花屋さん……実に様々な職業が挙がりました。ちなみにボクの夢は小説家です。

そんな中、松本君はみんなと少し違っていました。

「僕は将来、星になります。」松本君は真面目な顔をして言いました。教室が少し静まり返った後、ドッ、と沸きました。みんなも松本君の星好きは知っていましたが、あまりにも真面目に、はっきりというのでおかしくなってしまったのでしょう。ボクも少し笑いました。

「はいはい、みんな静かに。」先生がパンパンと手を叩いてみんなを静めました。

「松本君、本当の星になるんじゃなくて例えば有名人やアイドルになるってことよね。」先生は松本君に聞きました。

しかし松本君は首を横に振り「違うよ。本当の星になるんだ。」真面目な顔で松本君は答えました。

今度こそ教室は笑いの渦に包まれました。先生は少し笑いながらまたみんなを静めました。

授業の最後は「ではみんな、将来のために今できることを少しづつ頑張りましょうね。」

という先生の言葉で締めくくられた。


それからというもの、松本君はことあるごとにからかわれました。

今までは星が好きな少し変わった子、という認識でしたが、今回の事件で完全にいじめのターゲットになってしまったのです。

「おい松本、今から星になるには何を頑張ればいいんだ。」といじめっこが囃し立てますが、松本君は「わからないよ。星に聞いてみないことには。」と言うばかりでした。

松本君への攻撃は日に日にエスカレートしていきました。

直接的な暴力のほかに、物を隠されたり、壊されたり。そこまでされても彼は星になるという目標を諦めませんでした。

ある日の放課後、ボクは我慢できずに松本君に言いました。「いい加減やめようよ。どんなに頑張ってもみんなが言うように星なんかにはなれないよ。松本君も本当は分かってるんだろう。」

「いいや、なれるよ。昨日ようやく分かったんだ、星になる方法。」松本君は自信たっぷりの顔でいいました。

「今日の夜星になるところを見せてあげるよ。学校の屋上に集合だ。他の子には内緒だからな。」

そういう松本君は走って帰ってしましました。なんだか少し嬉しそうな顔をしていました。


その日の夜、ボクはこっそり家を抜け出しました。外は少し肌寒く、鈴虫が鳴いていました。

夜の学校は本当に不気味です。まるで巨大な怪獣のような迫力があります。いまにもオバケが飛び出しそうな校舎に入り、恐る恐る、階段を登って行きました。

屋上に繋がる扉を開けると、そこには満点の星空が広がっていました。少しばかりか満月が大きく感じられました。


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