お前の言葉と俺の言葉
※牧瀬視点・60話後のお話、短め。
「お前、何やってんの。」
俺の親友はどうやら好きな人ともめたらしい。
実央のすたすたと歩く後姿を目を見開いたまま見続けることしかしない琢磨に俺は声をかけた。
「……」
何も答えず、ただただ困惑するだけの親友に俺はずっと言おうと思ってた事を――どうしてこのタイミングで決心がついたのかはわからないが――気付いた時には口にしていた。
「……俺さ、実央にはっきり振られたんだよね。」
言おう言おうと思いつつも、言えなかった事。
だって、きっと実央の好きな人は――
でも、それでも彼は俺の親友だから。
必ず言おうと思っていた事。
「そうか。」
その言葉には優越も、嘲りも、憐憫も、何も含まれていなかった。
だた、淡々と言葉だけがそこに存在していた。
それが俺には許せなかった。
「んだよ、その答え。」
「……俺は、青谷が誰が好きか見当がついている。」
「だから、なんなんだよ。」
誰が好きか見当がついている、それはまったくもって自分だと思ってない言い方だった。
おかしい。何かがおかしい。
「俺にもお前にもあいつは無理だったと言う事だ。」
投げやりに言う琢磨に、俺は静かに怒っていた。
俺は、無理だった。
ちゃんと考えてくれて、はっきりとした答えをもらったのだ。
あの実央があんな泣きそうな声を出すぐらいに、考えてくれたのだ。
告白してすぐは物凄く落ち込んだけれども、宮沢ちゃんに慰めてもらって、思ったんだ。
告白して、良かった。
一生懸命に頑張って、良かった。
そう、思えたのに。
目の前のこいつはなんだ。
いつもの我が道を行く究極にマイペースな朝霧琢磨はどこに行った?
実央が誰を好きでも、俺は青谷が好きだから、っておしつけがましいぐらいに堂々としてるのが、琢磨じゃないのかよ。
いつも、いつだって、お前は俺のできない事を平気でやってのけたじゃないか。
実央に対して強引で、俺みたいに中途半端に優しくない。
実央の事を思いながらも、決して自分のやりたい事は曲げなかったじゃないか。
自分の思う事を、実央に対してはっきり言ってきたじゃないか。
そんなお前だから、実央は――
「実央が好きな相手が実央と自分よりお似合いだって思うわけ?」
「違う。あいつは、青谷以外の女が好きなはずだ。」
じゃあ、どうして?
いや、その前に、本当に琢磨がおかしい。
言葉には出さなくても、いつも自信満々な琢磨じゃない。
「……じゃあ、お前は何に遠慮してんだよ。俺か?」
「違う。……強いていうなら、青谷の気持ちに。」
バカじゃねぇの。
お前、実央の時言ってたじゃんか。
逃げるのか、って。
お前は逃げてるだけだよ。
憶測の間は、傷つかないから。
自分の気持ちが相手に知られない限りは、傷は浅いから。
実央に散々逃げるなって言ったお前が、逃げるのかよ。
気持ちなんて聞かなきゃわかんねぇって、わかってるくせに。
全ての想いを、俺はたった一言に込めた。
「逃げんなよ。」
その言葉を琢磨がどう受け取ったかはわからないけど、驚いた顔をして、次の瞬間には目にいつもの強さが戻ってたからきっと伝わったんだと思う。
その日の夜に琢磨から、実央と付き合う事になったって報告が来て。
やっぱりなって気持ちと、良かったと思う気持ちと……正直、辛い気持があった。
実央の事は今もまだ好きだけど、琢磨の親友として嬉しいと思う。
そして、いつかきっと、今の想いと同じくらい……もしかしたら、それ以上の想いを持つぐらいに好きな人ができて、実央と琢磨の事を純粋に良かったと思える日が来るのだろう。
リクエスト・牧瀬視点で牧瀬が実央に振られた後の朝霧先輩との絡み。
ありがとうございました^^
振られた後の展開がもうちょっと緩やかだったら他に入れるところがあったんですけど……月曜日に朝霧先輩牧瀬に聞いてないって言ってるし、ここしか入れるところがなかったというw