初めての喧嘩
本編後のお話ですので、本編を読み終わった!という方、どうぞ。
それは私と朝霧先輩が付き合い始めて1ヶ月ぐらいの時の事だった。
「俺の事いつから好きだった?」
「……突然どうしたんですか。」
そう言ったのは、答えたくなかったとかそういうわけじゃなく、本当に突然だったからだ。
デートはデートでも今日は非常に色気のないデートで、例の公園で2人で軽くシュート練習したり、1on1したり。……1on1は朝霧先輩は手加減なしで、ほとんど私が負けてる。
今も私が1on1に負けて、少し休憩に入ったところだった。
私が負けた事を悔しがってて、全くそういう恋人独特の甘ったるい雰囲気もないところで朝霧先輩がそう言った。そう、本当に突然だったのだ。
「いや、なんとなく。」
「じゃあ、答えません。」
どうして今になって、そんな恥ずかしいことを言わなければならないのか理解に苦しむ。
別にいつから好きであろうと今好きであれば問題ない。
「この上なく必要だから答えてくれ。」
……真顔ではっきり言い切るこの人が時々本当にムカつくと思う。
しかしながら、私はこの人の事が好きで、なんだかんだ言ってこの人には甘い。
「実際にいつから好きなんだと言われてもわかりませんが、好きだと気付いたのは……朝霧先輩に疑われて、ショックで……その時は気付かなかったんですけど、その後に由樹と話してて、好きだったから疑われたのがショックだったんだな、と思ったんです。」
「……俺がいつお前を疑った?」
朝霧先輩が反応したのはいつ気付いたかへのものではなかった。
聞いてる事に答えたのだからそちらに反応してほしかったのだが。
「桜華の虐めの時ですよ。さんざん疑ったくせに忘れたんですか?」
「……あれは、姫野が、お前がやったかもしれないと言うから……」
「私がそんな事する訳ないとも思わずに桜華の方を信用して私を疑ったんですよね。」
今更になってあの時の悲しみが蘇る。
「そんな事する訳ないとは思ったが、姫野だって幼馴染なんだ。少しは信用ぐらいしてるから、冗談っぽく言ってたが、もしかしたらという風に思うだろ。」
「私は!」
朝霧先輩の冷静な返答は理解できる……。
私だって、例えば、絶対にあり得ない事だが、今回の事と照らし合わせての例えを言うとすれば、牧瀬が朝霧先輩に理由なく殴られたと私に言えば、冗談だろう、と思う反面、もしかして……という気持ちは牧瀬の事も信用しているから残ってしまうだろう。
それでも、私は、あの時確かに傷ついた。
最初の何をしてる? の質問だけならば、私もそれほどまでに傷つかなかったかもしれない。
でも、朝霧先輩はその後も質問を続けた。
白黒はっきりさせとけば、もう疑わなくていいという気持ちだってわかる。
でも、でも、でも。
私は。傷ついたのだ。
「私は、悲しかった。」
そう言って、理性的ではない自分が嫌になった。
朝霧先輩の行動の理由はわかるのに。
気持ちはわかるのに。
それでも自分が傷ついた事を主張して、一体何になると言うのだろう。
「実央……」
「すみません、頭冷やしてきます。」
私の方にゆっくりと伸ばされた手を避けるように立ち上がったが、逃亡劇は一瞬にして終った。
「ごめん。」
目の前には朝霧先輩の胸。
ほんのりとする汗のにおい。
背中に感じる力強い腕。
そこまで考えて、あぁ抱きしめられたのか、と思った。
「お前が泣きそうな顔をしてた事、覚えてる。だから、ずっと後悔してた。」
そんな事覚えてなくていいのに。恥ずかしいから。
そう思う反面、ずっと後悔していたという言葉に、ずっと残ってた傷が消えていくのを感じた。
「ごめん。」
低い声が耳を打つのが心地よい。
ゆっくりで、でも力強い心臓の鼓動が温かい。
「ごめん。」
もう、わかったから。
そういう代わりに、私はそっと朝霧先輩の背中に腕をまわした。
リクエストにお答えして、朝霧先輩が実央の事を信じなかったことを盛大に反省していただきましたw
番外編のリクエスト、本編に登場した人物で、その後、過程が気になる!という人物がいましたら是非教えてください^^