表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただ……願う  作者:
本編
62/75

第56話



 一応そのまま美登さんを見送って部屋の中に入ると、愛央とお父さんが顔を突き合わせて話し合いをしていた。いや、違った、睨み合いだ。

2人とも何も言葉を交わすことなくただお互いの様子を窺うように見ている。

……4年のブランクのせいか?



「……とりあえず、愛央も美登さんと相談しないといろいろ決められないだろうし、結婚について話すのは愛央と美登さんが話してからってことでいいんじゃない?」



 ほっといたら朝までそのままでいそうな2人に私がそう声をかけると、愛央が私の方に来てぴったりとくっついた。



「……今日は実央の部屋で寝ていい?」


「別にいいけど……」



 こんなに不安げに言われて断れるほど私は非情ではない。

それに、愛央に聞きたい事もある。


 お父さんを避けたようにも見えるが、4年ぶりでどうしていいのか分からないだけだと思う。

お父さんは思春期になって娘に避けられた父のようにショックを受けてるけど。

まぁ、土曜日と日曜日、まだ時間はあるのだから、ゆっくりと取り戻していけばいいだろう。



――――――



「ねぇ、実央は私と和樹さんの事、どう思う?」


「どう思うってどういう意味?」



 先に愛央がお風呂に入って、その後私が入ったのだが、私がお風呂から出てくるなり愛央は私にそう問いかけた。

濡れた髪の毛を軽くタオルで拭きながら質問に質問を返すと、愛央は今日の家族会議に発展した議題について口にした。



「結婚の事とか、そういう事で……」


「まぁ、最終的には愛央と美登さんが話し合って決めればいいと思うけど、私はお父さんの気持ちもわかる。だから少しでいいからここで生活して、それから美登さんと結婚ってことでもいいと思う。」



 そっかぁ、と愛央は小さく呟くと、私の部屋の空いているスペースに敷いた布団にごろんと寝転がった。天井をじっと見つめている姿を見て、悩むときにする行動が同じなのかと思って、少しダメージを受けた。



「……私にもね、この家で、お父さんや実央と……玲衣と、もっと生活したかったなぁって気持ちは、あるの。でも、和樹さんと結婚したい気持ちもあって……」


「それを素直に美登さんに言えば? 受け入れてくれないほど器の小さい人じゃないと思う。」



 あの腹黒さがあれば大抵の事は受け入れられるだろうと私は踏んでいる。

いや、腹黒さと器のでかさが関係あるのかと言われれば答えにくいが、腹の中でいろいろ考えている人間はそれだけ受け入れる範囲も広いのではないかと勝手に思っているのだ。


 それに、腹黒くても待ってくれるというのはそれだけ愛央のことを想っているのだろ思うし。

愛央だって見る目がないわけじゃないんだからそれぐらいわかっているだろう。



「うん……そうだよね! 和樹さんとちゃんと相談してみるよ。」



 そうはっきりと宣言した愛央に少し安心。

こうと決めれば愛央はしっかり行動できる人間である。


 愛央の話が一段落して、私は愛央に言うか言うまいか迷ったが、一度聞こうと思ったことだし、と思い、愛央に話しかけた。



「……あのさ、愛央に聞きたい事があるんだけど。」


「なになに? 実央が私に相談なんて珍しい!」



 嬉しそうに近づいてくる愛央に一瞬相談するのをやっぱり止めようかなとも思ったのだが、愛央以外に誰に相談していいのかも特に思い浮かばないので、結局ため息を一度ついてから口を開いた。



「……愛央は、どうして美登さんを好きだと? ……いや、その前にいつから玲衣の事が好きじゃなくなった?」



 愛央はそんな事を聞かれるとは思わなかったと言わんばかりにきょとんとした。

少しだけ考えると、愛央は肩をすくめて笑ってみせた。



「そんなのわからないよ。いつの間にか。」



 今度は私がきょとんとする番だった。

いつの間にかって……そんなものなのか?



「いつからって、言っちゃえばその時からな気もするけど、それよりずっと前から好きだったような気もするし、和樹さんを好きって気付いた時にあぁもう玲衣の事は好きじゃないんだって思った気もするし、朱音ちゃんの存在を知った時にはもういいかなって思ってたような気もするんだよね。だから、いつからなんてわからないよ。」


「きっかけとか、そういうものとかない訳?」



 私の問いかけに愛央はおかしそうに笑った。



「そんなのはっきり分かるのなんてドラマとかマンガぐらいのもんだって!」



 ……そんな、ものなのか。

つまり、理由や原因、いつからかと言えば、そうなのかもしれないが、それはしょせん後付けにしか過ぎないということか。

でもそれじゃあ私の疑問に答えは出ないままである。



「実央がこんなこと聞くなんて……恋愛がらみで悩み?」



 そう聞いた愛央の声がそれまでの茶化すようなものじゃなくて、思ったよりも真面目だったから、私は言うつもりのなかった自分の事を話していた。



「……牧瀬に告白された。」


「牧瀬君が! ふーん、そっかぁ。ついに堪え切れなくなったんだ。」



 あえて、いつから気付いていたのかは問わなかった。

あのふざけたような態度がすべて真実だとすれば、それは愚問だから。



「私は牧瀬を恋愛対象に見たことはないと告げた。でも、牧瀬はせめて私に好きな人ができるまでは粘らせろと言った。……それを否定する権利は私にはなかった。」



 愛央はただ私の話を静かに聞いていた。

何も言わずに、聞いてくれた。



「私にはわからない。牧瀬の事は大切だが、それは他の朱音達に対してのものと全く同じ気持ちで、牧瀬の言う好きというものではない。何を持って恋愛の好きとする?」



 すぐには答えは出てこなかった。

やがて、ゆっくりと口を開いた愛央は、静かな声で言った。



「一緒にいて楽しいとか、幸せだとか、安心するとか。抱きしめてほしいとか、抱きしめたいとか、月並みの言葉はいっぱいあるけど、それじゃたぶん実央は納得しないんだと思う。」



 愛央の言う通りである。

そう答えられれば、私の中に残る疑問は「じゃあ、大切と好きの違いって何だ?」である。



「私は……和樹さんに見返りを求めた。私が大切と思うだけ大切と思ってほしい。私が好きだと思う分だけ好きだと思ってほしい。私が和樹さんを信じる分だけ私を信じてほしい。」



 少しだけ愛央は恥ずかしそうに笑った。

言ってる言葉は綺麗じゃないのに、その笑顔はとてもきれいだった。



「友情は……あと本気じゃない恋も、同じ分の気持ちを返してくれなきゃ離れちゃうって人もいるけど、本気の恋愛ってそうじゃないと思う。気持ちを返してほしくて、返ってこなくてそれでもどうしようもなくその人が大切で、でもやっぱり気持ちを返してほしいの。」



 愛央のことで本気で別れると泣くのに、それでも別れず玲衣を好きでい続ける朱音。

 牧瀬から何の気持ちも返ってこなくて歪に笑い、今にも壊れそうだった姫野。

 私の事を好きだと聞いて苦しそうだったのに、それでも牧瀬に対して顔を赤く染める志乃子。


 みんなとても辛そうで、それなのに追いかける。

もうやめればいいと思うのに、想い続ける。

泣いて、泣いて、泣いて、許さないといっても、許してしまう。

それが、恋と言うのだろうか。


  私は……? 牧瀬が私から離れて行くのかと思った時、どう思った?

仕方ないと、悲しい気持ちはあったけれども、仕方がないとそう思った。

私の大切は、見返りを求めていない。


 はっきりと出た結論を胸の中にしまって、私は小さく呟いた。



「見返りを求めるのが恋愛……ね。綺麗じゃないな。」


「そんなものだよ。綺麗な恋愛なんてないもの。」



 ドラマや映画みたいに綺麗なものじゃない。

でも、何故かそれがとてもきれいなものに私には思えたのだった。



 何が「恋」かは人によって違うと思います。

私の中で一番ピンとくる定義は「見返りを求めるもの」でした。

皆さんの「恋」は何ですか?^^

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ