第53話
昼休み、予想もしないハプニングに襲われたが、私はやるべきことを見失ったりはしていない。
放課後に残ろうかどうか迷ったが、とりあえず、あくまでも朝用意しているとふんで、私は次の日もう一度朝早くに学校に来た。
「……なるほど、犯人は牧瀬の事を好きな奴か。」
わかりやすい、わかりやすすぎる。
昨日の今日で私のスリッパに姫野と同じように画鋲があったのだ。
そして、今日は姫野のスリッパに問題は無し。
間違いない、昨日の公開告白でターゲットを私に変えたに違いない。
「でも、それじゃあ範囲が広すぎるよな……。」
あの後悔告白は瞬く間に噂になった。
私と牧瀬が同学年ならばその噂は私たちの学年で止まっただろうが、私は1年、牧瀬は2年ということで2学年全体に噂は広がることになった。
つまりこの虐めの犯人と考えられるのは1年か2年の牧瀬の事を好きな女子ということだが、誰が牧瀬を好きだなんてわからないし、ましてや2学年となればさっぱり見当がつかない。
現行犯で捕まえなきゃ、推測で見つけるのは難しそうだ……。
しかし真剣に恋愛が絡むと女というのはややこしい。
高浜達の時の虐めというものが大したものではなかった――まぁあの男をけしかけるのは別として――のは、どちらかと言えば生意気な私が気に入らないという色の方が強かったためであろう。
「……やっぱり、あんたがターゲットに変わったんだね。」
どこかで聞いたことがある声に顔をあげると、そこにはついさっき思い出した人物……高浜がいた。
困ったように、彼女は私の手元を見つめていた。
「……やっぱりとはどういうことだ?」
一瞬高浜がやったのかと疑ったが、そう考えるとまず私に話しかけたことがおかしいし、話している内容もおかしい。
彼女の言葉は……犯人を知っているかのように聞こえる。
「……あの子が犯人って決まったわけじゃないけどさ。あんたを虐めてた時に私と一緒にいた2人のうち片方が……髪の短い方ね、穂波って言うんだけど……本気で牧瀬の事を好きなの。でも、最近ちょっと様子がおかしくて……そしたら昨日偶然あんた達の話を食堂で聞いてて、姫野ちゃんが虐められてるって言うじゃない?だから……もしかして、って思って。」
彼女の目は純粋に友人を心配する目だった。
彼女にはいろいろ迷惑被ったが、だからと言ってこうやって私が関わらされたという状況であっても、この事態に関わってしまったのだから、知らないふりをすることはできない。
小さくため息をつきながらも、私は黙って次の高浜の言葉を待った。
「それで、今日朝早く来てみて……穂波がいるのも見たんだけど、もう1人見かけて。」
高浜は続く言葉を一度躊躇って、私を伺うように見てきた。
そうされても私には何のことかわからないので促すように頷くことしかできなかった。
「あんたの友達の……志乃子って言う子もいたのよ。」
その言葉は今回の事件の容疑者が二名いる事を示していた。
……そして、私の友達が私を裏切っている可能性も。
しかし、違う、はずだ。
「いや……志乃子は牧瀬の好きな人が私であることを、昨日の告白以前より知っていた。そう考えると、姫野が虐められてたことがおかしくないか?」
志乃子の好きな人が牧瀬だとはっきりと確認したわけではないが、おそらくそうである。
そして、志乃子は好きな人に事実上振られたと”私”に言いにくそうにした。
つまり、好きな人から私が好きだと聞いた可能性が非常に高いということだ。
それなのに、姫野を一度虐めるという行為には矛盾が生じる。
「わからないわ。……全部が演技で、全部がカモフラージュかもしれない。」
全てが?自分を容疑者から外すための演技で、カモフラージュ?
彼女が、そんなに器用な人間だろうか。
その人間性さえも演技だというのだろうか?
……私が、志乃子の全てをわかってるなんて言わないし、言えない。
でも、少なくとも志乃子のことを信じてる、決して疑いたくない。
大切な人を疑うような人間になりたくない。
「私は志乃子を信じてる。だいたい、そうやって全てが嘘かも知れないなど言いだすと、お前の味方面も私を騙すための嘘に思えてくるのだが。」
私の言葉に高浜は苦笑した。
確かにそれを言い出したらきりがないわよね、と。
「まぁ、実際私としては穂波が怪しいと思ってる。男があんたをボコりにいったのあったでしょ?あれ本当は軽く脅すぐらいに文句言ってくれたらいいって言ってたんだけど、穂波が私達に内緒で話を大きくしてボコボコにしてほしいって頼んでたみたいで……あんたが無事なのを見てホッとしたぐらい。」
あの一連の虐めの中から飛びぬけて危ないと思われるやつか。
……あの時、大したこととして扱っていなかったが、もしかして想像以上に物凄くピンチな状況に置かれていたのか?
朝霧先輩が助けてくれてなかったらヤバかった?そもそも先制攻撃してなかったら終わってたな。
「あの子の牧瀬への執着のしかたは異常よ。……まぁ、彼女にもいろいろあるんだろうけどさ……。」
高浜の含めたようないい方が少し気になったが、そんな風に話している時間ももったいない。
こういう面倒なことは私の平穏な学校生活のためにもとっとと終わらせるに限る。
「……行くか。その穂波ってやつのところに。無駄に長引かせるのも面倒だ。まだ人が来る時間ではないだろう。」
「……あんたって予想を裏切らない人間よね。」
その言葉は褒めているのか貶しているのかは微妙なラインだった。
本当は一気に虐めの結末まで書こうと思ったのですが、そうするとちょっと長めになるので、一話焦らしてみました^^
一話しか焦らせない原因は主人公のさっさと終わらせたがる性格が主な原因かと……w
高浜は登場させたとき、こんなに最後の方まで出てくる人のはずではありませんでした。
何だろう……無駄に印象が強かったのかな?