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ただ……願う  作者:
本編
56/75

第51話

 

 あの後の志乃子の話をまとめるとこうなる。


 先日いつもより早く学校に行くと、そこにはスリッパをしかめっ面で睨んでいる姫野がいた。

何があったか聞くと、何でもないとしか答えなかったらしいが、姫野が立っていた近くには画鋲が散らばっていた。

慌てて姫野を追いかけて教室に向かうと、そこには外に出された姫野の机と椅子があった。

途中で姫野はどこかに寄り道していたのか来る様子はなく、とりあえず机と椅子は志乃子が元の場所に戻したそうだ。


 まぁ、十中八九虐めだろう。

おそらく散らばっていた画鋲はもともと姫野の靴に仕込まれていたものと考えられる。

……それをそこら辺に放ってしまう姫野もどうかと思うが。

 

 しかし私が受けていたものより随分悪質なように思われる。

相手が姫野だからか、それとも私の時とは虐めの質が違うのか……。

それとも、その両方か。


 どれにしても私は姫野への虐めを止めなければならない。

護衛をしろと、そう頼まれていたのだから。

牧瀬達が予想していた形のものではなかっただろうが、まぁどっちにしろあいつらが願っていたのは姫野がこの学校で平穏に過ごすことであるのだろうから、この虐めを止める必要があるだろう。


 それに……今の姫野は、嫌いじゃない。


 とりあえず姫野が虐めにあっている現場に遭遇できればいいかと思い、いつもも早めに出ているのだが、それよりもさらに早めに家を出た。

……しかし、早く来すぎたらしい。

学校はとても静かで、げた箱に姫野らしき姿も見当たらない。


 やってしまったな、と思いながらも姫野の靴箱を見ると、そこには針が上向きにされて置かれているスリッパが……。

スリッパに糊か何がで接着されてるようで、ベリッと音をたてて画鋲はスリッパから外れた。

若干スリッパに粘着性の残った物体が残っている。

……姫野の寄り道はおそらくこれを洗い流すためのものだろう。

それにしてもこの画鋲はどうしたものか……。とりあえず、カーディガンの中にでもしまっておくか。

スリッパについてるものも流しといてやろうと姫野の靴箱からスリッパも持っていった。


 途中で糊を洗い流した後、教室に向かうと姫野の机と椅子が外に出されていた。

全く……こんなことをする時間があるのならば、その時間をもっと別の有益なことに使えばいいのに。

そう思いながら、私はよっこいしょと机と椅子をもって教室に運ぼうとした、その時。



「何をしてる?」


「朝霧先輩こそ、こんなに早くどうしたんですか?」



 姫野の机と椅子を廊下で持った状態で立っている私を、朝霧先輩は疑いの目で見ていた。

そして、それが思いのほかショックだった。



「俺の質問に答えろ。」


「……志乃子から、姫野が虐められてるみたいだって聞いたから、様子を見に来ただけです。」


「見に来ただけならどうしてお前が姫野の机を持ってる? どうして姫野のスリッパを持っている?」



 ……確かに、朝虐めの仕込みをしに来た人間に私は見えなくもない、が。

正直、朝霧先輩には信頼されていると思っていた。



「見に来ただけじゃなくて少しお節介も焼いてしまった、ってことですかね。」



 そう言っておどけるように肩をすくめて見せた。

朝霧先輩に疑われて、多かれ少なかれ傷ついたなんて見せたくなかったから。



「そうか。」



 朝霧先輩は言葉と同時にほっと安堵のため息をついた。

その安堵が、私が犯人ではなかった事か、今日は朝来ても姫野が傷つかずに済む事か、どちらに向けられているかなんて考えるまでもない。


 沈黙が訪れるのが何となく嫌で、次の瞬間には意図せず、冗談のように話ながらも、本心を話していた。



「……大切な人を傷つけられるのが許せないのはわかりますけど、こうも疑われるとは心外です。」


「いや、疑ったわけではないんだが……。」



 大切な人のところは否定しないのか。

やはり、朝霧先輩はそういうことなのだろう。

姫野は牧瀬に振られたところだから弱っている今がチャンスですよ、なんてことは言わなくてもわかってるか。



「とりあえず、私は机と椅子を教室に戻しておきますから、朝霧先輩はスリッパをげた箱に戻しておいてください。」


「あぁ。」



 別に、朝霧先輩だったから、と言うわけではない。

きっと牧瀬でも、朱音でも、志乃子でも、愛央や玲衣や、それこそお父さんとか、自分が信じている人に自分の事を疑われると言うのは思いのほか傷つくものである。


 恋愛と言うのは、時に他の信頼関係を曲げてしまうのだろうか。

……それとも、単に私が朝霧先輩を信頼するようには朝霧先輩は私の事を信頼してくれてなかっただけ、なのかもしれない。



「……泣いてる、のか?」


「――っ! スリッパ! 戻しに行ったんじゃ……。」


「戻しに言った後にここ着たらお前がまだ突っ立ってた。」



 私は思いのほか長く悩んでいたらしい。

そして、朝霧先輩の言葉が気になってそっと自分の頬に触れた。



「……泣いてませんが。」


「でも、泣きそうな顔をしていた。」



 どうだろう。

でも、泣きたいぐらいに悲しい気分ではあったからそうなのかもしれない。



「俺のせい、か?」


「そうかもしれませんね。」


「すまない……。」



 私が珍しく、最初から最後までふざけた調子でおどけてみせてるというのに、朝霧先輩が真面目に謝ったりなんかするから、私は何を言えばいいか分からなくなった。


 二人の間を沈黙が支配した。

朝霧先輩は私の言葉を待っている。

それがわかっていても、私はただ机を見つめるだけ。



「人の机囲んで何やってんの?」



 棘のある言い方に顔をあげると、そこには姫野が不機嫌そうな顔をして立っていた。



「あぁ……悪い。そういえばまだ元の場所に戻してなかった。」


「いいわよ。自分の机ぐらい自分で運ぶわ。」



 そう言って姫野は私を押しのけると奪い取るように机を掴むと運ぼうとした、が。

その手をそっと朝霧先輩が抑えて、俺が運ぶとだけ言って、机を元の場所に戻しに教室に入っていった。



「で、何? あんたが犯人だったの?」


「違う。志乃子が姫野が虐められているようだと言ってたから気になってきてみただけだ。」


「……変なお節介しないでよね。」



 姫野は同情されるのはごめんだと言わんばかりに私をキッと睨みつけたので、私は淡々と姫野の思い違いを指摘した。



「別に、お節介を焼いたわけじゃない。牧瀬と、朝霧先輩に姫野の事を頼まれてたのを思い出したから、気になってきただけ。」



 私の言葉に姫野は虚をつかれたような顔をしてから、苦笑した。

その苦笑はまるでお母さんがどうしようもない子供にするようなもので。



「あんたって、ホントにどうしようもない人間よね。」



 なんてまで言われてしまったのは少しばかり心外。

いったいどの言葉をどう拾えばそんな言葉が出てくるのか私には謎で仕方なかった。

そしてもう一言、姫野は私に言葉を残した。



「私、男だったら、あんただけは絶対彼女にしないわ。」



 その言葉をどんな気持ちで姫野が言ったのか、やっぱり私にはわからなかった。


 朝霧先輩最低!

……という言葉はどうか収めてください(汗

朝霧先輩には深い事情が……ある、はず←


 姫野の言葉の意味、わかったでしょうか?

お礼小説にこの話の姫野sideか、朝霧先輩の深い事情(……か?)のどちらかを書こうと思っているのですが、どちらがいいでしょうか?


 ちなみに姫野の言葉の意味はのちのちわかる……予定←

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