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ただ……願う  作者:
本編
50/75

第45話



「真君……」



 姫野は牧瀬の名前を呼んだかと思うと私の隣を走り去った。



「真君っ!」



 意を決して後ろを振り向くとそこには牧瀬に抱きついた姫野と、朝霧先輩もいた。



「……何があったの?」



 私と高浜達がもめた時のような顔をしているのだと思っていた。


 しかし、その予想は外れていた。

牧瀬は苦しむような困惑したようなそんな表情を浮かべていた。

抱きついている姫野にその手はまわされることなくただ中途半端な位置で拳が握られていた。


 だから、迷った。

牧瀬に私は何を言えばいいのかを見失った。



「答えて、実央。桜華が嫌いってどういうこと?」


「……私は姫野が嫌いだと言ったわけじゃない。姫野みたいなやつが嫌いだと言った。」


「俺が聞きたいの、そう言うことじゃないってわかってるよね?」



 何かあった時、私に対して強く追及するのは朝霧先輩の方が多かったように思える。

牧瀬はどちらかというと、場を取りなし諭すような雰囲気で話していた。


 それが、今。

牧瀬は優しい雰囲気を一切消し、私に対して強い追及をしている。



「牧瀬。お前は……姫野が大切か?」


「そりゃあ、幼馴染だし、長い付き合いだから桜華の事は大切に思ってるけど……って、そうじゃなくて、俺の質問に答えてよ。」



 本当に聞きたかった問いは言葉にできなかった。



 ――――私と姫野、どちらが大切だ? 



 愚問だ。大切な度合いは難しい。

私だって朱音と志乃子を天秤にかけることはできない。


 そういう意味でもそれは愚問であったが、私と姫野を比べるという意味でも愚問である。

付き合いの長い、誰かにその保護を頼むほどに大切な幼馴染と、可愛げのない私では比べる価値を持たない。


 だから、私は決めた。



「言葉のままだ。私が姫野を嫌いだと思っている。それ以上にその言葉に意味があると思うか?」


「……最初の質問は? 何でそんな事言うの? 何があったの?」



 答えに、困った。

真実を言うわけにはいかない。でも、上手い嘘が見つからない。



「み、実央ちゃん……ご、ごめんねっ?」



 姫野がいつ間にか牧瀬の胸から顔をあげてこちらを向いていた。

その瞳はまだ涙が光っていたが、勝利の色に染まっていた。



「私が実央ちゃんの気持ち考えないで行動して……それが嫌だったんだよね? 実央ちゃん、私のこと鬱陶しいって言ってたんだもんね。」



 そんな事を言った覚えはさっぱりないのだが。

さすがに反論しようかどうか迷っていると、牧瀬に痛いぐらいに腕を掴まれた。



「なんでだよ、実央……否定しろよ!」


「……そうだな。鬱陶しいと言った覚えはない。が、姫野の行動が嫌だったことは確かだ。」



 ギュッとより一層強く私の腕が握られる。

痛みに思わず眉間にしわを寄せてしまった。

その表情を見た朝霧先輩が牧瀬の手を私の腕から引き剥がした。



「真、落ち着け。青谷の話は俺が聞いとく。」



 しばらく、牧瀬と朝霧先輩の睨み合いが続いた。

しかし数秒後、牧瀬の方が視線をそらすことでそれは終わった。



「……行こう、桜華。」



 姫野とともに去っていく牧瀬の背中を見ていると急に後悔が湧きでてきた。


 朝霧先輩は何も言わない。

私も何を言えばいいのかわからない。


 二人の間で流れる沈黙はより一層後悔の念を強くしている気がした。



 朝霧先輩は私の言葉を待っているのか。

それともわたしの行動に呆れたのか。


 ……冷静に判断すれば、きっと前者だろう。

そう思って私は言葉を探しながら口を開いた。



「私は……私の、選択は……間違っていたんでしょうか。」


「……どうだろうな。あいつはバカだから……どっちにしてもあいつは傷ついたとは思うけどな。」



 そう言った朝霧先輩の声に私を責める色は無く、突然に泣きたくなった。



「……やっぱり、傷つけてしまったでしょうか。」


「……あぁ。」



 傷つけた。

彼の信頼を私は裏切った。



「……真じゃなくて悪いが、俺の肩か胸でいいなら貸してやるぞ。」



 うなだれる私に朝霧先輩がそう言った。


 朝霧先輩がそんなこと言うとはという驚きとか、これは笑うところなのかとか、いろいろ考えたけど、思ったよりも心にダメージを受けてたらしく、私は何も反応せず、朝霧先輩の肩にそっと頭を寄せることしかできなかった。


 さわさわと校舎裏に生い茂った木々の鳴る音が、朝霧先輩のどこか安心するような香りが、私を慰めてくれているというのは私の思い違いだろうか。



「……お前は……」



 今までになく優しい声音で朝霧先輩は小さく囁いた。



「お前は、お前らしくいろ。」



 わかってる。後悔なんてらしくない。

それより今後どうすべきか冷静に考える方が私らしい。



 でも……ふと思い出してしまった、

まだ牧瀬と出会って間もないころ。


 あいつは私を友達だと言って、怒ってくれた。

傷ついてないというのは自分を騙してるだけだと言って。

私を傷つけるような事をしてほしくないと言って。


 それからしばらくして、私は牧瀬は友達だと思うようになって。

なのに……私は……



「傷つけたくなんてなかったのに……」



 どっちを選んでも牧瀬を傷つけてしまう事はわかっていた。

でも、私の方に裏切られる方が随分と傷は浅く済むだろうと思っていたのだ。

しかし、牧瀬は十分に傷ついた顔をしていた……。



「……お前はどっちの選択をしても、きっと後悔したと思うが……」



 そうだろう。

もう1つの選択をすれば、自己保身のために牧瀬を傷つけてしまった事を後悔するのだ。



「俺はもう1つの選択の方が良かったと思うがな。」



 ……この人は、私の心にそんなにダメージを与えたいのだろうか。

フォローしてくれる牧瀬がいない今、朝霧先輩がフォロー役に回ってくれたっていいと思うのだが。


 ムッとした気持ちがそのまま顔に出ていたのだろう。

朝霧先輩の肩から顔をあげて睨むように見ると、朝霧先輩はにやりと笑った。



「お前はそういう顔をしてる方が似合うぞ。」


「余計なお世話です。」



 なんて伝わりにくくて不器用な慰め方。

こんな言葉しか返せない私も相当不器用なのかもしれないが。


 けど、朝霧先輩は次の瞬間には真顔になってそっと私の頭を抱え込むように抱いた。



「まぁ、今だけ、思いっきり落ち込め。」



 思いっきり落ち込めって……

朝霧先輩らしい表現にほんのりと温かい気持ちが広がった。




 その日の夜。一通のメールが届いていた。

……牧瀬から。


 一度大きく息をついてから私はそのメールを見たのだが……



『明日、デートしよ!(はーと)』



「…………は?」


前回に引き続き微妙なところで終ってます^^;

できるだけ早く更新できるように頑張ります!


感想・評価等頂けると嬉しいです。

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