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ただ……願う  作者:
本編
48/75

第43話


 そして一晩たった朝。


 私と志乃子は登校途中に偶然に出会い、一緒に学校まで歩いた。

学校の校門近くまで来ると、そこには姫野がいた。



「あ! 桜華ちゃん!」


「あ、志乃子。おはよー。」



 姫野は綺麗に笑ったが、一瞬私が志乃子のそばにいるのを見ると不快そうな顔をしたかと思うと、志乃子を近くに呼ぶと、何か小さな声で話した。

すると、志乃子は小さい声で話す姫野に構わず、普通に話す音量で言葉を返した。



「あ、それなんだけどね、誤解なの。」


「え……?」


「桜華ちゃん、誤解してるでしょ? その噂やっぱりデマだったみたいだよ?」



 志乃子の言葉に姫野は一度完全にフリーズした。

が、すぐに思い直したように口を開いた。



「そっかぁ。ごめんね、実央ちゃん。嫌な思いしたよね?」



 にっこりと笑う姫野に得体のしれない恐ろしさを感じる。



「いや、別に気にしてないからいい。」


「そう?」



 姫野の瞳の奥に怒りのようなものを感じた気がした。


 それが気のせいではないとわかったのはそれから数時間後の事だった。





 その日私は運悪く放課後、担任に掴まってしまった。



「悪いな、青谷。この資料の整理、頼んだ。」



 悪いと思うなら頼まないでほしいと思うのは私だけだろうか。


 朱音に手伝ってもらおうかと思ったが、残念ながら今日は玲衣が迎えにくる日。

わだかまりがきれいさっぱりなくなった2人のデートを邪魔するほど私は無粋じない。

志乃子は部活だし、仕方なく一人で資料室で頼まれたものの整理をすることになった。


 整理しなきゃいけない資料は結構な量で、思ったよりも時間がかかってしまった。

終わったころには下校時刻が近付いていた。


 志乃子達もそろそろ部活が終わって片付けでもしてる頃か、などと思いながら帰る支度をしてる途中、明日提出の課題プリントを教室に忘れた事を思い出した。



「……はぁ。」



 私はため息をつきながら階段をもう一度登っていく羽目になった。



 教室の前までたどり着くと、人の声が聞こえた。

吹奏楽が荷物置きに使ってる教室は隣の教室だったはずだが……。


 耳を澄ませばその声はよく知った声だった。



「話が長い? そんなの私の知ったことじゃないわっ! 私はストレスたまってるんだからそれぐらい我慢しなさいよね!」



 ……立ち聞きはよろしくないということはわかっているんだが、ここで何食わぬ顔をして教室に入れるほど空気が読めないわけでもない。



「だいたい何なのよ、あのバカっ! 誰にも言うなって言ったのに何で本人に言ってんのよ!? あの女もそれで攻撃的に来ればこっちがか弱い乙女演じることもできるっていうのに、人を食ったような態度しかしないし!!」



 あの女って……私の事だよな、うん。

これって私が見つかったら非常に面倒なことになるんじゃ……。

よし、いいや。この際課題は諦めて…………


 そこまで考えて面倒な事を思い出してしまった。

別に私があの子のフォローをしてやる義理はないんだが……仕方ない。


 意を決して私はドアを開けた。



「本当にウザ―――っ!」



 私の姿を見た姫野は言葉を途中で切ると持っていた携帯電話をポトリと落とした。

驚愕、呆然……そんなような言葉がぴったりの顔をして姫野は固まっていた。


 私は何事もなかったかのように『桜華!? どうしたの??』という声が聞こえる携帯を姫野に手渡すと、自分の机にむかい、目当ての課題を取った。



「ごめん……また掛けなおすよ。」



 ショックから立ち直ったのか姫野はそう言って電話を切ると、教室から出ようとする私を呼びとめた。



「ちょっと!」


「……なんだ?」



 そのまま何もなかったように帰りたかった私はうんざりして振りむいた。


 振り向いた先にいた姫野は今まで見た事のない表情をしてた。

どう表現すればいいだろう……言うなら、そう人をすべて見下したようなそんな表情だった。



「言っとくけど、真君達に告げ口無駄だから。」



 強い口調で言ってはいるが、裏に不安が見え隠れしているように思えてならなかった。



「そう。」



 告げ口に興味のない私に言われても返す言葉はそれしかなかった。


 告げ口なんてしないから安心すればいい、と言う気持ちを込めて言ったつもりだ。

何故はっきり言わないのかって?そんなことを言えば火に油を注ぐ結果になることは目に見えている……そう、それこそさっき彼女が言っていた「人を食ったような態度」に見えるのだろう。


 しかし残念ながら言外に込めた気持ちは伝わらなかったようで姫野は更に念を押すように続けた。



「あんたより付き合いの長い私の事を信じるに決まってるでしょ? なんならやってみてもいいけど、あんたが打ちのめされる結果になるだけだと思うけど。」


「良かったね。じゃあ。」



 どんな言葉を言っても安心しないだろう姫野に私は適当に言葉を返して帰ろうとした。



「待ちなさいよ! なんか私に言うことないわけ?」



 おそらく、私が悪いのだろう。

普通、こういうシーンを見てしまった場合、驚いたり怒ったりするべきなのだろう。

しかし予測出来すぎていたというか、これが志乃子なら衝撃だが……。



「特にない。じゃあ。」


「ちょっ――」


「あんたもさっさと帰った方がいい。」



 それだけ言い残すと後は反論される前にピシャリとドアを閉めた。


 教室から出ると隣の教室へ向けて歩いてくる吹奏楽部が目に入った。

姫野の怒鳴り声はもう聞こえてこない。


 私は安心してその場を立ち去った。

私のその行為が余計に姫野を怒らせるとも知らずに。


ついに姫野の本性が!

一瞬これ姫野じゃなくて志乃子だったらすごい予想外だよなーと思いつつ、そんなことをするといろいろと辻褄が合わなくなるのでやめましたw


遅い更新ですみません;;

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