第41話
昼休み、昼食を食べ終わった後、特にすることもなくて、朱音と中庭をうろついていた。その後、志乃子と偶然会って合流したまでは良かったんだが……
「みーおー!!!!」
あぁ、この叫びは久しく聞いてなかった気がする。できれば一生聞きたくなかった。
何を間違えた?あぁ、そうか、中庭に来たのが間違いだったんだ。やけに朱音が中庭に行くのを押すなぁと思ったらこれが目的か。
朱音の方をチラリと見ると、明後日の方向を向いていた……。
「実央っ!文化祭の時は従兄君ばっかりにかまって俺の事全然かまってくれなかったよねっ!寂しかったよ!!」
いや、知らないし。構いたくないし。っていうか、友達発言以来、こいつ馴れ馴れしさが前よりも増してないか?
「何の用―――」
「あれー??君、女バスの子だよね?」
何の用だ、さっさと帰れ、という言葉を見事に遮って牧瀬は私の後ろにいる志乃子に話しかけた。
「あっ、はい!あ、あの、ま、牧瀬先輩……ですよね?」
志乃子の目はキラキラと輝いていた。
あー…そう言えば、牧瀬一応男バスのエースだっけ。
そりゃ、憧れるよな。
「うん、そーだよ。君は何て名前?」
「え、あ、み、宮沢志乃子です!」
「宮沢ちゃんかー」
ニコニコと笑う牧瀬に顔を真っ赤にしている志乃子。
……案外、お似合いじゃないか?ほら、人気者ヒーローと消極的ヒロインって結構定番だと思うのだが。
「あっ実央ちゃん達だぁ。中庭にいるなら一緒にお昼食べたらよかったのに~」
ニコニコと笑顔を振りまきながら姫野はやって来て、自然に牧瀬の横に立った。
「お昼食べてからちょっと中庭散策に来たの。」
志乃子も私も姫野への対応は完全に朱音に丸投げしている。
「青谷。」
突然聞こえてくる低い声に思わずビクッとなってしまう。
この人が神出鬼没なのはわかっているのに、突然聞こえてくる声にいつもびっくりしてしまうのが、妙に悔しい。
「髪に葉っぱついてる。」
朝霧先輩はそう言うと私の髪から一枚の葉っぱを取ってひらりと宙に投げた。
「ありがとうございます……。」
で、朝霧先輩はいつの間にそこにいたんですか?と聞こうとして止めた。一応、姫野の前だし、姫野は朝霧先輩を好きだと言ってるわけだし……。
私がチラリと姫野の方を向くと、姫野は一度牧瀬を見上げてから、朝霧先輩の方へと来た。
そして、その行動を見て私は姫野の気持ちを確信した。
「琢磨君っ。あのね…」
「琢磨ーアイス食べない?」
牧瀬と姫野の声が被り、声の大きい牧瀬の方の言葉がはっきりと通った。
「あぁ、食う。…姫野、なんか言ったか?」
「ううん。なんでもないよ。」
少し寂しそうに笑う姫野。
彼女は完璧だった。
「あ、アイス私も食べよっ。」
「あ、私も……」
牧瀬達に便乗して朱音と志乃子がそう言った。
朱音はこちらを見て、問いかけてきた。
「実央達は食べないのー?」
「私はいい。ここで待ってる。」
「私もいいや。お腹一杯。」
姫野と一緒に待つのか……嫌だとは言わないが、気が進まない選択ではあるな。
しかし、一度食べないと言ったのに今更ついて行くのもどうかと思うし、姫野も一人で残るとなればついてくるだろう。そう思って、結局何も言わずに姫野と2人になった。
「……ねぇ、もしかして実央ちゃん気付いてる?」
「何に?」
「気付いてないならいいんだけど……」
彼女の言葉は演技か本気かがイマイチ見分けにくい。どれもが演技のようでどれもが本気のようにも見える。
姫野の言葉が演技である可能性もわかって、私はほぼ確信している事を言った。
「本当は朝霧先輩じゃなくて牧瀬が好きだってこと?」
「……やっぱり、バレちゃった?」
姫野は少女マンガのように突然人格が豹変するということもなく、悪戯がバレた時の子供のように笑ってみせた。
彼女はいつも完璧に朝霧先輩の事が好きなように見えた。でも、彼女は必ず牧瀬の反応を確認していた。そう、彼女は牧瀬に朝霧先輩を好きなように見せたかったのだ。
「どうしてそんな回りくどいことをする?」
「……真君ね、今までみんな好きな人がいる子を好きになってたの。だから……私もそうなれば、真君の対象内に入れてもらえるかなって……バカだよね。」
彼女は…………
「お前は何がしたい?」
私からの慰めの言葉か、応援の言葉か、そんな言葉を期待していたのだろうか。
姫野は私の言葉に呆然としていた。
「お前は―――」
畳みかけるように言おうとして、やめた。
朱音達が戻ってきたから。
「何買って来たんだ?」
立ちすくむ姫野を置いて、私は朱音に近づいた。
「チョコ! いる?」
「もらう。」
アイスはいらないんじゃなかったのかって?
アイスを1個一人で食べようとは思わないけど、一口なら欲しいと思うものだ。
「あーいいなぁ、やっぱりチョコにすればよかったかなぁ。」
朱音のチョコアイスをじっと見つめながら自分のバニラアイスを見つめる牧瀬。
「牧瀬先輩も一口食べます?」
「……んーん。いいよ。木島ちゃんの彼氏に殺されそうな気がするから。」
カップアイスだから、牧瀬の棒スプーンで食べれば、間接キスにもならないし、とくに問題なさそうに見えるが……ダメだろうな。
バレたら怒りそう、うん。
朝霧先輩のアイスは牧瀬と同じバニラ。
志乃子は……
「あ、あのっ…牧瀬先輩っ。わ、私もちょ、チョコなんですけど……いります?」
「マジで? 宮沢ちゃんサンキュッ!」
志乃子の申し出を牧瀬は嬉しそうに受けた。
……あー志乃子の顔が真っ赤なのは、もちろん牧瀬がバスケ部のエースと言うこともあるだろうし、もしかしたら好きだった、みたいなオチもあるかもしれないが、彼女は基本的に恥ずかしがり屋のあがり症だから、最初の方は話しかけたりしようとすると誰にでもああなる。
私に話しかけてきた時も、話しかけてくる内容は割とフレンドリーだったにもかかわらず、顔は大丈夫かと心配になるぐらいに真っ赤だった。
だから、勘違いするなよ、姫野―――って、無駄かな。
「あ、琢磨君。私、バニラアイスちょっと食べたいな。」
朝霧先輩にそう言って笑いかける姫野だが、目が笑ってないし、朝霧先輩を向いていない。
「……別にいいけど、俺のでいいのか?」
「あは、何言ってるの、琢磨君。」
朝霧先輩は……気付いているのだろうか。
気付いていなければそんな言葉は出てこない……よな。
「……それで、いいのか……?」
心の中で言ったはずの言葉は声になっていた。
姫野と朝霧先輩は怪訝な顔をしていた。しかし、私の小さな声が届いたのは近くにいたその2人だけだったようで、あとの3人は会話をつづけていた。
「青谷……? どうした?」
「いいえ、何も……」
声に出すことで、気付きたくなかったことに気付いてしまった気がする。
彼は、誰に恋してる……?
私が彼を好きかどうかなんて私にはさっぱりわからない。
それでも、大切だと思うから、彼を傷つけないでほしいと思う。
あんな風に悲しそうな顔をさせてほしくない。
自分で書いといてなんですが……後々ちゃんと辻褄合うかな……?
何かおかしいところや、誤字脱字等があれば教えていただけると嬉しいです。