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ただ……願う  作者:
本編
44/75

第40話

文化祭が終わり、代休も終わり、お祭り気分から現実へと戻されるその日。朱音は不気味なほどに上機嫌だった。顔がニヤニヤと緩んでいて気持ち悪い。


 できれば、そこに何もいないかのように無視して通り過ぎたいが…いや、やっぱり頭が大丈夫か確かめるためにも話しかけるべきだろう。



「…おはよ。」


「うふふふー……え? あ、おはよー!」



 私が声をかけたのにも気付かないほどの上機嫌具合。これは……上手くいったか。


 愛央からは「万事解決」とだけ書かれたメールが送られてきていた。愛央は失恋…?いや、由樹の予想が当たっているのならば、失恋と言うわけでもないのだろうか。


 由樹――あいつは、昨日叔母さんがやってきて、アメリカに連行されていった。まぁ…たぶん、またそのうち会うだろう。由樹が来たことで変わったことと言えば、私の数名しかアドレスの入ってない携帯に一人名前が増えたということ。



「玲衣と解決したの?」


「うんっ!」



 跳ね上がる語尾に、玲衣にきっと砂を吐くようなセリフでも言ってもらったのだろうと想像がつく。



「…そう、良かった…ね。」


「うんっ!」



 玲衣とラブラブになればなるほど朱音のアホ度が上がっていく気がして、素直に良かったねと言えない…。



「み、実央ちゃん、あ…朱音ちゃん! お、お、おはようっ…」



 ビクビクと震える声は間違いなく…



「おはよ、志乃子。」


「あれ? 実央と志乃子って仲直りしたの??」



 朱音はやっとぽわぽわーんとした幸せなオーラを脱いで、私達にそう聞いた。



「あぁ、まぁ、そうだな。」


「う、うん。あ、あのね朱音ちゃん。あ、実央ちゃんも何だけど、実はあのまだ誤解があるっていうか――話せば長いんだけどっ…」


「長いならいい。」



 志乃子のたどたどしい言葉を遮って私はばっさりと言った。


 志乃子は大きな目をぱちぱち、と瞬きしたと思うと、



「え…? え? で、でも…」



と困惑した声をあげた。

 うん、なんかごめん。でもさ、志乃子が悪い奴じゃないのはもうわかってる…いや、最初からわかってるから。



「どうせ、志乃子の言った言葉の意味が違うとかでしょ?わかってる。あんたが悪意を持ってあんなこと言うはずないって。」



 冷静になればそうだ。彼女は悪意を持つのがどこまでも苦手な子だった。



「私は実央がいいなら別にいいよ。」



 朱音までもがあっさりとそう言って、志乃子はさらに戸惑っている。朱音もあれだ、細かいことは気にしない―――というより気にできない性格だから。



「あ、あの…えーと??」


「だから、謝罪とか弁解はいらないから。」


「う、うん。」



 …志乃子は鈍い。きっと間違いなく朱音より鈍い。私はできればこれ以上言いたくない。これ以上言うと間違いなく恥ずかしいことを言わなければならなくなる。



「だから、普通に話してくれればいいから。」


「え? あ、ありがとう。」



 ダメだ…理解してない。いや、私の言葉が足りないのか?そうなのか?でも恥ずかしいことはできるだけ言いたくないのだが…志乃子相手にそれは無理か。



「だから、友達としてよろしくって言ってるんだけど。」


「え? えっ!? い、今なんて!?」



 私はてっきり昨日の空気で了解だと思っていたんだけど…。驚いた声をあげているということは全く了解していなかったようだ。志乃子には一から十まで言葉にしないとダメだったんだな。



「同じことは二回は言わない主義だから。行くよ。」


「志乃子ーー? ぼーっとしてたら本当に置いていかれるよー」



 ボケッとしていた志乃子の顔がだんだんと赤く染まってく。そして、嬉しそうに笑ったかと思うと、走り寄ってきた――その時。



「あ、おはよー、実央ちゃん、朱音。」



 柔らかく明るいその声は、志乃子のような自信のなさを微塵も感じさせない。



「あれ? この子、見ない子だね?? あ、私姫野桜華って言います。よろしくねっ?」



 ニコニコと笑って自己紹介をする姫野に志乃子はきょとんとして、目を大きく瞬かせた。



「え…っと?」



 私に助けを求めるな、志乃子。お前も確かに話しベタだが、私の人付き合いの悪さはわかっているだろう。


 え、でも雰囲気的に友達だよね?なんとかしてよ、私こういうフレンドリーなタイプな人どうしていいかわからないんだけど…。


 志乃子と私の視線の会話はそんな感じだった。お互いがお互いに無理だと悟った時、助け船を出したのは朱音だった。



「この子は志乃子って言うんだけど、中学の時に実央とバスケつながりで仲良くしてたんだよね。」



 そう説明した朱音の横で志乃子は肯定を示すために小さく首を縦に振った。



「へぇ、そうなんだ。私休学してて、実は一つ年上なんだけど、仲良くしてくれる?」


「あっ…えっと、はい。」


「あはっ。今は同級生だから敬語はいいよ!」



 姫野の言葉に志乃子は困ったように笑った。


 この出会いが嵐の始まりだった。


起承転結の起を書くのが一番苦手です…。

話が動き出すとそれなりに書きやすいのですが…。

と言うわけで遅れてしまいました、すみません;;

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