第37話
「…ところで、朝霧先輩。いつまでもそんなところに隠れてると見つかりますよ?」
私は由樹が言った方向を見ながら、反対方向に向かって話し掛けた。
「…いつから気付いてた。」
「階段の上からチラッと見えたんです。」
朝霧先輩は上半身をあいている窓から出した。
「牧瀬と一緒じゃないんですか?」
「…お前、本気で俺の事ゲイか何かだと思ってないか?」
「牧瀬限定の?」
朝霧先輩がジロリと睨んでくるので、冗談はそこまでにしておいた。
「姫野とは会わなくていいんですか?」
「何で姫野?」
「…なんとなく?」
彼女が朝霧先輩を好きだというのならば、彼女は朝霧先輩と一緒に文化祭を過ごしたいだろう。
今頃必死になって探してる…姿は想像できないな。
「姫野はただの幼馴染だよ。」
「そうですか…。」
誰もそんなこと聞いてないけど…と思いながらも、どこか安心する自分がいた。
いや、朝霧先輩がどうこうというわけではなく…もし、朝霧先輩が姫野を好きなら、それはたぶん最終的に悲しいことになってしまいそうな気がするから。
「朝霧先輩は…好きな人はいないんですか?」
「…どうだろうな。お前は?さっきの奴は誰?」
「…大切な人であることは間違いありませんよ。」
他の人のようにきっぱりと否定すればいいのに、なぜかそんな言葉が口から出ていた。
何がしたくてそう言ったのかよくわからないことに戸惑いながらも、私はすぐに訂正した。
「冗談ですよ。ただの従兄です。」
「ただの?」
「…私にバスケを教えてくれたから、大切では…ある、と思います。」
言ってからまた後悔した。
何を私は暴露してるんだ…。落ち着け、落ち着くんだ。
「いや、でもまぁ…いい奴だけど、ガキだし…世話焼けるし…別に世話を焼くのが嫌なわけではないんですけど…。」
言ってる途中にもはや自分が何を言いたいのかよくわからなくなってきた。
「とりあえず、特別ってわけじゃないってことです。」
やっとうまく言葉が見つけられて私はほっとした。
ところが、朝霧先輩の言葉のせいでまた混乱することになる。
「…ふーん。好きなのか、そいつのこと。」
好き?誰が誰を??
朝霧先輩の言葉の意味を理解する前に由樹の声が聞こえた。
「おーい!実央ー」
チラッと後ろに視線を向けると朝霧先輩はもういなくなっていた。
「動くなって言ったろ!」
「…私動いてないけど。由樹が迷ったんでしょ?」
「おっかしいなぁ…。確かに元来た道を戻ったはずなんだけどなぁ…。」
本当に角を曲がればすぐそこにあるトイレから帰ってくるのにどうして迷うんだか…。
まぁ、迷った割には早く帰ってきたな。
つまりそんなに迷わなかったってことだ。うん、成長してるよな。
「由樹は相変わらずだな。」
「あー!また言われた…。実央と会うといっつもその台詞言われるんだよな…。今回こそはそう言われないように成長したところ見せようと思ってたのに。」
だから、いつもわざわざ苦手なところに入ってたりしたのか…。
でも、むすーっとふくれた由樹は、相変わらずで。
…朝霧先輩は私がこいつを好きだって言ったんだよな?
会うたびに成長を感じさせてくれる、年上とは思えない目の前の従兄を。
特別じゃないってい言ったのにどうして好きってことにつながるんだ?
いや、そもそも恋愛感情の好きかどうかも…恋愛感情じゃないなら大切とか大事とかいう言葉で十分か。
好きという気持ちは、よくわからない。
でも…由樹に感じてる子の気持ちが「好き」だというのならば…
そこまで考えて、私は小さく笑った。
考えるまでもなかった。由樹に対する気持ちの答えなんてでてるじゃないか。
「私はそういう由樹が好きだけど。」
私のその一言で喜ぶ姿も、やっぱり相変わらずなのだった。
長く時間がかかった割に短いですね…すみません…。
朝霧先輩との絡みのシーンがどうも難しくて…;;
後々手直しするかもしれません。