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ただ……願う  作者:
本編
37/75

第33話



そうして私とお姫様は知り合ったわけたけど、今現在進行形で牧瀬達の頼みを引き受けるんじゃなかったと後悔している真っ最中だ。

その原因は…



「私はウェイトレスなんてやりたくない。」


「ダメだよっ!私もう実央ちゃんがやるって言っちゃったもん。」



クラスの中には中心人物のような人間がいて、その人物を取り巻く人たちがいる。

文化祭などの表舞台ではそういう人たちが主に動く。


一方、私のように黙っている人間は裏方で働くことになる。

それでよかったのだ。目立つことの嫌いな私はその方がよかったのだ。

なのに…



「どうして私がやるとか言ったわけ?」



文化祭。

喫茶店をやることになったのだが、ウェイトレス役が1人足りない状況になっていた。

どうもクラス内に目立つことが嫌いな人が多かったらしい。


しかし、そんなこと私には関係ない。

ウェイトレスなんて天地がひっくりかえってもやりたくなかった。

それなのに、桜華が勝手に私がやると言ってしまったのだ。



「だって朱音も桜華もやるんだよ?」



拗ねたように唇を尖らせて桜華が言う。

が、そんなこと私の知ったことじゃない。



「だから?」


「どうせなら一緒に文化祭楽しみたいじゃない!」


「あぁ、そう…。」



別に同じ役職じゃなくても楽しめる、という言葉は呑み込んだ。

これ以上ごちゃごちゃと言いあうのも面倒だ。

そう思ったのだが、



「ウェイトレスの服、可愛いの着たいね!」



と楽しそうに笑う桜華に私はため息をこぼさずにはいられなかった。




あぁ、疲れる…

思わずこぼしそうになる愚痴をこらえながら私は学校の廊下を歩いていた。


中学の時もそれほど参加しなかった文化祭準備。

今年、桜華のせいで、強引に放課後に残らされている。

しかも朱音は玲衣とデートのために先に帰ってしまった…裏切り者め。


渋々手伝っていたのだが、どうもキャーキャー騒ぐクラスメイトについていけず、倉庫にある必要な看板などを取りに行く役目を進んで申し出た。

これでやっと耳障りな甲高い声から解放された…。


電気の付いている倉庫に入ると見覚えのある後姿が目に入った。



「部活に行かなくていいのか、牧瀬。」


「え?」



驚いたように振り返った牧瀬は私の顔を見るとさらに驚いた。



「えっ、実央、文化祭の手伝い…?」


「どこかのお姫様のせいでな。」



「どこかのお姫様」という言葉で牧瀬には十分に伝わったらしく、あぁと苦笑いをした。



「桜華とはうまくやってる?」


「今のところ特に問題はない。」



牧瀬達の心配の通り、桜華に好意を寄せてる男は何人かいるようだが、私が近くにいて怖いのか、あからさまなアプローチはしてこない。


女子の方からは嫉妬されたりするかと思いきや、うまくやってるようだ。

姫野相手じゃ敵わない、といったところだろう。



「じゃあどうしてあれからお昼、中庭来ないの?」



あれから…姫野と最初に会った日。

あの時から私はお昼は教室で朱音と食べている。



「別に大した理由はない。」


「それなら、また一緒に食べようよ。」


「いや、遠慮しておく。」



…そんなにあからさまにしょげた顔をしなくてもいいと思う。

まぁ、落ち込んでる牧瀬には悪いが、危険を回避するためだ、仕方ない。

このまま牧瀬達と昼ごはんを食べ続けてると


『牧瀬君と朝霧君は桜華ちゃんが好きなのよ、気を使いなさいよ!!』


的なお達しが来るに違いないというのが私の予想。

予想できる危険は回避すべきだと思っての行動。



「俺達の事、嫌いになった…?それとも、高浜達に何かされた?」


「嫌いになってない。それに高浜達に何かされた訳じゃない。」



私が事実だけを伝えると、牧瀬はこれ以上ないくらいに目を大きく開かせた。



「…なに?」


「実央が嫌いじゃないって言った…。」


「は?」



感動してると言わんばかりの牧瀬の口調。



「実央、この前元から嫌ってるから、嫌われるってことはないでしょって言ってたのに!」



…どうしてこいつはこういうことばっかり覚えてるんだ…。



「冗談って言った。確かに最初は牧瀬の事は嫌いだった―」



犬の尻尾と耳が見えた。いや、幻覚だ。

わかってる。でも、その尻尾と耳の垂れ具合が…



「けど、最近牧瀬の事嫌いって言った覚えはない。」



耳がピンと立って尻尾がぶんぶんとちぎれそうなぐらいに振られる。

いや、違う。幻覚だ、うん。



「実央!俺も実央の事好き――」


「私は好きと言った覚えもない。」



そういった瞬間また耳と尻尾が垂れたように見えるのは絶対に幻覚だ。



「文化祭の準備の途中でしょ?さっさと必要なものとって帰る。」



そう言って耳と尻尾を見ないように前を向くのだが、背中に負のオーラを感じて辛い…。



「…友達としてなら、好きじゃないこともないけど。」


「……え?」



バカみたいに喜ぶのかと思いきや、本気で驚いた様子でこちらを見ていた。

…こっちの方が無駄に恥ずかしい。



「え、実央…今友達って―」


「うるさい。本気で喜ぶな。」



いつもより無感情な声になってしまったのは決して照れ隠しなどではない。


そのまま牧瀬を無視して教室まで帰って行った私は、後ろで牧瀬がガッツポーズしてることも、自分の顔が微かに赤くなってるなんてことも気付くことはなかった。




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