第21話
電話…来ない…。
いや、待ってる私がおかしいんだけど。
牧瀬からも朝霧先輩からも来ない。
夜電話するというから、お風呂あがってからずっとベットの上で携帯を握りしめて待ってるというのに。朝霧先輩は忘れてるって可能性があるけど、牧瀬はあり得ない。
牧瀬がこういうこと忘れるなんてことはないのに…。
いっつもうざいぐらいにいろいろ覚えてて……
どうしてどっちも電話してこないんだろう?
何かイライラする…
「♪~」
「!」
やっと来た!!
着信は…朝霧先輩だ。
「はい、もしもし。」
『出るの、早いな。…もしかして、待ってた?』
「別に…待ってないです。」
嘘。だいぶ待ってた。
どこぞの恋する乙女だ。
別に朝霧先輩に恋なんてしてないけど。
…してないから。
『そうか。まぁ、青谷が待ってる姿はあんまり想像できねぇな。』
「はぁ…」
まぁ、待つのは嫌いだけど…
……そうだよ、待つのは嫌いなんだ。
どうして私は大人しく待ってたんだ?
時間の無駄じゃないか。
『青谷?』
「あ、はい。」
『明日、午前あいてるか?』
「…なんだか練習休み多くないですか?今日も…」
バスケ部にそんな休みがあったっけ?
バスケ部って言えば厳しい部活で有名…
私が中学でバスケしてた時は、お盆ぐらいしか休みなんてなかった気がする。
『今日は午前、練習があった。マジで急いで帰って、即着替え。』
そうだったんだ…
私が悪い…のか?
牧瀬が誘ったから…あぁ、でも2人きりじゃ嫌とか言って朝霧先輩を巻き込んだのは私だから一応謝っておいた方がいいよな。
「…何かすみません。」
『いや、べつに。明日は午後から練習だから午前。あいてるか?』
「あいてますけど…」
『じゃあ〇〇公園に朝…そうだな、8時に。』
来てくれ、とか頼む形ではなかった。
8時に集合することが決定済みで、私の返事は必要とされたなかった。
「え?」
そういえば、〇〇公園って…バスケのゴールがある所じゃ…。
『バスケットボール持ってこいよ。運動できる格好でな。』
「ちょっと待って―」
それって…
『じゃあ今日は早く寝ろ。牧瀬の電話なんか待たなくていいから。』
そのまま電話は切られた。
…これって、どう考えてもバスケをする、ってこと…だよな、うん。
で…牧瀬の電話は…待った方がいいのだろうか?
いや、待つのは嫌いなんだけど…
朝霧先輩にも寝ろって言われたんだけど…
さすがにもう少しぐらい待っててもいいって言うか…
「♪~」
牧瀬…かな?
…うん、牧瀬だ。
遅いんだよ、何してんだバカ、とか何故か心の中で少し怒っていた。
「もしもし。」
『あ、実央!?俺だよ、牧瀬。』
「わかってる。」
携帯に表示されてるよ。
牧瀬じゃない人が出てきたら逆に驚くって。
『まぁ、そうなんだけど…明日、午前中あいてる?』
「…朝霧先輩が…」
明日8時に〇〇公園だって。
そう言おうと思ったけど…やめた。
なんとなく、朝霧先輩はきっと牧瀬には内緒にしてほしいって思ってる気がしたから。
牧瀬の電話を待つなって言った。
遠まわしに牧瀬の誘いは受けるな、って言ってるんだろう。
…というのは私の思い込みだろうか?
『ん?琢磨が何??』
「…いや。なんでもない。明日は無理。」
『そっかぁ。じゃあ、また今度誘うよ。』
私の答えにも牧瀬は特に落ち込んだ様子はなかった。
「誘わなくていい。」
『実央、ひどい!』
「ひどくない。…今日はありがとう。じゃあ。」
『どういたしまして。じゃあね。』
嬉しそうな声音から、牧瀬のあの笑顔が想像できた。
なんとなく…嬉しい気持ちになった。