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ただ……願う  作者:
本編
2/75

第2話

「遅い……」



 私はその日、朱音を待っていた。


 部活に入らずにいて、宿題もさっさと終わらせてしまう私ははっきり言っていつもものすごく暇だった。

そんな時、朱音から電話がかかってきた。



「ねぇ、実央! 暇でしょ?」



 開口1番それか、と突っ込みたくなった。実際、突っ込んでやろうかと思った。

でも、やめた。暇なのは事実だから。



「暇だけど。」


「今度の日曜! 一緒に買い物行かない?」



 今は5月といっても6月目前だ。

しかも、異常気象だの、地球温暖かだので、来週の日曜日からはとても暑い日になるでしょう、と気象予報士が今まさにテレビで言っている。

なぜそんなクソ暑い日に何が楽しくて女2人で買物に行かなくちゃいけない。


 その思いをそのまま口にすると、



「えっ……と、あ、あ、あのね……」



朱音はひどく慌て始めた。


 そこで、私はピンときた。

今度の日曜……の次の日。5月31日。朱音の彼氏の誕生日。


 なんで私が朱音の彼氏の誕生日を知ってるかって?

去年も彼氏の誕生日プレゼントを買うのに付き合った、そして、それ以前に、朱音の彼氏が、私のお兄ちゃんだったりするから。


 身内である私が言うのもなんだけど、私のお兄ちゃんはかっこいい。

それに、頭もいい。

性格は、表向きはいい。というより、基本的に優しい。私にも優しいし。


 ただ…好きな子は、いじめたくなるタイプ…とでも言っておこう。

朱音は常にからかわれてる気がする。まあ、そういう人を彼氏に選んだのは朱音だから仕方ない。


 

 中学1年生の時。

当時、お兄ちゃんは4つ上だから高校2年生。

私は友達を家に呼ぶタイプじゃなくて、初めて朱音を家にあげた。

だから、朱音は初めてお兄ちゃんに会った。


 それで、一目惚れしたらしい。

あの時の朱音の慌てっぷりは面白かった。



「え……ちょ、ちょっと、実央! あのかっこいい人誰!?」


「誰って…お兄ちゃんだけど。」



 一瞬の沈黙の後、朱音の目がこれ以上ないほど大きく開かれる。



「えええ!? 実央、お兄ちゃんいたの!?」



 ……そういえば、言ったことなかったっけ、とその時やっと思い当った私だった。



「現にそこにいるじゃん。」


「え、え、え……実央のお兄ちゃん、名前なんて言うの?」


「本人に聞けば?」



 絶対に朱音が無理だと答えるだろうということがわかりながらも、あえて私は朱音にそう言った。



「む、むむ、無理!」



 案の定無理だと答える朱音を無視して、私はお兄ちゃんに話しかけた。



「どうしたの?実央。」


「この子、朱音。友達。」


「へぇ、実央の友達。僕、実央の兄で玲衣(れい)っていうんだ。よろしくね?」



 お兄ちゃんのその笑顔に、朱音はこれ以上ないってぐらい赤い顔をさらに赤くさせたのは言うまでもない。


 その後、お兄ちゃんに彼女がいないことが判明。

で、お兄ちゃんも朱音のことが好きなことが判明。


 でも、なかなかくっつかない2人。

そんな2人にしびれを切らした私が、



「そういえば今日朱音がクラスの男子に告られてた。」



と、でっちあげを話してやっと2人はくっついた。

 

 それが、私たちが中学3年生の時の話。

中3の時も、私は誕生日プレゼントを選ぶのに付き合わされた。

誕生日だけじゃない。クリスマスも、記念日も。

まあ、妹である私からお兄ちゃんの好み、欲しいものを聞いて、最終的に決定してるのは朱音なんだけど。


 電話が来たときは、今年もか……そう思った。

別に、買い物に付き合わされるのは嫌いじゃない。

……待つのは大嫌いだけど。



「遅すぎる……」



なんで私は待たなきゃいけないんだろう。

約束の時間を10分過ぎてる。本来なら私は、約束の時間を5分過ぎると家に帰る。

しかも、見事に天気予報は当たって今日は暑い。

涼しいから、待つ。外で待ち合わせだったらとっくの昔に帰ってる。



「映画も見るって言ってたのに……」



 もうひとつ待つ理由。

映画を見る約束をしている。

買い物ついでに、見たいものがあったから。

どうしても見たいから……だから、待つ。


 そうじゃなかったら、いくら建物の中でも15分は待たない。

なぜ携帯で電話しないのかって?

どうして相手が遅れてるのにこっちが電話してやらなくちゃいけないんだ。


私は絶対こういう時連絡はとらない。

我ながらひねくれている自覚はあるが、遅れてくるほうが悪いのだから、私が文句を言われる筋合いはない。



「~♪~」



 私の携帯が突然なりだした。

いや、普通なる時はいつも突然なのだが……。

携帯のこと考えてたときに携帯が鳴るとびっくりするものではないだろうか。


 私はポケットから携帯を取り出した。

その時、あるものが落ちていたことに私は全く気付かなかった。



『ごめん! もう着くから!』



 電話に出るなり聞こえてきた言葉はそれだった。



「もう着くなら電話しなくていいのに。」



 普通、遅れることを事前通告するために電話するのではないだろういか。

朱音はやはり少しおバカだと思う。



『か、帰ってるかもしれないと思って!』


「奇跡的にまだいるけど。」



 帰ってるかもしれないことを確認するなら、着く直前より、もう少し早くしたほうがいいとやはり思うけど。

……まぁ、このおバカさをなくしたら朱音じゃないということで納得しておこう。



『よ、よかった。』


「どうでもいけど早く来て。言い訳はそれから聞いてあげる。」


『ホント、もう着く……あ! 実央!』



 実央、と呼ぶ声が受話器から、前方方向から聞こえた。

朱音の姿を確認すると、私は電話を切った。



「ホント、ごめんね……」



 手を合わせ、申し訳なさそうに見上げる仕草は間違いなく可愛らしく、男なら完全に許してしまっているのだろうが、私はあいにく女なので、朱音の可愛らしさに揺らぐことなく聞いてあげるといった言い訳を促した。



「言い訳は?」


「実は、玲衣さんにつかまっちゃって……」


「お兄ちゃんに?」



 それは、気の毒に。



「どこ行くんだ、ってしつこく聞かれちゃって……」



 朱音の困ってる顔見て楽しんでたんだろうな。

あの人王子様みたいな顔して、そういうところあるもんな。



「サプライズがいいかな、と思ってなんて答えようか迷っちゃって……」



 言いにくい相手と出かけるのか、って勘違いしたんだろうな、お兄ちゃん。



「そんなに答えにくいことなの? って聞かれて……」



 朱音、困ったんだろうな。

朱音の困った顔を見て、お兄ちゃんはさらに勘違いしたんだろうな。



「とりあえず違う、って言って……実央とラブラブしてくるの、って言っておいた。」


「……私に迷惑かけたいの?」


「ごめん!」



 間違いなく、私はお兄ちゃんから聞かれる。

今日1日の朱音の様子。

私と遊びに行くのをどうしてそんなに言いにくそうにしてたのかも。

あー面倒だな。


 朱音と一緒に買い物して、家に帰ってお兄ちゃんに朱音の話をする。

まったく、何が楽しくて女同士の買い物の話をしなきゃいけないのかさっぱりだ。

まあ、いいけど。



「ほら、映画のチケット買いに行くよ。」



 早めに待ち合わせしといてよかった。

上映時間までまだ時間がある。



「学生2枚で。」


「学生証をお持ちですか?」



学生証……そういえば、朝急いでポケットに突っ込んできた。



「あれ……?」


「どうしたの?」



心配げにこちらを見る朱音を振り返ることなく、もう一度自分のポケットの中と、カバンの中と、財布の中を調べたのだが。



「学生証が……ない。」


「忘れたの?」


「持ってきたと思ったんだけど。」



私たちの会話で、学生証がないと察した店員さんはこう聞いてきた。



「他に何か年齢がわかるものをお持ちではないですか?」



年齢の分かるもの、ねぇ……ああ、そういえば。



「はい。」



 私が出したのは保険証。

この前病院に行って財布に入れたままだった。


 席は朱音が列の真ん中で後ろのほうの席をとっていた。

それにしても学生証、持ってきたと思ったんだけどなぁ……。



 今日見る映画はいわゆる恋愛映画。

しかもすごい感動ものらしい。

もし、この映画館に同じ学校の人がいて、私がこの映画を見てるのを見たら、それはひどく驚くことだろう。


 笑わない、恋愛なんて全く興味のなさそうな私。

一部では、感情がない、という噂まで流れてるらしい。

が、それは嘘だ。


 別に私は恋愛に興味がないわけではない。どちらかと言えば、してみたいと思っている。

相手の些細な言動で、笑ったり泣いたりできる恋愛……


 朱音とお兄ちゃんもそうだ。

ほんの少しのことで、心配したり、とても幸せそうに笑ったり。

感情表現が苦手な私は、その恋愛にとても興味がある。



 私も恋愛をすれば、笑ったり泣いたりするのか、と。


 もちろん、映画やドラマの中の恋愛は非現実的であることを理解している。

ただ、恋愛に興味があるから、そういう映画とかもどうしても気になるのだ。



 それに「泣ける!」と言われると、私でも泣けるかな?と思ってしまう。

ある意味チャレンジ精神が豊富なのかもしれない。





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