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ただ……願う  作者:
本編
19/75

第19話



「実央。それだけ??」


「ケーキを大量に食べる予定だから。」


「それにしても少ないって~。」


「愛央が大食いなだけ。」


「う……」



私は愛央からもらったサンドイッチを一個ほおばっていた。

あと4つは愛央の分。



「まぁ、でも…今日は私の勝ちだね!」


「…意味分からない。話に脈絡がない。」


「そ、それは…実央がバカにするからぁ…」



バカにする??

愛央が大食いだって言ったこと?



「事実を言っただけ。で、何が愛央の勝ちなの?」


「今日、実央笑ったじゃん!」


「……愛央の前で笑ったの、初めてじゃないと思うけど。」


「でも滅多に笑わないじゃない?」



意識して笑ってないわけじゃない。

笑うようなことがないだけだ。



「まぁ…中学生になってから…愛央の前以外で笑ってない気はする…かも。」


「え…それ、ホント??」


「うん。」



サンドイッチをつかむ手が止まり、ポカンと口をあけている愛央。

可愛いけど…



「アホ面。」


「だ、だって……てっきり…」



てっきり?

さっきの表情の豊かさを見てたら笑ってると思った??

…笑顔だけは、嫌いだ。



「…自然と笑わなくなってた…。もともと、あんまり笑ったりしなかったし。」


「それにしても…」


「いいんだよ、愛央。」



もう、諦めてるから。

きっぱりと言い切った私に、愛央は何も言い返さなかったが、不満そうな顔をした。

訴えかけるようなその視線から逃げるように時計を見ると12時半をさしていた。



「…一回、家帰りたいんだけど。」


「え…」



愛央の顔が固まった。

相変わらずわかりやすい…



「お兄ちゃんはデート。」


「……」



まだ悩むような表情。



「お父さんは休日出勤。」


「じゃあ行く!」



お父さんにもまだ会いたくない…?

いや、ただ、気まずいだけ…なんだろう。

お父さんはきっと、私には向けたことのないような優しい笑顔で愛央を迎えてくれるだろうから。




そんなやり取りの後、駅から約徒歩10分の自宅へと戻った。



「家でゆっくりできる時間あるね~」


「うん。」


「それにしても久しぶりだな~この家。」



愛央はぐっと伸びをした。



「お義母さんの葬式以来…。」


「そうなんだよね~」



でも、葬式のときはバタバタしてて、こんな風にくつろぐ暇なんてなかった。

愛央がソファに寝転んでる姿が、とても懐かしく思えた。



「何か…懐かしいね。」


「私も…そう思った。」



2人して、同時に笑った。

愛央のほほ笑みはやっぱり綺麗で。

自分はどんな風に笑ってるのか。少し気になった。



「そう言えば…今日一緒に食べに行く人って誰なの??」


「あぁ…牧瀬と朝霧先輩。」



って、名前言っても知らないか。



「牧瀬って子は同い年?」


「先輩。」


「え、何で片一方だけ呼び捨てなの?」


「尊敬できないから。」


「…うん、なるほど。」



愛央は少し自分の中で葛藤があったらしいが、頑張って納得していた。



「朝霧先輩っていう人は尊敬できるの??」


「まぁ…バスケはうまいから。」


「あ、バスケね。女の子…だよね?」



女の子に決まってる、そんなニュアンスで聞いてきた質問を私はばっさり切り落とした。



「いや、男だけど。」



愛央を取り巻く一部の空気だけがしばらく時間が止まっていた。



「……聞き間違い?」


「男。」


「お…と…こ…??????」


「男性、女性の男性の方。」



一瞬の間。



「えええええぇぇぇぇ!?!?!?」


「…うるさい。そんなに驚くことでもない。」


「で、でも、実央だよ?実央に男???嘘、嘘ぉ…」



何気に失礼だな、おい。



「てか、男と会うのにそんな格好はないでしょ!?」



「そんな格好」で私は愛央と喫茶店で話してたけど。



「ほら!着替えるよ!!!」


「嫌。」


「いいから!実央、可愛い服持ってたでしょ!?」


「ほとんどお義母さんと愛央が無理やり買ったものだけどね。」



2人はよく実に楽しそうに私を着せ替え人形のようにして遊んでたな。



「よーし!頑張るぞ!」



張り切る愛央に私は待ったをかけた。



「ちょっと待って。」


「何よ!せっかく気合入れてたのに…」



いや、牧瀬と朝霧先輩にそんな気合い必要ないから。



「勘違いしてるみたいだけど、彼氏じゃない。」


「へ?」


「友達未満知り合い以上。ってところ。」


「な~んだ。「男」なんて実央がややこしい言い方するから…」



勝手に愛央が勘違いしただけ…だと思う。

だいたい好きな人はいないって話したばっかりなのに…

それに私はちゃんと男性、女性の男性の方って言ったじゃないか。



「それなら今の格好でも大丈夫ね。あ、でも髪の毛ちょっとイジらしてくれる??」


「………」


「ちょっとだけだから!」


「…嘘ついたら怒るから。」



オシャレが大好きな愛央。

玲衣がオシャレさんなのも愛央の影響だった。

3人の中で唯一私だけがオシャレに全く興味がなかった。



「完成っ!」



「ちょっと」という表現はあながち嘘ではなかった。



「…相変わらずお団子好きだね。」


「まぁね!」



頭のてっぺんで綺麗にお団子が作られていた。

小さい頃から愛央は髪の毛イジらしてーと言ってはこの髪型にしていた。

これ以上、手のこった髪形だと私が怒るからだった。



「自分の髪伸ばして、自分のをいじればいいのに。」


「ん~??あはは。まーねー」



笑って誤魔化す愛央。


知ってる。玲衣に言われたんだよね。

愛央にはショートが似合ってるって。

その髪型が好きだって。



「…もう時間ない。家。でるよ?」


「あっ、待ってよー!」



「好き」という気持ちはもうない。

その言葉にウソはないだろうけど。

愛央はいつになったら玲衣以外の人を愛せるんだろう。





「実央っ。もしかして、あの2人??」


「…そうだけど。」



牧瀬たちはもう来ていた。

私たちだって待ち合わせの5分前につくように家を出たのに。



「超かっこいいじゃん!どうしたの!?」


「どうしたもこうしたもないけど…」



ただ、金魚のフンのようにくっついてるだけ。



「あっ。こっち気づいたみたいだよ?」



それぐらいわかる。

こっちに向かって全力で手をふってるのが見える。

あぁ、もちろん手を振ってるのは牧瀬だけで朝霧先輩は横で大人しく立っています。



「振り返してあげないの??」


「絶対嫌。」



振り返したら振り返したで、絶対に牧瀬の奴、信じられないものを見たかのような目で私の事を見るにきまってる。



「…ぷっ。」


「…なんで笑うの。」


「ん~?なんでもないよ~」



愛央は何を言っても笑うだけ。

…なんかムカつく…。


近くまで行くと牧瀬が駆け寄ってきた。

…まるで尻尾を振って近づいてくる犬みたいだ。



「み~おっ。来てくれたんだ!」


「奢りのチャンスを逃すつもりはない。」


「でもさ、今日の実央の髪型可愛いよね!」


「別に牧瀬のためにしてきたわけじゃない。」


「でも可愛いっ!」



可愛くないことぐらい知っている。

お世辞を言われたって嬉しくない。

それなら朝霧先輩みたいに無反応の方がいい。



「あっ。その人、メールで言ってた人?」


「そう。愛央。」


「ちょっと実央!ちゃんと紹介しなさいよ!!」



別に名前がわかったらいいじゃないか、別に。



「青谷愛央です。実央の姉で~す。」


「えっ。実央ってお姉ちゃんもいたの!?知らなかった~。」


「言ってないんだから知らないに決まってる。」


「俺は知ってた。」


「え?」


「ふっ…嘘に決まってんだろ。」



ダメだ…朝霧先輩にはいつもペースを乱されてる気がする。

頭を軽く押さえていると、愛央の視線に気づいた。



「…何?」


「ん~??なんでもないよっ。」



なんか楽しそうだし…まぁ、いっか。



「あの、聞いてもいいですか?」


「ん~??何?」


「愛央さんっていくつですか??」


「いくつに見える????」



愛央は童顔だ。

普通に私より年下に見える。

だから、よく私の方が姉だと思われるんだ。



「実央より年上…なんですよね。高2,3ぐらいですか??」


「ブッブー!正解は19歳!今年で二十歳で~す。」


「嘘!?全然そんな風には見えないですよ!?!?」


「よく言われるんだよね~」



ポンポンとリズムよく交わされている会話。

さすが愛央…っていうのかな。

誰とでも、すぐ仲良くなって、その人の心を掴む。


私には…絶対出来ないこと。


取り残されたような感覚を味わってる時だった。



「おい、真。いつまで立ち話してるつもりだよ。暑いんだけど。」



朝霧先輩…。



「あっ、悪ぃ。愛央さんと話すの面白くて。」


「いや、私こそごめんね。」


「別に…いいけど。」



嘘つき。

今日はそんなに日が照ってなくて暑くない。

朝霧先輩だって汗一つかいてないし、涼しそうな顔してる。


いったい何でそんな事を言い出したんだろう?

私は思わず不思議な気持ちで朝霧先輩を見た。

すると、彼は私の視線に気づいて近づいて…こう囁いたんだ。



「お前はお前だ。お前のペースで行けよ。」



どうして、彼の言葉が心にしみるのだろう。

どうして…彼には私の考えてることがわかるんだろう。



「ありがとーございます…」



自然にポツリと呟いていた。

絶対朝霧先輩には聞こえない声だと思ったのに。



「どーいたしまして。」



小さくそう言って、ニヤッと笑ってる彼の顔が目に入った。



「じゃあ、愛央さんと実央は実の姉妹なんですね。」


「そうそう。血が繋がってないのは玲衣だけだよ。」


「それにしては、愛央さんと実央ってあんまり似てない気がするんですけど…」


「実央は顔はお母さん似なのよ。性格はお父さんに似てるんだけどね?私はそれの逆。」


「なるほどー。でも、血が繋がってるし、似てるところもありますよね。」


「えー!?それは言われたことないな。例えばどこ?」


「例えば―」



ポンポンとリズムよく交わされる会話。

その横で黙々とケーキを食べる私。


…それは別にいいんだ。

朝霧先輩の言葉で、そのリズムの良い会話も気にならない。

ただ…



「朝霧先輩。」


「なんだ?」


「…食べにくいです。」


「そうか。」



さっきから朝霧先輩がじっとこっちを見てる。

ケーキを食べるわけでもなく、私がケーキをほおばってる姿を眺めている。


食べにくい…

真剣に食べにくい。



「あぁ!琢磨!何お前、実央を独り占めしてんだよ!!」



あぁ…ややこしい奴が来た。



「お前が青谷の姉さんと仲良く話してただけだろ。」


「お、俺は!実央の情報を聞き出そうと…」



聞き捨てならない言葉が聞こえた。



「えっ、いや…違うくて…」


「くだらないことをするな。」



そう言って思いっきり睨みつけてやった。



「実央。モテモテね~」



楽しそうに言うところがまた頭にくる。



「…愛央。怒るよ?」


「だって事実でしょっ。」



事実じゃない。

勘違いもほどほどにしてほしいものだ。



「はぁ…」



朝霧先輩の視線が違う方向を向くことはなく、

それどころか、牧瀬の視線まで加わった。


食べにくすぎる…。

目の前で幸せそうにケーキを食べている愛央がうらやましい。

私もこんな思いをせず、ケーキを食べたい。



「…牧瀬。ケーキ、食べないわけ?」


「ん~?ケーキより、実央見てる方が楽しいよ。」



意味不明。

しかも答えになってない。

やっぱり牧瀬はバカだ。



「朝霧先輩は―」


「いいから食べろ。」



……やっぱりこの人はたちが悪い。

朱音が朝霧先輩が苦手だ、というのが少しわかったかもしれない。

食べにくくて仕方なかったその時、ちょうど携帯が鳴った。



「………ごめん。ちょっと席外す。…ついでにトイレ行ってくる。」



天の助けだ。

朱音からの電話。


トイレに行くと言ったのは、電話が短かったとき、すぐに帰りたくない。

けど、電話をして話してるふりをするほど器用じゃないからだ。

私は席を立って、トイレに行った。



『実央!ごめんね。食べてる途中だったよね…』


「いや。長くなってもいい。」


『へ?』


「お兄ちゃんのこと?詳しく話して。」



いつもなら「手短に話して」と言うけど、今はしばらくあそこに近づきたくないから、仕方ないだろう。



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