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ただ……願う  作者:
本編
18/75

第18話

「み~お~!!」



 いま私を呼んでいるのは牧瀬ではない。

愛央。私の4つ上のお姉ちゃん。


 お兄ちゃんにもお父さんにも秘密で会ってる。

……ってことは、前に言ったと思う。



「実央! 久しぶり!!」


「……久しぶり?」


「2週間ぶりなんだから久しぶりでしょ!」


「……まぁ、そうかもしれない。」



 高卒で今の会社に就職した愛央。

なかなか大変らしいけど、わりと充実した毎日を送ってるらしい。


 愛央との約束とかぶっていることに気がついたのは電話を切った後。

でも、よく考えてみれば、愛央との約束は午前中だけ。

愛央に電話して午後から用事があるけどいいか聞いたら、「いいよ!」って元気に答えたし。


 午前中だけでショッピングというのも厳しい。

だから、今日はお茶を飲むだけ。


 牧瀬がケーキバイキングをおごってくれるからケーキも我慢。

けど、パフェは食べてる。……パフェはケーキじゃないから。



「相変わらず、よくそんな甘ったるいもの食べるわよね~。」


「……好きだから。」


「実央が甘いもの好きだなんて、家にいた時は知らなかったわよ。」


「……言わなかったし。」



 きっと、お父さんもお兄ちゃんも知らない。

いちいち報告することじゃないし。



「それより、愛央。お父さんたちと……お兄ちゃんと会う気ない?」


「ん~……まだ、ちょっとね。」



 苦笑いする愛央。まだ心の傷は癒えてないみたい。



「会社でかっこいい人見つけたーって騒いでたのに?」


「それとこれとは別なのよ!」


「あっそ。」



 愛央がお父さんたちと家を出てから初めて会ったのはお義母さんの葬式。

一瞬、気まずい沈黙が流れたけど、お父さんは笑顔で



「おかえり、愛央。」



って言ったんだ。

愛央は泣いてお父さんに抱きついてた。


 お兄ちゃんとは…2人で何か離れたところで話してた。

何を話していたかは定かではないけど…きっと、2人にとって大切なことを話していたんだと思う。



「お兄ちゃんのこと、まだ好きなんだ。」


「――っ!!!!」



 愛央はオレンジジュースを思いっきり吹き出した。



「汚い……」


「み、実央が変なこと言うからっ!!」


「驚くってことは図星? でも、お兄ちゃん彼女いるよ?? ずっと前に言ったと思うけど。」



 私の言葉に、愛央は落ち込んだのか、小さく呟いた。



「……その子と、続いてるんだ……」


「まぁね。」



 私が別れないように全力尽くしてたし。



「んー……もう「好き」って気持ちはないかな。ただ、会うのはもうちょっと先がいい。」


「気持ちの整理がついてない?」


「……うん。そんな感じ。」



 よかった……そんなことを、思ってしまう。


 愛央がまだお兄ちゃんを好きだとしても……

私は今までの人のように愛央を追い払うことはできない。

でも、純粋に愛央を応援することもできない……。


 朱音は私にとって間違いなく大切な子で。

ただ、愛央もそれと同じくらい大切で。

どちらか一方の肩を持つなんて私にはできない。


 だから、愛央には違う人と、幸せに……なってほしい。



「ていうか……ずっと思ってたんだけど、実央、玲衣のこと「お兄ちゃん」なんて呼んでたっけ?」


「いや。愛央が出て行ってしばらくしてから。」


「なんで?」



 なんで……か。



「……知らない? 私と愛央の声のこと。」



 愛央ははっと息をのんだ。



「……実央。あんた、また……」


「大したことない。大丈夫だから。」



 愛央の目には不安が残っていたが強く言い切った私にそれ以上何も言わなかった。

一瞬、固まった空気をほぐすかのように愛央は一つ咳払いをしてから話しだした。



「で、私の恋愛をごちゃごちゃ言ってきたけど……実央はどうなのよ?」


「どうって?」


「好きな人、いないの?」



 好きな人……。



「私にいると思う?」


「だよねー」


「第一「好き」って気持ちがイマイチわからない。」


「ああぁぁ……何でこんなに可愛いのに、こんな性格に……」



 泣き真似をしている愛央。

……どーせ愛央みたいに可愛くないし、余計な御世話だ。



「愛央みたいに可愛くない。」


「まぁ、実央は可愛いって言うよりどっちかって言うと綺麗って感じよね。」


「どっちでもない。」


「自覚ないんだもんなー。」



 言っておくが、これは愛央がからかってるだけ。

だって……



「本当に綺麗なら、告白されたことがないなんておかしい。」


「……あんたのその雰囲気のせいで告白できないだけだと思うけどなぁ……。」



 雰囲気?



「私は普通に過ごしてるだけ。」


「その普通が怖い……」


「愛央……」


「ごめん、ごめん。……そう言うのが怖いんだって。」



 小さい声で、聞こえないように言ってるつもりかもしれないけど……

きこえてる。



「愛央。聞こえてる。」


「いや~!ごめんって!!」



 おどけて言う愛央に私は小さくため息をつく。



「別に何にもしないから騒がないで。変な目で見られる。」


「……実央の意地悪。」


「普通。」



 私と愛央は4歳差あるが、無駄に私が大人びているせいだろうか……

それとも、愛央の子供っぽさのせいだろうか?

どちらにしろ、私と愛央は姉妹というより、友達と言った方がしっくりする関係である。



「ふふふっ。」


「……何笑ってんの?」


「う~ん?実央とこういうやり取りするのってやっぱり楽しいなぁって。」


「……変わってるだけだよ、愛央が。」


「そんなことないよ~」



 私といて楽しい。そんなこと言うのは愛央だけだ。

もの好きにもほどがある。



「そう言えば午後から用事ってなんなの?」


「え?あぁ……ケーキバイキング。」


「駅前の!?」


「そ、そうだけど……」



 いや、前のめりになりすぎだから。

普通に驚くからもう少し落ち着こうよ。



「いいな~。私も行きたい!」



 さっき人のパフェ見て、よくそんな甘ったるいもの食べるな、みたいなこと言ってたくせに……。

まぁ、あのパフェのボリュームもボリュームだったけどさ。



「……一緒に行く?」


「いいの!?」


「いいと思う……けど。」


「やったぁ!」



 愛央は満面の笑みを浮かべた。


可愛いらしい愛央。

無愛想な私。


 やっぱり……私の周りには正反対な人ばかり。



「一応、メールで聞いておく。」


「うん、お願い♪」



 ケーキ好きは愛央も同じだ。

とても幸せそうに笑っている。



『一人、女の子増えるけどいい? お金は自分で払うらしいから。』 



 まぁ、10分後ぐらいには返ってくるだろう。

そう思って携帯を閉じようとした瞬間、携帯が震え出した。

……そう言えばマナーモードにしてたっけ。



『別に俺はいいよ♪ あ、でもその女の子は男2人もいて大丈夫???』 



 クエスチョンマークが無駄に多い!!



『別に大丈夫。』 



 それだけ打って送った。

すぐ返ってくることはもうわかっている。

携帯を開けて待ち構えた。



『そっか、ならいいんだ(^^) 2時の約束、遅れないようにしてね~(^.^)/~~~』



 顔文字使いすぎ……ウザい。

顔文字使いまくりのメールに顔を歪めていると突然愛央が笑いだした。



「ふふふふふ……」


「……何笑ってんの。」


「ん~? 珍しく実央が表情豊かだな~って。」


「は?」



 朱音とおんなじことを言ってる……

表情豊か??いや、愛央を基準に考えちゃいけない。



「どこが。」


「まずメールが即帰ってきたときの驚いた表情でしょ?それから、メールを打ってる時の戦ってるみたいな顔とか……」



 戦ってるってなんだよ、戦ってるって……。



「……そんな顔してない。」


「してたわよ。それに、ついさっきまで、不愉快そうに画面睨みつけてたし。」


「驚いたり不愉快な顔をしたりは人間なんだからする。」



 朱音と言い、愛央と言い、私をサイボーグか何かと勘違いしてないか?



「実央、気づいてないの? あんた、いつもはどんな感情もほとんど顔に出さないよ??」


「………」



 正直に言おう。気づいてなかった。

なるほど、だからサイボーグと勘違いされるのか。



「めんどくさそうな顔をするわけでもなく、かと言って楽しそうな顔をするわけでもなく……まぁ、話しかけてる方は複雑よね。」


「……じゃあ、なんで愛央は私と会って話すの?」


「いや、ずっと一緒にいればわかるからだよ。実央の表情の変化とか。わずかながらにあるんだよね。」



 わずか……

どうりで人が寄ってこないはずだ。



「でも、今メールしてた時は違う。誰の目にもはっきりとわかるように表情があったよ?」


「…………」



 朱音の言ってた表情豊か、って言うのもこういうこと……。

……全然嬉しくないのはなんでだろう?



「その、メールしてた子、友達?大事にした方がいいよ。」


「大事……」


「そうそう。なんて言ったってこの実央にここまで表情ださせるんだもん。あ、その子に会えるんだよね? 楽しみ~♪」



 愛央は嬉しそうに笑っていたが、私は別のことを頭の中で考えていた。


 牧瀬を……大事に?? …………考えられない。

ここは少女漫画ならドキッとしなきゃいけないところ???

ん~……でも、想像つかない。ってか、絶対無理な気がする……。



「実央~?? 実央ー! 聞いてる???」


「え? あぁ……うん。」



 聞いてなかったけど。



「待ち合わせ何時からなの??」


「2時に駅前…」


「じゃあ、お昼ご飯一緒に食べよっか!」



 愛央は甘いものが特別好きってわけじゃないけど、食べる量は半端なく多い。

小さい体にどうやったらあれだけの食べ物が入るのか疑問で仕方ない。



「いいけど……ケーキバイキングだから、あんまり食べない。……ここでもう少し軽く食べる?」」


「いいよ~おごってあげる!」


「さすが、社会人。」


「まぁね!」



 愛央があんまりにも何回も笑うから。その笑顔があまりにも可愛いから。



 私も自然に笑ってたんだ。


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