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ただ……願う  作者:
本編
14/75

第14話

どこできるか迷った挙句、少し短めになってしまいました(汗



「玲衣!!!」


「!?……み、お…?」


「やっぱり…これは吸わないで、って言ってるのに!」



私はお兄ちゃんの手からタバコを没収した。

タバコは私の大嫌いな臭い。しかも体に悪い。


最近二十歳になったばかりのくせに、お兄ちゃんはイライラすると吸うみたいだけど…朱音もタバコは嫌いだから吸わないようにするって言ってたのに!



「朱音が来ないからってこれはないと思う。」


「ごめん…やめようと思ってるんだけど、ついイライラしちゃって。」



深くため息を吐く玲衣の姿は確かにとてもストレスがたまっているように見えた。



「朱音なら先に帰ったって。喧嘩でもした?」


「う~ん…ちょっとすれ違い、かな?」


「そう…仲直り、早くして。」


「うん。」



仲直りするために、私が何かすることはない。

そんな風に誰かが入ってお節介して、うまくいくとは思わないから。



「今日は一緒に帰る?」


「そうだね…そういえば、実央。さっき、俺のこと「玲衣」って呼んでたよ?」


「……そう。」



あるときから私は「玲衣」と呼んでたのから「お兄ちゃん」に呼び方が変わった。



「もう癖は抜けたと思ってたんだけど…」


「いつからだっけ?実央が俺のことお兄ちゃん、って呼ぶようになったの。」



玲衣が単純に、そう聞いた。

私は自嘲するように小さく笑ってから答えた。



「いちいち覚えてないけど…お姉ちゃんが家を出てってからぐらいじゃない?。」


「そうか…そうだったね。」



私にはお姉ちゃんが一人いた。

青谷(あおたに) 愛央(あお)


「あおたに」という苗字に「あお」という名前。

両親のセンスを疑うこともあったけど…

愛央は両親の名前に込められた期待通り、みんなに愛されている人だった。



お兄ちゃんはいなかったんだ。



そして、お母さんはずっといない。私から見れば、母親がいたのはたったの3年だけだった。



別に、そんな深刻な話じゃない。

私を生んだ時にお母さんが死んでしまっただけ。

それで、私が小学4年生の時。お父さんが再婚した。その相手の息子が玲衣だった。



愛央はその再婚に大反対で。再婚してから2年後。

家を出て行った。



愛央は私の4つ上でお兄ちゃんと同い年。

だから愛央は高校1年生で家を出て行ったことになる。



今、愛央は社会人として立派に生きてる…と本人は言ってた。

玲衣にもお父さんにも内緒だけど、私は月に何回か愛央と会ってる。


お義母さんには内緒じゃないかって話だけど…

お義母さんは亡くなったから。愛央が出て行った1年後に。



再婚には何も問題はなかった。

もし、何か問題があったのだとすれば…

玲衣と愛央は付き合ってたってことぐらい。


でもそれは、お父さんとお義母さんが再婚する前の話。

つまり、普通に付き合ってた、赤の他人だった恋人同士が…再婚のために「義兄妹」になってしまった、っていうこと。


お姉ちゃんが再婚に反対してたのは、これが理由。

どうしてもお兄ちゃんと付き合っていたかったんだって。

でも、お兄ちゃんは諦めた。義姉弟は結婚できるにもかかわらず。


私がそんなことを知っているのは、ある時の2人の言い合いを聞いてしまったから。



「どうして、お互い好きなのに別れなきゃいけないの!?」


「愛央。落ち着いて。」


「落ち着ける訳ないじゃない!!!!」



当時小学4年生だった私はその頃から可愛げがなかった。

だから、お姉ちゃんであるはずの愛央の方が常に可愛がられていた。

感情表現がとても豊かで…愛央は、朱音と少し似ていた。



「ねぇ、玲衣!私は嫌だっ。別れるなんて…」



愛央は叫んでた。お義母さんとお父さんがいれば普通に聞こえていただろう声で。

でも、父と母は外出していて。私もその日は外に居る予定だったのだが、忘れ物をしたことに気づいて家に帰ってきたらこの騒ぎだった。



「でも…そうするしかないだろう…」



玲衣の声は苦悩に満ちていた。

そうするしかない、と言う割にはどうしてこんなことをしなければならないんだ、という怒りの色が強かったように私には思えた。



「どうして!?」


「俺たちが付き合ってるって知ったら…きっと、母さんもお父さんも傷つくよ。」



きっと、玲衣が私と付き合っていれば、玲衣の様子のおかしさに気づけたのかもしれない。

でも……愛央は私みたいに冷静に人間観察などできる人間ではない。

ましてや、自分が大好きな人と別れなければならないという状況の時にそんなことをしようという考えさえ浮かばなかっただろう。



「義兄妹になってから付き合ったわけじゃないでしょ!お父さんたちが後からくっついたのよ!?お父さんたちが別れればいいのよ!!」


「愛央!」


「……………」



私はその時、ただ冷静に現実を受け止めていた。

喧嘩しないで、と止めることもなく、ただ彼らの話に耳を澄ましていた。



「愛央。俺は愛央が好きだよ。でも…母さんの苦しみを、俺はずっと横で見てきた。母さんに…幸せになってほしいと、そう思ってるんだ。」



理由は詳しくは知らないのだが、玲衣には小さい頃から父親がいなかった。

玲衣のお義母さんは実家で玲衣を育て始めたのだけど、父親がいないということで噂をされたり、玲衣が学校で虐められたり。いろいろと苦労があったらしい。


玲衣はそんな風に苦労をした母親に幸せになってほしい、そう思っていたんだ。



「お父さんたちに…話してみちゃダメなの…?きっと…もしかしたら…!」


「愛央…」


「…………」



玲衣の言葉に含まれた「ダメだ」という否定を感じ取った愛央は唇をかみしめ、うつむいて大粒の涙をぽろぽろと流した。



「ごめん…俺は母さんに幸せになってほしい…だから、愛央とは付き合えない。」


「ひどい…ひどいよ!そんなのってない!!!」


「ごめん…ごめん、愛央…」



玲衣と別れてから、愛央は壊れ始めた。

顔色はずいぶん悪くなるし、食欲は減る一方だった。

そんな生活が2年続いた…。



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