第13話
私の嫌な予感って結構的中率が高いと思う。
「何の用…?」
私は放課後、高浜に呼び出された。
正しくは、高浜と他女子数名。
本音を言えば行きたくなかったんだけど、「来なかったら木島朱音に危害を加えるから」って書いてあったから仕方なく来た。
まぁ、朱音に危害を加えたらお兄ちゃんがただではおかないと思うんだけど…。
「こいつか?」
その場所に高浜はいなかった。
いたのは大柄な男が3人。
「来たんだからこいつだろ。」
「ってことは思いっきりやっちまっていいんだよな。」
「ったりめぇだろ。」
そんなに私の噂が怖かったのか。
ヤクザの頭じゃないのに。こんなでっかい男3人も用意して。
「おい、おまえ。青谷美央か?」
「そうだけど…何?」
「俺らの女ボコってくれたそうじゃねぇか。」
はい???????
「何のこと…?」
「しらばっくれてんじゃねぇ!」
うるさい。
大声で怒鳴ればビビるとでも思ってるんだろうか。
うるさいだけだ。
「俺らの女がお前に理由もなく殴られた、って連絡よこしたんだよ!」
「…私、あんたの女知らないんだけど。」
まぁ、でもたぶん、ここに呼び出したのが高浜達ってことは…。
「とぼけんのもいい加減にしろや!!」
「……高浜のこと?」
「そうだよ!」
やっぱり。
ってことは…
「あとの2人はその取り巻き?」
「取り巻きって―っ!!!」
なるほど。
そういうことね。
「いつから付き合ってんの?」
「先週からだよ!なんか文句でもあんのか!!」
「別にないけど…」
けっこう前から計画を立て始めて、不良の喧嘩っ早い男をうまいこと引っかけて、私に痛い目見せようってわけか。
そんなことしなくても、女子数人でやられるのに。
「それで、私と喧嘩するつもりなわけ?」
「あぁ。」
こぶしをパキパキと音を鳴らしてる。
「…女殴るのって、どうかと思うけど。」
「自分の女殴られて黙ってるのは男じゃねぇんだよ!!」
女同士の争いに男が首を突っ込むとロクなことにならないって聞くけどね。
「無実の罪を着せられても困るし。」
「いつまでとぼけてんだよ!!!」
あー…警察の取り調べ受けてる気分。
実際、警察に捕まったことなんてないんだけど。
「やってないことはどうしようもないって言うか…」
「ふざけてんじゃねぇぞ!!」
頭に血が上ってるなぁ…。
これじゃあいくら話しても、彼らは私の言葉になんて耳を貸さないだろう。
「いくら言っても聞かないんじゃ逃げるしかないって言うか…」
「は?――っっっ!!!!!」
私は男の向う脛を思いっきりつま先で蹴った。
けられた男は痛がってのたうちまわってる。
あとの2人は呆気にとられている。
今のうちに…
逃げる。
「お前ら何やってんだ!!追いかけろ!」
「お、おぅ!!」
追ってきたし…とりあえず、職員室まで逃げるか?
それまでもつかな…。
「わりと運動不足だな。」
「不良」っていうのはタバコ吸ってる人も結構多いし。
タバコ吸ってると走れなくなるって言うし。
私はタバコの臭いとか、大嫌いだからその点は問題ないというか。
「ま、待てー!!!!」
待てって言われて待つ奴はいない。
ましてや、追いかけられてる立場なのに。
「待てや、こらぁ!!!」
無視してダッシュで角を曲がる。
『ドーン!!!!!』
「痛…」
「イタッ……ごめん…なさい…」
「やっと追いついたぞ!!」
あぁ…最悪。
こういう時に限ってぶつかるなんて…。
「青谷…?どうした?何があった??」
え…?
「朝霧…先輩。」
ぶつかったその人は朝霧先輩だった。
「朝霧先輩…」
って…喧嘩強いのかな?
いや…朝霧先輩はバスケ部に入ってる身だ。しかもキャプテン。
問題起こすわけにはいかない…ってことは、朝霧先輩には頼れないか…。
「おい。おまえ。その女、こっち寄越せよ。」
「…渡す理由がねぇだろ。」
偉そうな不良の言い方が嫌だったのか、朝霧先輩は眉間にしわを寄せ、不機嫌そうな顔をした。
「こっちは彼女ボコられてムカついてんだよ!!それが理由だ。早くそいつ貸せ。」
「ボコったのか?」
不良が声を荒げて言うのに対し、朝霧先輩は極めて冷静だった。
「そんなめんどくさいことしない…です。」
「てめぇ、まだ言いやがるか!!」
いつまでも言うし。それが真実なんだから。
「…やってないんだよな。」
「はい。」
「ん。じゃあ、俺に任せとけ。」
朝霧先輩はこぶしをパキパキと鳴らした。
んー…不良と同じことをしても、威圧感と言うか、オーラみたいなのが朝霧先輩の方が断然あるのは何故だろう。
顔か?やっぱり、顔がかっこいい方が何をやっても様になるのか?
「でも、先輩、部活…」
「大丈夫だ。」
何が大丈夫なんだろう?…よくわからない、けど。
ここは、朝霧先輩に任せるしかなさそう。
頼れるものには頼っておこう。
「んだよ!やるのか!!」
「空手…黒帯、有段者だけど。それでもやるわけ?」
不良たちはピタッと固まった。
「「え…」」
「少し久し振りで加減わかんねぇかも知れねぇけど、それでもいいのか、って聞いてんだよ。」
さっきの奴らみたいに大声でバカみたいに怒鳴るより、朝霧先輩がこうやって静かに低い声で言う方が数倍怖いと思う。
実際、不良2人ともビビってる。
「ど、どうせパチこいてんだろ!」
「そ、そうだよな―」
1人が頷こうとした瞬間!
朝霧先輩のこぶしがそいつの顔めがけてとんでいった。
「次は当てるけど。やる?」
寸止め…。
私がやられたわけじゃないけど、なんかすごいびっくりした。
「「す…すみませんでしたぁ!!!!!」」
ださっ…。
逃げていくにしてもせめて強がり言って逃げてけばいいのに。
まぁ、とりあえず、朝霧先輩に感謝だ。
「大丈夫か?」
「はい。」
「…もしかして、高……岸?たちの仕業か?」
悩んだのに結果的に間違えるのかよ…。
「高浜です。」
「あぁ、そいつ。」
朝霧先輩、まだ名前覚えてなかったのか…。
「そうみたいです。」
「あいつら…」
朝霧先輩は宙を睨んでいた。
「…ありがとうございました。」
「……お前が傷つくと真がうっせぇからな。」
「それはわかります。」
朝霧先輩は私の言葉にフッと笑った。
「………」
「ん?どうした??」
「いえ…」
びっくりした、朝霧先輩の笑顔に。
すごく優しく笑う人なんだ、って思った。
なんか…すごいキザなセリフみたいだけど。
あいつとは…牧瀬とは、また違う笑顔。
「牧瀬と一緒にいないなんて珍しいですね。」
「やめろ。なんか俺がゲイみたいに聞こえる。」
「違ったんですか?」
「違うに決まってんだろ、バーカ。」
コツン、って頭をたたかれた。
例によって、ドキッとはしなかったけど。温かいな…って何かそう感じた。
「朝霧先輩…」
「ん?」
「空手有段者って…本当ですか?」
「いや、パチ。喧嘩はまぁまぁ強い自信あるけど。」
やっぱり。
でもやっててもおかしくなさそうな雰囲気?はあるけど。
「小さい頃からバスケ…ですよね。」
「そうだな。お前もそうなんだろ?」
「そう…ですね。」
バスケばっかりやってた。
ボールは友達、って…そう、言ってたから。あの人が。
「あ、いた!琢磨ぁ!!…と、実央!?」
「げ…牧瀬。」
「クク……げ、とか言ってやるなよ。」
「だって……」
牧瀬は別に走る必要もないのに走って朝霧先輩と私のところまできた。
「琢磨!!」
少しムスッとした表情で牧瀬は朝霧先輩に詰め寄った。
「なんだよ。」
「実央と2人で何やってんの!?」
「話してただけだけど。」
「ずるいっ!!!」
「うるさい。」
私のセリフでやっと牧瀬は黙った。ったく…有名人じゃあるまい。
話すのにずるいもクソもない
「よしっ!じゃあ、3人で帰ろっか!」
「あんた、バカ?朝霧先輩、家逆方向だから。」
「じゃあ、俺と2人で帰る?」
「朱音と帰る。」
って、朱音はお兄ちゃんと帰ってるのか…。
「え??木島ちゃんなら一人で帰っちゃってたけど…」
「え…?」
どういうこと???
今日はお兄ちゃんにバイトが早く終わる日じゃ…。
2人で帰らないなんてありえない…。
朱音が先に帰ったってことはお兄ちゃんもしかして、まだ待ってる…?
「私…帰る。」
「えっ、ちょっと!?」
私は牧瀬を置いて走って行った。