第1話
「ねぇ、1組の青谷さん、知ってる?」
「知ってる、知ってる! 笑わない子で有名なあの子でしょ?」
「そう! マジで怖くない?」
「思う~」
噂話、結構。
陰口、結構。
ただ、どちらも本人の聞こえないところでやってほしい。
「あいつら……!」
そうしないと、キレる人が一名いるから。
「落ち着いた方がいい。」
「なんで実央はそんなに冷静なのよ!?」
「別に。気にすることでもない。朱音が自分のことじゃないのに怒りすぎ。」
陰口をたたかれた本人、私、青谷 実央、高校1年生は、熱くなる親友、木島 朱音と対照的に冷めていた。
ここは中高一貫の学校だけど、高校から入ってくる人も結構多いのだが、こういう陰口は中学の時から言われ慣れてるせいか別段怒りは感じない。
けれど、朱音が怒る。
自分のことを言われてるわけでもないのに。
それに、陰口が嘘八百を並べてるわけでもない。
私は滅多なことでは笑わない。別に笑えないわけでも、笑いたくないわけでもない。
ただ、笑いたくなるようなことがないだけ。
「でもさぁ、なんで朱音もあんなこと仲良くしてんだろうね。」
「それ、思う~。朱音は普通の子なのにねぇ。」
これも嘘ではない。
朱音はよく笑うし、よく泣くし、よく怒る。一言でいえば、感情表現が豊かなのだ。
明るい朱音は割と誰からでも好かれる。まぁ、当然合わないという人もいるだろうが、間違いなく好かれやすいタイプである。
それなのに、なぜか私と仲良くしている。
まぁ、小学生時代からの友達、というのもあるのだろうが……
朱音は単純なところがあってわかりやすいのだが、それだけはいまだに謎である。
「……ねぇ、実央。私のこと言われてたら怒っていいの?」
「別に貶されてるわけじゃないから気にする必要はないと思う。」
「私は実央の悪口言われてるのがムカつくのー!」
ムスッとした顔をする朱音。
私のために怒ってくれている、でも、私にはその理由がわからない。
「ありがとう。その気持ちで十分。もめごと起こさないで。」
「むー……わかってるよ。」
私の高校生活の目標は、平和に過ごすこと。
これって大事なことだと思う。
笑わないせいか、私はものすごい怖い人になっている。
そのおかげで、虐めにあうこともなく、私は目標通りの生活をしてた。
あいつと、出会うまでは……