悪魔の美酒。ETA ホフマン原作、その8 副題、カロー風幻想曲の作者によって出版されたカプチン会修道士メダルドウスの手記より。
第2部
第1章 転機
ああどんな人の一生にも、愛の秘密を秘めていない者などあるだろうか?
今、私は白髪となり、老いさらばえて、暗い修道院の独房で、この手記を書きつづっている。
そうして、私の溜息はほのぐらい修道院の回廊に
響くのみなのだ。
アウレーリエ、お前は永遠に私のものではなかったのか?
アウレーリエ、侯爵邸で盛装して出てきたお前はどんなに美しかったことか。
お前は人々の間を優雅に歩き挨拶していたね?
あなたはある少佐のところで談笑を始めた。
それを見ていた私は、
突然、その少佐がビクトリン伯爵の姿に見えたのである。
氷のように冷たい戦慄が私を襲ってきた。
私は広間を飛び出して外へ逃げた。
それ以来私は宮廷に行くのを避けるようになった。
心は乱れて
私は一人で森やら公園をさまよい大声でアウレーリエの名を叫んだり、大声で笑ったりした。
ある日のこと、庭園をぶらついていると、侍医が声をかけてきた。
「もし、もし、お脈を取らせて下さい」
『どうしたんですか?」
「いえね、このあたりで狂人がわめいたり叫んだりしているという噂でしてね」
それが私と何の関係があるんですか?」
「あなたのこの頃の様子を心配しましてな」
と、そこに、侯爵夫人とアウレーリエが通りかかった。
アウレーリエは私に気づくとアッといってそのまま失神して倒れた。
私はそこを逃げ出して部屋に閉じこもった。
夕方部屋のドアを激しくたたく音が、、、。
開けるとそこには数人の憲兵がいて連行されたのである。
着いたところは要塞の監獄だった。
翌日、
私は引き立てられて裁判所に入った。
小柄な痩せこけた裁判官は
『あなたのここへ来るまでの経歴をすべて話しなさい」と命じたのである。
『それより私の逮捕理由を教えてください」と私は言った・
『それは今は話せない、とにかく経歴をすべて話しなさい」
私は頭の中でうまい経歴をねつ造することに専念した。
私がヘルモーゲン殺しの犯人のメダルドウスとして逮捕されたことは確かだろう。
『私はポーランドの貴族でレオナルト・クルチンスキーと申します。父が亡くなった後財産を売り払いドイツへ出てきたのですよ」
と、ニセの経歴を語ったのである。
それからいろいろやり取りがあったがそれ以上は事態は進まなかった。
私は再び牢に戻されたのである。
それから3日、何の音さたもなかった。
私は夜になるとオイフェーミエとビクトリンの幻影にうなされた。
9日目の夜だった。
床下からコツコツとたたくような音が、、、。
耳を澄ますと
「メダルドウス、メダルドウス」と呼んでいた。
『兄弟メダルドウス、さあ、一緒に森へ行こう」
『哀れな狂人め。俺はいけないのだ。こうして牢に閉じ込められてるんだからな」
そういうと
声は次第に遠ざかって行った。
次の日私は裁判所に引き出された。
今度は若い裁判官が尋問してきた。
「あなたは本当にポオランド生まれですか?」
『もちろんです。タウエエツイーツホで生まれたのです」
「そこは誰の領地ですか?あなたのポーランド語はドイツ訛りが強いですね?」
『あなたはB町のカプチン会修道院へは行ったことはありませんか?」
『ありません』私はきっぱりと答えた。
するとそこへなんとあの、チリルス修道士が現れたのである。
『兄弟メダルドウスよ、悔い改めなさい」哀しそうにそう、言った。
『私はそんなメダルドウスとかいう修道士にあったこともありません」
私はあくまでも否定し続けるのだった。
「では、あなたの首筋を見せなさい」とチリルスが言った。
そこにはあのあざがあった。
『あなたはまだ否定するのですか?」裁判官は言った。
私は興奮して
「いったいなんだっていうんだ、こんな老いぼれ坊主の言うことが信じられるのか?
たまたま似たようなあざがあったって、それだけで、私がそいつだというのか?
私は無罪だ、完全に無罪だ」
私はなおもわめき続けるのだった。
こうしてその日の取り調べは終了した。
私は再び牢に戻された。
その夜だった。
再びコツコツと床下をたたく音が、、、。
『兄弟よ。あけてくれそっちへ行くぞ。このナイフで森へ逃げろ」
やがて敷石がごとごとと揺れて、動き、そこが開いて
その穴から一人の裸の男がぬーっと顔を出して、恐ろしい笑い声を発した。
見るとそれは私自身だった。
私は気を失って倒れた。
次の日目覚めると懐の中に何やら固いものが、、、
見るとそれは、あのナイフだった。
尋問は待っていてもなかった、
私は焦燥と疲れで眠りについた、
すると私は宗教裁判所にいるのだった。
そこでの尋問は拷問だった。
はっと目が覚めると、
そこに見慣れぬ修道士がいた。
それはあの、異国の画家だった。
「ああ、あなたですか。商業都市にいたのは、そしてB町のカプチン会修道院にいたのも、」
『やめろ、もうそれ以上言うな。お前はいつも私の言うことを聞かなかったな?
お前が永遠の救いを得るためには最後までやり抜く仕事があるのだぞ、」
「ああ、ではなぜ私が殺人を犯す前に引き留めてくれなかったのですか?」
『いいか、メダルドウス、運命が定めたことを先立って止める力など私にはないのだ」
「それよりメダルドウスよ、お前が目的地に着く日も近い」
「いつまたお会いできますか?」
「目的地で会おう」
そういうと画家の姿は消えていた。
次の日だった。
久しぶりに刑務所長が現れて、ゆっくりと厳しい口調でこういった。
「クルティンスキーさん。おめでとう、
あなたは自由です。あなたの疑いは晴れたのです
完全にあなたは自由です。
その8終わり。
その9に続く。(全15話の予定です)
2013,12,31 付記
諸般の事情で、9話~15話までの連載が中断されています。
いつか?再開したいとは思っておりますが
いつになるかはわかりません。
待ちきれない方(そんな奇特な方はいないとは思いますが、、、)
絶版ですが、邦訳本が出てますので
古書店、アマゾン、ヤフオクなどで探してお読みくださいませ。
間に合わせ?として連載再開まで
9話から15話までの
ごく 荒っぽい梗概を載せましたのでそれをご覧おきくださいませ。




