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第7話 世界法則を殴ってみた結果

空が、音を失っていた。

 風も、鳥も、虫の羽音も。

 すべてが停止している。

 ただ一つ。

 目の前の“それ”だけが、世界と同じ側に立っていた。

「――名を持たぬ存在よ」

 声が、直接脳に響く。

「是正を開始する」

 バグが俺の背中にしがみつく。

「仕様外さん……これは、執行者です……!」

「世界そのもの、だっけ?」

「はい……! 普通の攻撃は意味が――」

 最後まで聞かず、俺は踏み込んだ。

【《仕様外行動》発動】

 地面が一瞬遅れて存在を主張する。

 そのズレを利用して距離を詰める。

 だが。

 執行者の足元に、円が浮かぶ。

【存在照合】

 視界が真っ白になった。

「――登録不能」

 次の瞬間、体が“薄く”なった。

「……おい」

 手が透けている。

「仕様外さん! 削られてます!」

「HPは?」

【HP:-17 / 100】

「減ってない」

「数値じゃないです! 存在値です!」

 なるほど。

 数値で管理できない部分を直接削ってきたわけだ。

「厄介だな」

「だから逃げ――」

「無理だろ」

 俺は笑った。

「逃げても追ってくるタイプだ」

 執行者が、再び宣告する。

「名を持たぬものは、世界に不要」

「……うるせぇな」

 胸の奥が、妙に熱い。

「なら聞くけどさ」

 一歩踏み出す。

「名前がないと、生きちゃいけないのか?」

 一瞬だけ、空間が揺れた。

 バグが息を呑む。

「仕様外さん……今……」

「なんだ?」

「干渉、してます……!」

 俺は拳を握った。

「だったらさ」

 執行者に向かって、踏み込む。

【《仕様外行動》過負荷】

 世界が軋む音がした。

「お前が“正しい側”なら」

 拳を振り抜く。

「一回くらい、ズレてみろよ!」

 ――衝突。

 衝撃はない。

 だが。

 執行者の輪郭が、わずかにブレた。

【是正処理:エラー】

 赤い文字が空に走る。

「……え?」

 バグが、震える声で言う。

「今、世界が……エラーを出しました……」

 執行者が、初めて後退する。

「理解不能」

「そりゃそうだ」

 俺は肩で息をしながら笑う。

「こっちは最初から理解されてない側だ」

 だが、次の瞬間。

 強烈な重圧。

 膝が地面に落ちる。

「……っ」

「仕様外さん!」

【強制是正:最終段階】

 視界が崩れ始める。

 このまま押し切られれば、終わる。

 そのとき。

 バグが前に出た。

「やめてください!」

 彼女の体が、一瞬だけ完全な形になる。

「この個体は――」

 言葉が、ノイズに変わる。

「内部要因確認」

 執行者の声が、低くなる。

「異常源特定」

 空間が凍った。

 バグの存在が、観測されている。

「……やばいな」

「仕様外さん……」

 俺は、ゆっくり立ち上がった。

「巻き込んだのは俺だ」

 拳を握る。

「なら、俺が前だ」

 最後の力で、《仕様外行動》を叩き込む。

【判定領域:強制分断】

 世界が、わずかに裂けた。

 執行者の姿がノイズに包まれる。

「……一時撤退」

 その声を最後に。

 空が、元に戻った。

 音が帰ってくる。

 風が吹く。

 俺は、その場に崩れ落ちた。

「はぁ……はぁ……」

 バグが、隣に座り込む。

「……勝ち、ました?」

「いや」

 空を見上げる。

「折っただけだ」

 完全に壊せたわけじゃない。

 でも。

 世界は一瞬、エラーを出した。

「……仕様外さん」

 バグが、静かに言う。

「今日、世界はあなたを“消せなかった”」

「だな」

 俺は目を閉じる。

「ならさ」

 ぽつりと呟く。

「そのうち、名前くらい――」

 言いかけて、やめた。

「……いや、まだいい」

 今はまだ、世界に決めさせない。

 こうして俺は、

世界法則に初めてエラーを刻んだ存在になった。

 そして管理局は理解する。

 この“未定”は、

 単なる不具合ではないと。

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