第6話 管理局は、仕様外を許さない
世界管理局・中枢観測室。
円形のホールに、無数のウィンドウが浮かんでいた。
どれもが同じ一点を示している。
【対象:未定】
【通称:仕様外個体】
【危険度:A】
「……ここまでとはな」
白衣を纏った男が、低く呟いた。
「英雄化、称号獲得、民意への影響。
本来ならあり得ない経路です」
隣に立つ女性管理官が淡々と報告する。
「転生処理の失敗では説明がつきません」
「失敗ではない」
最奥の席に座る存在が、静かに口を開いた。
顔は影に隠れているが、声だけで格が違うとわかる。
「あれは“拒否”だ」
空気が張り詰める。
「世界が、個体を受け入れていない。
それにもかかわらず、存在し続けている」
「……本来なら即時消去案件です」
「だが、できていない」
ウィンドウが切り替わる。
森の中。
賞金稼ぎたちを無力化する映像。
「攻撃していない。
だが、世界の判定そのものを歪めている」
「戦闘力評価不能。
測定基準が通用しません」
管理官の一人が、苦々しく言う。
「まるで……」
言葉を選びながら、続けた。
「バグのようだ」
その瞬間。
観測室の空気が、わずかに揺れた。
「……その単語は使うな」
最奥の存在が、声を落とす。
「内部要因を想起させる」
沈黙。
「対処方針を決定する」
管理局長が、淡々と告げる。
「仕様外個体を――
世界の敵として正式認定する」
ウィンドウが赤く染まった。
【指定災害レベル:個体災害】
【識別名:未定】
【処遇:排除優先】
「英雄としての民意は?」
「無視する。英雄は“名前を持つ存在”にしか与えられない」
その言葉に、数名が頷く。
「名を持たない以上、
彼は“誰でもない”」
「……なら、消せる」
管理局長は、静かに指を鳴らした。
新たなウィンドウが開く。
【執行者:派遣準備完了】
「次は人ではない」
冷たい声が続く。
「世界法則そのものを行使する者を送る」
一方、その頃。
森の中。
「……なんか、空気重くない?」
俺が言うと、バグが硬直した。
「……来ます」
「何が?」
「世界そのものが」
その瞬間、空が一瞬だけ“裏返った”。
音が消える。
色が薄れる。
【警告】
【強制是正プロセス:開始】
バグが震える声で言う。
「仕様外さん……
これは……」
俺は、ゆっくり立ち上がった。
「ついに、直接来たか」
視界の奥で、
“人の形をしていない何か”が、歩いてくる。
それは剣も持たず、魔法陣も描かない。
ただ、世界に命令しているだけだった。
「――名を持たぬ存在よ」
声が、頭の内側に響く。
「ここで終わりだ」
俺は、小さく笑った。
「悪いな」
足を一歩、踏み出す。
「まだ名前、決まってないんだ」
バグが、俺の背中にしがみつく。
「……仕様外さん……!」
【《仕様外行動》強制発動】
【世界是正処理:干渉開始】
こうして俺は、
世界そのものと、初めて真正面からぶつかることになった。




