第5話 懸賞金が倍になりました(名前はまだありません)
森を抜けて一晩。
俺とバグは、人の通らない獣道を選んで移動していた。
「……静かすぎないか?」
「はい……不自然です……」
鳥の声がない。
風の音も、どこか歪んでいる。
嫌な予感しかしない。
その時、視界に赤い通知が割り込んだ。
【指名手配:情報更新】
嫌な予感、的中。
【危険度:B → A】
【懸賞金:銀貨500 → 金貨20】
【理由:英雄的行動による民意の混乱】
「理由ひどくない?」
俺は思わず声に出した。
「英雄扱い……想定外だったみたいです……」
バグが申し訳なさそうに言う。
「管理局は、“恐れられる仕様外”を想定してました。でも……」
「人助けしたら逆に危険度アップ?」
「はい……制御不能と判断されました」
なるほど。
悪者として倒す予定だったのに、
善行で人気が出たせいで余計に邪魔になったわけだ。
「つまり俺、空気読めてない存在?」
「……はい」
即答だった。
その瞬間。
森の奥から、複数の気配。
「……来たな」
「賞金稼ぎです……! 数、五……いえ、七!」
「金貨20枚ならそりゃ来るか」
ほどなくして、武装した男女が姿を現した。
冒険者。統一されていない装備。
完全に“金目当て”だ。
「おい!」
リーダーらしき男が叫ぶ。
「指名手配の“仕様外個体”だな!」
俺は一歩前に出た。
「違うと言ったら?」
「信じると思うか?」
「だよな」
男が笑う。
「名を名乗れ」
――来た。
たったそれだけの言葉なのに、
胸の奥が嫌な音を立てた。
「……名乗れない」
ざわつく一同。
「は?」
「ふざけてんのか」
「名前もない化け物かよ」
俺は、息を吐いた。
「嘘じゃない。
名前が、存在しない」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、剣が抜かれた。
「もういい、捕らえろ!」
――戦闘開始。
【《仕様外行動》発動】
【攻撃判定:不整合】
剣が、俺をすり抜ける。
「なっ!?」
次の一撃は、地面に吸い込まれた。
「……またか」
「仕様外さん! 今、判定が乱れてます!」
俺は一歩踏み出す。
踏んだはずの地面が、一拍遅れて存在を主張した。
そのズレで、敵が転ぶ。
「うわっ!」
「なんだこれ!」
直接攻撃はしない。
必要ない。
“世界の都合”を、少しだけずらす。
それだけで、戦いは成立しなくなる。
数分後。
賞金稼ぎたちは、誰一人倒れていなかった。
――ただ、全員が戦意を失っていた。
「……化け物だ」
誰かが呟く。
俺は剣を持っていない手を上げた。
「殺さない。帰れ」
一瞬迷った後、彼らは森を去った。
沈黙。
バグが、ぽつりと言う。
「……今の戦闘ログ、全部送信されてます」
「だろうな」
「これで……」
新しい通知。
【世界評価:危険】
【個体名:未定】
【備考:名を持たず、名を拒む存在】
俺は、その文言を見て笑った。
「拒んでるのは俺じゃない」
「……はい」
バグは、ぎゅっと拳を握る。
「でも……このままだと……」
「わかってる」
俺は空を見上げた。
「名前がないって、
思ったより不便だな」
敵にも、味方にも、
呼ばれる言葉がない。
それでも――
【称号《仕様外の救済者》:効果変化】
【民意影響:微】
「……あ?」
「仕様外さん……称号が……世界に影響し始めてます……」
俺は、ゆっくり息を吐いた。
「世界に拒否されてるのに、
人には覚えられ始めてるってわけか」
矛盾だらけで、笑えてくる。
バグが、俺を見上げる。
「……名前がなくても」
言いかけて、止まる。
「いい」
俺は首を振った。
「まだ、その時じゃない」
こうして俺は、
名前を持たないまま、金貨20枚の男になった。
――そして、世界はついに気づき始めた。
この“仕様外”は、
放置するとまずいと




