第4話 指名手配犯なのになぜか英雄扱いされました
先に結論を言うと――
この世界の評価基準は、たぶん壊れている。
俺は今、森の外れにある小さな村にいた。
本来なら、絶対に近づく予定のなかった場所だ。
「仕、仕様外さん……本当に入るんですか……?」
バグが不安そうに、周囲をきょろきょろ見回している。
「見ての通り、火事だ」
村の奥から、黒煙が上がっていた。
叫び声。慌ただしく走る人影。
「助けを呼ぶフラグが……立ってます……」
「便利な感覚だな」
――数時間前。
世界管理局から、正式な通達が出た。
【指名手配】
識別名:未定(通称:仕様外個体)
危険度:B
理由:世界法則への重大な不整合
懸賞金:銀貨500枚
「Bって、そこそこ本気だよな?」
「はい……新人冒険者なら人生が変わる額です……」
つまり今の俺は、
見つかったら倒していい存在だ。
……それでも。
「この状況で放っておくのは、後味悪い」
「仕様外さん……」
俺は走った。
燃えているのは倉庫だった。
木造で、延焼寸前。
「中に子供がいるんだ!」
その声を聞いた瞬間、考えるのをやめた。
――正面突破。
本来なら自殺行為だ。
だが。
【《仕様外行動》発動】
【炎属性ダメージ:判定不能】
熱い。
でも、焼けない。
「……やっぱ無茶苦茶だな、俺」
「そこ冷静に分析しないでください!」
倉庫の奥。
泣き声。
抱き上げた瞬間、天井が崩れた。
――はずだった。
木材は、俺の周囲だけを避けるように落ちた。
「……避けた?」
「判定が……ズレてます……!」
数秒後。
俺は無事、外へ飛び出していた。
「助かった……!」
「すげぇ……!」
「英雄だ……!」
歓声。
拍手。
子供の母親が、泣きながら頭を下げる。
その瞬間、視界が切り替わった。
【称号を獲得しました】
【《仕様外の救済者》】
「……称号?」
バグが固まる。
「こ、これ……かなり珍しいです……」
「いいやつ?」
「はい……でも……」
彼女は言いにくそうに続けた。
「指名手配犯に付く称号じゃありません」
だろうな。
村長が近づいてくる。
「あなた、名前は?」
その言葉で、空気が止まった。
「……」
答えようとして、できなかった。
視界の端で、ステータスが揺れる。
【名前:未定 → 読み込み中……】
一瞬だけ、何かが表示されかけて――
【エラー:名前の確定に失敗しました】
「……今の、見えましたよね」
「み、見ました……!」
バグが小さく息を呑む。
「本来なら……今、名前が登録されるはずでした……」
「でも、拒否された」
「はい……」
その直後。
村の入口がざわついた。
「――指名手配犯がこの辺にいると聞いた!」
武装した冒険者たち。
賞金目当てだ。
だが、村人たちは俺の前に立った。
「この人は恩人だ!」
「犯罪者なわけがない!」
「帰れ!」
俺は、一瞬言葉を失った。
――世界からは排除対象。
――人からは英雄。
矛盾だらけだ。
バグが、俺の袖を掴む。
「……仕様外さん」
小さな声で、でもはっきりと。
「……このままここにいると、もっと危険になります」
「わかってる」
俺は、村人たちに一礼した。
「助けてもらったのは、俺の方だ」
そのまま、森へ戻る。
背後で、誰かが呟いた。
「……名前も名乗らない英雄か」
それを聞いて、少しだけ笑った。
こうして俺は、
名前を持たないまま、英雄扱いされる指名手配犯になった。




