第1話 異世界が壊れているんだが
異世界に来て最初に思ったことは、
「俺、もう死んでるよな?」だった。
だってHPがマイナスだ。
【HP:-17 / 100】
【状態:正常】
正常なわけあるか。
「えっと……仕様外さん……」
目の前で、美少女――バグが縮こまっている。
「……仕様外さん?」
「な、名前が未定なので……その……」
なるほど、そう呼ぶしかないのか。
なんか雑な扱いだな。
近くで見ると、彼女は本当におかしい。
輪郭が微妙にブレているし、髪の一部が一瞬だけ消えることがある。
「なあ、聞いていいか?」
「は、はいっ! 直しますか!? 消しますか!?」
「どっちもやめてくれ」
俺は即答した。
「まず状況整理だ」
ステータス画面をもう一度開く。
【名前:未定】
【レベル:0.5】
【職業:無職】
【HP:-17 / 100】
「……0.5って何?」
「本来は整数しか存在しません……」
「だよな」
念のため立ち上がってみる。
普通に動ける。痛くも苦しくもない。
「HPマイナスなのに平気なのは?」
「オーバーフロー……だと思います……」
「聞き慣れた単語出てきたな」
どうやら俺は、死んでいるはずなのに判定されていない存在らしい。
「……今の俺、完全に仕様外?」
「はい……その……すみません……」
バグは今にも泣きそうだった。
「本当は転生者の初期処理には近づいちゃいけないんです。でも、数値のズレが見えて……直さなきゃって……」
「直そうとして、悪化した?」
「……はい」
知ってた。
俺は近くの小石を拾って、投げた。
――途中で、消えた。
「……今のは?」
「当たり判定が……抜けました……」
草を踏むと、足が地面に少しめり込む。
「おい」
「すみません!」
「謝るな。確認だ」
俺は少し考えてから言った。
「バグ、ちょっと動かないでくれ」
「は、はい?」
彼女がぴたりと止まる。
もう一度、石を投げる。
今度は普通に当たった。
「……なるほど」
俺は思わず笑った。
「お前、触ると壊すタイプだろ」
「うぅ……」
「でもな」
俺は彼女を見る。
「直さなくていい」
「……え?」
「正確に言うと、直せないなら、使えばいい」
バグはぽかんと口を開けた。
「消そうとするから失敗する。
なら、どう壊れるかを把握すればいい」
「さ、再現性……?」
「そう。
バグは武器になる」
その瞬間。
【スキルを獲得しました】
【《仕様外行動》】
「……え?」
俺とバグは同時にステータスを見る。
どうやらこの世界は、
名前もルールも決まらないまま、俺を受け入れてしまったらしい。




