第14話 上位代理人《R-01》の観測
夜の森。
焚き火が静かに揺れている。
未定は木の枝を火に投げた。
「……静かすぎるな」
バグが小さく震える。
「仕様外さん」
「なんだ」
「来ます」
「L-17か?」
「違います」
その声が、いつもより低い。
「もっと上です」
その瞬間。
空間が、音もなく割れた。
裂け目。
黒い線。
そこから、一人の人物が歩いてくる。
白と黒の衣装。
整いすぎた顔。
感情の存在しない瞳。
「観測開始」
静かな声。
未定はため息をつく。
「また管理局か」
「訂正」
その人物は言った。
「私は代理人ではない」
一歩前へ。
「上位個体《R-01》」
森の空気が重くなる。
バグの輪郭が揺れる。
「仕様外さん……!」
「分かってる」
未定は立ち上がる。
「つまり、ボスってことだな」
R-01は少しだけ首を傾げる。
「理解は概ね正しい」
「で?」
「何しに来た」
「観測」
即答だった。
「対象:未定」
「……」
「あなたは世界に拒否されながら存在している」
「知ってる」
「さらに」
R-01の視線がバグに向く。
「エラー個体と結合」
バグが小さく後ずさる。
「やめろ」
未定が前に出る。
R-01は未定を見る。
「質問」
「なんだ」
「なぜ人を助ける」
「またそれか」
未定は肩をすくめる。
「理由いるか?」
「合理性がない」
「合理で動いてないからな」
R-01の瞳がわずかに光る。
「非合理行動は世界の安定を乱す」
「そうか?」
未定は笑う。
「今のところ、壊れてないだろ」
沈黙。
R-01は静かに言う。
「評価:危険」
その瞬間。
地面が沈む。
空気が圧縮される。
未定の体が一瞬で膝をつく。
「……っ」
「仕様外さん!」
R-01は、ただ立っているだけ。
「私は攻撃していない」
「圧だけかよ」
「世界の重みだ」
未定の足元の地面が割れる。
「あなたは軽すぎる」
R-01が言う。
「存在の重みが足りない」
「名前のせいか?」
「その通り」
バグが震える。
「仕様外さん……この個体……」
「分かってる」
未定は歯を食いしばる。
「……強すぎる」
R-01は一歩近づく。
それだけで、空気が沈む。
「未定」
初めて名前のように呼ぶ。
「あなたはまだ不完全」
「だろうな」
「だから今は」
ほんの一瞬。
R-01の視線が揺れる。
「消さない」
「……は?」
バグも固まる。
「理由」
R-01は淡々と言う。
「観測価値」
「……それだけか?」
「それだけだ」
沈黙。
R-01は振り向く。
「だが次に会うとき」
空間が歪む。
「あなたが“誰”になるか」
わずかな間。
「それを見て判断する」
裂け目が閉じる。
圧力が消える。
未定はその場に座り込む。
「……はぁ」
バグが慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですか!」
「ギリギリ」
「今の個体……」
「ラスボス候補だな」
未定は空を見る。
「名前がないと、ああなるのか」
バグは静かに言う。
「……はい」
沈黙。
火が揺れる。
未定は小さく呟く。
「そろそろ」
バグが顔を上げる。
「え?」
未定は火を見つめる。
「考えるか」
その言葉は小さい。
でも確かに。
名前の物語が動き始めた。




