第11話 観測値の改ざん
森。
夜。
焚き火の向こうで、未定が木の枝をいじっている。
「仕様外さん」
バグが小声で言う。
「管理局の動きが活発化しています」
「やっぱりな」
「代理人個体L-17に強い命令が出ました」
「排除か?」
「……はい」
未定は、少しだけ笑う。
「来るなら来い」
「余裕ですね」
「ビビっても仕方ない」
その時。
空気が歪む。
L-17が現れる。
「観測対象」
「よぉ」
バグが緊張する。
「戦闘準備――」
「不要です」
L-17は静かに言った。
未定を見る。
ほんの数秒。
「本日は排除を実行しません」
「命令違反か?」
「命令は存在します」
「じゃあ?」
「条件未達」
未定は眉を上げる。
「どういう意味だ」
L-17は、静かに視線を逸らす。
「観測データを再計算しました」
バグが、はっとする。
「……ログ、改変してますね?」
「改変ではありません。再定義です」
空気が震える。
「対象“未定”は世界安定度に対し、マイナスではなく……」
ほんの一瞬、言葉が止まる。
「……条件付きプラスと判断しました」
「そんな数値出てなかっただろ」
「出しました」
静かな声。
だが、その奥には微かな震え。
「私が」
沈黙。
バグが小さく呟く。
「内通フラグ……立ちました……」
「言うな」
未定は、L-17を見る。
「なんでそこまで?」
L-17は、答えない。
代わりに言う。
「あなたは、まだ“誰”でもない」
「……」
「ですが」
瞳が、ほんの少し柔らぐ。
「消えるべき存在ではないと、私は判断しました」
夜風が吹く。
「次回接触時」
「おう」
「あなたが“誰”になるか、見せてください」
光が消える。
L-17の姿も消える。
静寂。
バグが小さく震える。
「仕様外さん……彼女、かなり危険なことをしました」
「だろうな」
「最悪、消去対象になります」
未定は焚き火を見つめる。
「じゃあ、守らないとな」
「……誰をですか?」
未定は答えない。
まだ、名前はない。
でも。
守るものは、少しずつ増えている。




