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観測不能

 夜明け前。


 焚き火の火は落とされ、森は再び霧に包まれていた。

 だが、先ほどまでの霧とは違う。


 ――重い。


 空気が、ではない。

 状況そのものが、だ。


 アルヴィスは地図を見下ろしながら、眉間にしわを寄せていた。


「……やはり、来ているな」


 未来視は戻っていない。

 だが、魔王が示した“構造”の感覚が、まだ頭に残っている。


 安全と判断されている分岐。

 排除が始まる地点。

 そして――意図的に用意された、不運。


「アルヴィス」


 セリスが声をかける。


「この先の街、避けたほうがいいですね」


「ああ」


 即答だった。


「本来なら、補給も休息も問題ないはずの場所だ」

「だが――ここは“潰しどころ”だ」


 ルルナが、ごくりと喉を鳴らす。


「……つまり、行ったら何か起きる、と」


「起きる」

 アルヴィスは言い切った。

「“偶然”がな」


 進路を変えた、その数刻後。


 彼らは遭遇した。


 本来、出会うはずのない規模の魔物の群れに。

 街道から外れた森の奥。

 人が通らぬはずの場所で。


「……多すぎません!?」


 ルルナが悲鳴混じりに叫ぶ。


「数だけじゃない」

 アルヴィスが歯を食いしばる。

「配置が――最悪だ」


 未来視は、沈黙したまま。

 魔物の動きは、読めない。


「前に出ます」


 セリスが、迷いなく言った。


 その剣は、鋭い。

 技も、判断も、今なお一流だ。


 だが――


 アルヴィスは気づいていた。


 彼女の動きから、

 あの“微細な幸運”が消えていることに。


 紙一重で避けていた攻撃が、頬をかすめる。

 本来なら弾けたはずの一撃が、鎧を削る。


「……っ」


 血が、落ちた。


 小さな傷。

 だが、それは明確だった。


「セリス!」


「大丈夫です」


 即答だったが、声に力はない。


 戦闘は、辛うじて勝利した。

 だが代償は重い。


 ルルナは息を切らし、地面にへたり込む。


「これ……」

「これが、世界の“修正”……?」


「そうだ」


 アルヴィスは、空を見上げた。


「直接殺しに来ない」

「ただ、こちらが間違える確率を上げてくる」


 沈黙。


 セリスが、ゆっくりと剣を鞘に収める。


「……アルヴィス」


「なんだ」


「私が、まだ世界に選ばれているうちに」

「何かを決めるべきだと思いますか?」


 アルヴィスは、答えなかった。


 いや――答えられなかった。


 彼女が“選ばれている”という事実。

 それが、いつまで続くのか。


 そして、それが終わった時、何が起きるのか。


 すでに、予感はあった。


「……まだだ」


 ようやく、そう言った。


「まだ、決める時じゃない」


 その夜。


 アルヴィスは、眠れなかった。


 未来は見えない。

 だが、確信だけがある。


 ――このまま進めば。

 ――世界は、次の段階に入る。


 排除は、近い。


 それでも。


 彼は目を閉じた。


 未来が見えなくても、進むしかない。


 それが、観測不能の存在としての――

 唯一の選択だった。


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