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不運という名の修正

 森を抜けてから、三時間。


 何も起きていない――

 はずだった。


 アルヴィスは、何度目か分からない違和感を噛み砕く。


 「……静かすぎるな」


 道は整っている。

 天候も悪くない。

 魔物の気配も、未来視に引っかからない。


 それなのに。


 足元の感覚が、ずっとズレている。


「将軍……いえ、アルヴィス」

 ルルナが小さく声を上げた。

「さっきから、同じ鳥の声を聞いてる気がします」


 セリスが周囲を見渡す。


「……ええ。音が、循環している」


 まるで、世界が同じ場面を繰り返しているかのように。


 アルヴィスは、わずかに眉をひそめた。


 未来視が、働いていないわけではない。

 だが、映るのは断片ばかりだ。


 ――三歩先で、枝が折れる。

 ――五分後、誰かがこちらを見る。


 意味を成さない未来。


「……信用できないな」


 その瞬間だった。


 道の先から、怒声が響いた。


「だから言っただろう!」

「嘘だ! あいつらが盗んだに決まってる!」


 視界が開け、小さな集落が現れる。


 数人の村人が、旅人らしき一団を取り囲んでいた。

 空気が、張り詰めている。


 セリスが、自然に前へ出た。


「事情を聞かせてください」


 その声が届いた瞬間。


「聖騎士様だ……!」


 誰かが、そう呟いた。


 次の瞬間、村人たちの視線が一斉にセリスへ向く。

 疑念が、安心へと変わる。


「聖騎士様がいるなら安心だ!」

「この人が裁いてくれる!」


 ――早すぎる。


 アルヴィスは、即座に理解した。


 世界が、セリスを押している。


「待て」

 アルヴィスが口を挟む。

「状況が分からない。まず――」


 その言葉は、届かなかった。


「あなたは黙っていてください」

 村人の一人が、苛立った声で言う。

「聖騎士様に任せればいい」


 空気が、冷える。


 アルヴィスの胸裏に、微かな未来が走った。


 ――このまま進めば、誤解が確定する。

 ――誰かが傷つく。


 だが、どこで、どう外れるのかが見えない。


「……クソ」


 セリスは、一瞬だけアルヴィスを振り返った。

 視線が交わる。


 彼女は、分かっている。


 それでも――


「順番に話してください」

 セリスは、静かに言った。

「感情ではなく、事実を」


 その場は、収まった。


 だが。


 誤解は、完全には解けなかった。

 盗みの疑いをかけられた旅人は、村を追い出される。


 誰も死なない。

 だが、誰も救われない。


 集落を離れた後。


 ルルナが、ぽつりと呟いた。


「……なんだか、後味が悪いです」


「ああ」

 アルヴィスは短く答えた。

「これは偶然じゃない」


 セリスは、剣の柄を見つめている。


「私が前に出たことで……」

「違う」

 アルヴィスは、すぐに言った。

「前に出たからじゃない」


 空を見上げる。


「前に出ると、上手くいくようにされている」


 沈黙。


 未来視が、また小さく揺れた。


 ――次は、天候。

 ――次は、人の疑念。


 連鎖する、不運と最適解。


 アルヴィスは、はっきりと言った。


「始まったな」

「世界の修正だ」


 セリスは、静かに頷いた。


 そして、誰にも聞こえないほど小さな声で言う。


「……選ばれている、ということですね」


 三人は、再び歩き出す。


 道は、まだ続いている。


 だが――

 その先で待つ未来は、もう信用できなかった。


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