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世界は、すでにこちらを見ている

 夜。


 焚き火の爆ぜる音だけが、静かな野営地に響いていた。


 ルルナは毛布にくるまりながら、さっきから空を見上げている。

 星を数えている――ようで、違った。


「……ねえ、将軍さま」


「今は将軍じゃない」


 アルヴィスは即座に訂正する。


「じゃあ、アルヴィスさん」


「なんだ」


「さっきの人たち……」

 ルルナは言葉を探すように間を置いた。

「強かったですよね。でも、全力じゃなかった」


 セリスも、黙って頷く。


「あれは“排除”じゃない」

「“確認”でした」


 アルヴィスは、火に小枝を放り込んだ。


「未来視を持つ個体が、どこまで世界の想定から外れるか」

「それを測りに来た」


「測る……?」


「世界はな、セリス」

 アルヴィスは視線を上げずに言う。

「“予言が外れる”ことを一番嫌う」


 未来視が、微かにざわめいた。

 だが映像は、来ない。


 代わりに浮かんだのは――違和感の輪郭だった。


「予言狩り」

 セリスが呟く。

「未来を見る者を狩る組織……?」


「正確には違う」

 アルヴィスは首を振る。

「未来を見る者じゃない」

「未来を壊しうる者を消す」


 ルルナが、はっとする。


「じゃあ……セリスさんも?」


「私も含まれるでしょうね」

 セリスはあっさり言った。

「“勇者の再来”なんて称号は、世界にとって便利ですが」

「しかし……」


 剣に手を置く。


「便利すぎる存在は、いつか制御不能になる」


 沈黙。


 焚き火の火柱が、一瞬大きく揺れた。


「面倒だな」

 アルヴィスが呟く。


「最高に、ですね」

 ルルナが苦笑する。


「でも……」

 彼女は小さく拳を握った。

「私、さっきちょっと楽しかったです」


 二人が、ルルナを見る。


「未来がどうとか、記録がどうとか」

「全然分からないまま魔法撃って」

「それで敵が混乱してくれたの、なんか……」


 少し照れたように笑う。


「生きてるって感じ、しました」


 アルヴィスは、ふっと息を吐いた。


「正解だ」

「それが、世界の想定外だ」


 彼は立ち上がり、周囲を見渡す。


 夜の森。

 何もない。

 だが――


 見られている。


 確信に近い感覚。


「もう一度来る」

 アルヴィスは断言した。

「次は、交渉か」

「もしくは――」


 剣の柄に、手を置く。


「“観測者”本人だ」


 セリスの目が、鋭くなる。


「観測者……世界の意思、ですか」


「近いが、違う」

「意思を持った“個体”だ」

「世界と繋がり、未来を管理する役目の存在」


 未来視が、ほんの一瞬だけ閃いた。


 玉座。

 だが、そこに座る者の顔は――見えない。


「……まだ、見えないか」


 アルヴィスは小さく笑った。


「いい」

「見えないなら、殴れる」


 セリスが剣を担ぎ直す。


「行き先は?」


「南」

「予言狩りが嫌がる場所だ」


 ルルナが首を傾げる。


「そんな場所、あるんですか?」


「ああ」

 アルヴィスは即答した。


「歴史が何度も書き換えられた土地」

「未来の記録が、信用されていない場所だ」


 焚き火を消す。


 三人は、闇の中へ踏み出した。


 世界が彼らを見失い始めた、その瞬間――


 遠く。

 誰かが、静かに呟いた。


「……やはり、逸脱したか」


 玉座の間。

 記録の海。


「未来視を持ちながら、未来に従わない」

「勇者でありながら、物語を拒む」

「記録に残らない、不確定要素」


 低い笑い声。


「面白い」

「久しぶりに、“修正が必要な物語”が現れた」


 その視線は、確かに――

 三人を捉えていた。


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