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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編:凶狂恐龍大令嬢 〜貴族令嬢に転生した最凶魔龍の凶悪無双奇譚〜

作者: 金色XYZ

反響次第で連載します。

「これで終わりだ龍王!うぉぉぉぉっ!!!」


勇者はそう叫ぶと、眩い光を帯びた聖剣を龍王の首元に突き刺した。

その巨体から噴き出す鮮血は、まるで噴水のような威力で、少しでも気を抜くと弾き飛ばされてしまいそうである。


「きっ…貴様ァァ!人間風情が我を倒すなど……!許さんっ!許さんぞぉぉぉ!!」


対する龍王は、憎しみを込めた口調で勇者に叫ぶ。


自身の自慢であり、彼女を龍王たらしめた重厚な鱗は切り裂かれ、全てを燃やし尽くす炎の吐息も勇者の血筋の力とやらで無効化され……


誰がどう見ても絶望的な状況であり、それは同時に勇者の勝利、人類の幸福、永遠の平和を意味していた。


「俺らの世界を!絶対に奪わせない!!!」


「ぐぉぉぁあぁぁぁ!!!」


次に勇者がそう口に放った瞬間、龍王の視界は暗闇に包まれた。

地面に頭が落ちたような、冷たい感覚が頭部のみに伝わる。腕も脚も、翼さえも動かせない。


そこで、自分が殺されたのだと直感的に理解する。

しかし龍王の脳内は、殺されても尚憎しみの念で埋まっていた。


―――クソクソクソクソ! 許さん!まだ!まだ夢半ばだと言うのに、満足できていないのに! こんな所で!人間なぞに! 死んでたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!








「―――私の体を差し上げましょう。」







その時、突如として龍王の脳内に言葉が流れた。

直接何者かに話しかけられているようで、絶妙に気味の悪い感じがする。


「私はもう長くありません。ですので、望むのであれば喜んで貴方に差し上げましょう」


謎の人物は、尚も続けて言葉を投げかけてきている


「ですが、それには一つ条件が―――」


「―――わかった!何でも聞いてやる!だから貴様の体を早く寄越せ!」


「え、ええ…?」


そんな人物の話を止め、龍王は食い気味に言葉を返す。 言葉を受けた側としても、あまりの潔さに少し戸惑っている様子だ。


「で、ですからそれには条件が…」


「ああ!わかってると言っているだろう!?我には時間が残されていないのだ!」


「…………わかりました。」


急かすように龍王が言葉を強めると、謎の人物は意を決して言葉を発した。


「契約は成立しました。それでは行きますよ…!」


そう声が聞こえた次の瞬間、龍王の視界は突如として光に包まれる――――!!


◇   ◇   ◇


「………すか!………様!?イルミナ様!」


「…ん…んむぅ…」


心地よい朝日を浴びながら、龍王は目を覚ます。

先程の生死をかけた血の匂いとは打って変わって、ミルクティーやお茶菓子などの、甘い良い香りが鼻をくすぐった。


「…ここは?」


「イルミナ様!!大丈夫ですか!?」


固くなった体を起こした瞬間、つんざくような声が耳を通った。

思わず顔をしかめ、耳を手で塞いでしまう。


その異常な程大きな声の正体を確かめようと、龍王は声のする方向へ顔を向けた―――


「目を…目を覚まされたのですね…!」


視線の先にいたのは、1人の男。


執事の格好をしており、目鼻筋の通った整った容姿の金髪の男がいたのだ。

目には涙を浮かべていて、鼻の頭も真っ赤に染まっている。


「とっとりあえず!先程淹れたこのミルクティーをどうぞ!イルミナ様が落ち着くと言ってよくご愛飲されていたものです!」


男は自身と目線を合わせると、湯気が立ち良い香りのするミルクティーを差し出してきた。

執事の格好をしているだけあって、このような給仕もお手の物なのだろう


「ふむ…」


龍王は、初めてのミルクティーを不思議そうに眺める。


そこで、一つの事実に気づく―――


「………なっ…!?」


ミルクティーに、麗しい美少女の顔面が反射していることに―――


髪は綺麗なストレートの銀髪で、繊細な絹のようだ。 まるで人形かと錯覚する程に愛らしい顔の瞳には、ルビーなどの宝石に似た、紅く燃え上がる瞳孔がはまっている。 歳は16程だろうか。


―――きっと、これが先程の声の主なのだろう 龍王はそう考察する。

思えば、あの声もこの容姿に相応しい鈴を転がすような感じだった気がした。


「…………」


生死の狭間にいたからつい考える暇も無く快諾してしまったが、この体では生きにくい。


危害を加えられない限りはこの世界の規則に従い、この少女を演じて見せよう。

今までもそうやって生き延びてきた。


龍王は少しの間思考すると、人生…いや龍生初の、ミルクティーなるものを飲んでみようと口に近づける――







「ちょっと待てよ」







―――隣で男がそう呟いた直後、龍王の体は垂直に吹っ飛び壁に叩きつけられた。


「ぐうっ…!?」


それとほぼ同時に轟音が鳴り響き、視界には崩れ去っていく豪華な部屋の内装が映った。


「………おかしいですね」


『それはこっちの台詞だ』と混乱する龍王を意に介さず、男は堂々と歩みを進めると外側はただの少女でしかない龍王の首筋にナイフを突きつけた。


「犬歯が以前より2cm長い…立ち振る舞いもそんなにガサツじゃない。…………お前、誰だ?」





「……………オラァッ!!!」


「……っ!やはり…!」


そうブツブツと奇妙な言葉を呟く男を華奢な腕で簡単に跳ね除けると、龍王はゆっくりと歩みを進め、最初に座っていたベッドに今度は足を組んで深く座り込んだ。


「聞かれたのなら答えてやろう!…我が名は世界最強の()龍王…名…名前は…名前はまだ無いがな!」


「…………」


理路整然と龍王は口に出す。

可愛らしい顔を歪め、堂々とした笑顔で立ち振る舞う龍王… その態度に、男は何処か苛立ちのような感情を見せた。


「ふざけるなよ……ふざけるなよッ!何が龍王だ!!イルミナ様を返せ!その体はお前の物じゃない!」


「何をそんなに憤慨している?この体はお前の物でもないだろう?」


「あの人は死にかけていた僕を救い、整った衣食住を与え、執事として雇ってくれた…!そんな人を…貴様…!」


奥歯を強く噛み締めながら、男はそう口に出した。 しかし当の龍王はどこ吹く風と、窓の外を眺めている。

どれだけ辛い過去があろうとも、どれだけ悲惨な目に遭っていようとしても、自分には関係ない…というマインドを持っているのだ。


「…あ、そーだ」


「………何だ…?」


「この体…本人から貰ったんだった」


「………は?」


そう言い放った瞬間、男は膝から崩れ落ちた。 何もできなかった無力感や混乱が一気に押し寄せたのだろう。


「…もういい」


「む?」



―――彼がそう告げた直後、龍王の目の前にはナイフが迫ってきた。


「…なぁっ!?」


龍王は間一髪でそれを避ける。

その拍子に、避けきれなかった髪の一部がパラパラと床に落ち、男の本気ぶりを実感する結果になった。


「…待て!このこれはお前の大切な物ではないのか!?」


「ええ、しかし、貴方があの方の姿に化けている可能性もあります。貴方を殺せば戻るかもしれませんし…とりあえずは試してみましょう」


「ちょっ…おい!」


絶え間なくナイフは首筋、脳天、ふくらはぎの血管などの急所を狙ってくる。

龍王は、この病弱な体では避け続けることしか出来ずにいた。


「……氷魔法アイス…!」


「…ぐっ…!氷術師か…!!」


凍てつき、動かなくなった足を見て舌打ちしながら龍王はそう呟く。


しかしその脳内には


―――なぜ最大威力で行かないのか。 という疑問があった。

氷魔法の本質は周辺の温度を下げること…つまり、 最初から対象を相手の体に指定して、体温を27℃付近まで下げてしまえば一瞬で勝てるだろう。

なのに何故―――


「これで終わりだ!電気魔法ショック!」


「…!?なんだと!?なぜ2()()()も使える!?」


その事実に対して、龍王は尋常ではない程の焦りを見せた。


それもその筈、本来生物が使えるのは1属性のみ。

他にもう一つの属性が使えるのなど聞いたことがない。


「イルミナ様の仇…!!」


男はそう呟きながら、電気を帯びさせたナイフを首筋に向かわせる。


―――が、それが返って危険を誘う結果となった。


「…………あまり我を見くびるなよ…!!」


「なっ…!?」


直後、少女の体から黒い炎が放出された。

当然龍王のものであるその炎魔法は、燃え移った物全てを灰燼に帰していく。

突然のことに驚いた男は、思わず後ろに仰け反ってしまった。


「我に反撃の時間を与えてしまったな…!」


龍王は男の側まで迫り、強烈な蹴りをお見舞いする。 その蹴りの向かう先はナイフ… 渾身のハイキックが直撃したことで、男の持っていたナイフは粉々に砕け散った。


「くっクソォッ…!!」


「さらばだ…転生直後の相手としては、中々楽しめたぞ!」


最期にそう言い放つと、右手から黒炎を放ち、男の顔面に直撃させる―――!


「…………?」


―――が、男の体は少しも燃えておらず傷一つない。

そんな奇妙な現像に、彼自身も…そして、龍王も大きく混乱していた。


「まさか…勇者の血筋か…!?」


直後に首元の光る痣を目にして、龍王はそう呟く。

なぜ勇者の血筋がこんな所で執事などやっているかわからない

…が、勇者なのだとすれば自身の炎魔法が効かないのも納得である。


「……油断したな!!」


「…ぐぅっ…!!」


―――理解することは出来たもののその隙は余りにも大きく、龍王は後ろ側に押さえつけられた。

何度も狙われた首筋に、今度はピッタリ予備のナイフを突きつけられる。


それは同時に、絶対絶命を意味していた。


「…このまま貴方を殺します…!何か言い残すことはありますか…?」


後頭部に冷や汗が流れる感覚がする。


―――我はまた死ぬのか…?

今度は本当に何も出来ていないぞ!? 嫌だ!  


どうする、どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする!?


―――そうだ!


ぐしゃぐしゃになった思考回路を経て、龍王は一つの結論に辿り着いた。


「…あるっ!」


「ある…?何があるんですか?」


「魂を取り戻す方法じゃ!それが出来れば…お前の言うこの体の持ち主を呼び出せる!」


「…………!」


龍王がそう口に出した瞬間、男の手が緩んだ。

反射的にその手を跳ね除けると、龍王は解放された口からゴホゴホと咳を鳴らししつつ、言葉を続ける。


「ある魔道具を使えば魂の入れ替えを行うことができるはずじゃ」


「本当ですか…!?そ、それは何と言う魔道具なのですか!」


「本当に決まっているだろう…名は…確か『聖者の天秤』と言ったかな…」


「そんな物が存在していたなんて……」


「ああ、探すと良い。何年かかるかは知らんがな」


「………しかし…」


冷たく突き放すように龍王が言うと、彼はどこか難しいような顔をしていた。


それに違和感を抱いた龍王は、その心持ちのまま彼に問いかける。


「どうしたんじゃ、そんな難しい顔して…執事を雇っているからには、そこまで貧乏な家ではないだろう?」


「…いえ実は、今魔道具のほとんどは()()()()()という謎の集団に奪われているのです」


「…なに?」


龍王は少し重い口調で聞き返した。


「彼らは()()()()()()()という名目で各地で大規模な反乱や破壊活動を起こしており、今この世界で問題視されている集団です。」


「ふむ…」


「とりあえず僕は彼らに接触し、その魔道具を譲ってもらえないか聞いてみます。それでは」


顎に手をあて深く考えこむ姿勢をとる龍王に向かって彼はそう言い放つ。

そして、出口の扉に手をかける―――


「おい」


―――そこで龍王は声をかけ、彼の歩みを止めた。


「なんでしょうか」


「我の目的は、()()世界を恐怖で支配することじゃ。他の奴らが先を越すことなど絶対に許さん」


「…というと?」


「我も連れて行け。その異怪真教会とやらを潰しにいく」


「は?いや…そんな無謀な…」


「我を誰だと心得ておる。最強の魔龍王じゃぞ」


龍王は覚悟が決まった瞳で彼にそう告げた。

そこで男は、自身が仕えていたイルミナの、病弱になりベッドに寝込む前の強い瞳を思い出す――


「はぁ…あの人の顔で言われては断る物も断れませんね。わかりましたよ…」


「そうか!よろしくな!えーと…」


龍王はニコニコと笑いながら、男に手を差し出す。


「シルグ・オズヴァルトと申します。よろしくお願いしますね。イルミナ・ウィザードロード様」


龍王ではなく、仕えていた主人の名前で呼ぶ。

というまだ全く信頼もしていなければ認めてもいない態度を表す行動をとったものの、当の本人には少しも伝わっていない様子だ。


「…?ああ!よろしくな!」


自己紹介をした後、シルグはため息を吐いて差し出された手をこれでもかと言うほど強く握り返した。しかし、当の本人である龍王には全く効いていない様子であった。

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大事なことなので2回言いました。

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