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18話 贋作画家

「模写……?」


 レンたちが壁の絵画を見上げる。


「レン兄、わかる?」

「絵画はあまり得意じゃないが……ローベンスの『人食い虎を退治する英雄ヤト』に見える。三百年ぐらい前の作品で、英雄をモチーフに描き続けた画家。コレクター人気も高いから模写でも結構値が張るが、本物なら……200㎏の金塊に相当する」


 すごい価値があるのはわかるけどいまいちピンとこない。


「それってどれぐらい価値があるの?」

「貨幣単位は知ってるか」

(トーラス)でしょ」

「銅貨1枚100(トーラス)、銀貨1枚1000(トーラス)、金貨1枚10万(トーラス)。100(トーラス)で平民のパン1個と思えばいい」

「家に本物あるけどいくらになるの?」

「大雑把に30億(トーラス)ぐらい」


 じゃあ、この絵一枚で3000万個のパンになるってことか。

 途方もない価値だ。


「模写なら?」

「30万(トーラス)かな」

「模写……だめ、僕、絵はさっぱり!武器ならわかるのに!」

「いや、これは、私も赤っ恥かもしれん……」

「えっ? レン兄でもわかんないの?」

「じっくり鑑定すれば別だけど、ぱっと見は気づかないな」


 ラウルがちょっと驚いたという顔でわたしを見る。


「本当に、模写なの?」

「うん。本物とはひび割れの模様が違う」


 わたしの言葉にレンが指を鳴らす。


「あ!クラクリュールか!」

「あー……習った気がする。クラクリュールって経年劣化した絵画の細かいひび割れであってる?」

「ああ。割れ方に描き方や年代、素材によって特徴があるから鑑定項目のひとつだ」


 そこで二人揃って首を傾げわたしを見る。


「これクオーツ王が描いたの?」

「どうしてわかるんだ?」


 父は暇さえあれば絵を描いていた。わたしは、よくそれを眺めていたので父の描いた絵をたくさん見てきた。


「なぜわかるかといえば、なんとなく? ああ、パパの絵だなあって」

「そんな曖昧な……」


 わたしは、あらためて食堂を見渡す。

 昨晩も見た、ローベンス作『化鯨を退治する英雄ノクス』の素描が目に入る。


「あ!あれもパパのだ。やだぁ、セプタリアン伯爵と一緒に本物だと思って話しちゃった!」


 よくよく観察すれば、父の描いた模写や有名画家の筆遣いをまねた模倣作品がどんどん見つかる。


「その隣のも静物画と、あっちの風景画も!」


 父はいつの間にこんなに沢山の絵を描いていたのだろう。

 しかも、それがお家じゃなくてセプタリアン伯爵の居城にあるのはどうしてなの。


「王様すごい上手だね!」

「上手いとかそういうことじゃなくてだ……」

「ええ、察するにこれでしょう? クオーツ王の秘密の収入源の話」


 ノエルの言葉の意味をのみ込めず、思わず聞き返す。


「どういうこと?」

「これは憶測だけど……クオーツ王がノースシーの貴族に贋作を本物だと偽って売っていたとしたら」

「私が把握している帳簿の足りない分の金と、辻褄が合うだろうな。被害者がセプタリアン伯爵以外にもいるとすれば」

「なるほど、政務ほったらかして部屋に引きこもってたのは贋作制作に勤しんでたんだね!」


 そんな、嘘でしょ、信じられない。


「つまり、パパが詐欺を働いたってこと!?」


 ……何してるのっ!? パパー!!


「ルチルの親父はとんでもない人だな……まちがいなく贋作画家としては天才だ」

「ということは、僕らの国の質屋もやられてんじゃない?」

「ありえるな。うちの一族でも見破れるの片手で数えるぐらいだろ」

「そうなるとさ、王女様って……」


 レンとラウルが小声で会話してわたしに視線を向けていた。何を話していたのか気にならないわけではないが、わたしは父のことで頭がいっぱいでそれどころではない。


「どうしよう、どうしよう、うちのパパが騙してごめんなさいってセプタリアン伯爵に言わないとだよね……」

「えー、面倒なことになりそうだし、黙っておけば?」

「無理よ!だって悪いことじゃない!わたし、セプタリアン伯爵を探してくるわ!」

 わたしは食堂を飛び出して、セプタリアン伯爵を探し始めた。

 後ろからレンたちも付いてくる。


「あ!」


 廊下の角を曲がろうとして立ち止まる。セプタリアン伯爵を見つける前にエマを見つけてしまった。

 広い廊下はセプタリアン伯爵によって画廊に改装されている。エマは壁に掛けられた絵の前で立ち止まっていた。エマのそばには銀の兵士が二人、護衛のように控えている。


 レンたちも廊下の先をのぞき込む。


「そういえばさ、エマって平民なの?」


 レンがわたしにたずねる。


「そうじゃない?」

「他国の人?」

「たぶん。ノースシーでは見かけない感じよね」

「……いやさ、平民の名前覚えてるじゃんって思って」

「……?……ああああああ!!」


 わたしの脳裏にハロルドの娘、天国にいるミアちゃんの姿が現れる。そのミアちゃんが、まるで残念な子を見るような目を私に向けている様子が頭に浮かんだ。


「いや、その、エマのことはよくわかってないというか!」


 ……ちがうのよ、ハロルドさん!ミアちゃん!きっとエマは外国人でノースシーの平民とは違うわ!そうであったとしてもミアちゃんの名前は特別だから!


 わたしはイマジナリーなミアちゃんに心のなかで謝罪する。

 その間、エマは絵を見て首をかしげていた。


 ……エマって美術鑑賞するんだ。どうしよう。あんまり会いたい人じゃないけど、このまま廊下に突っ立ててもいられない。


 意を決して、エマのいる方へ歩いていく。


「うーん?」


 エマがうなる声が聞こえた。

 わたしたちに気づいていると思うけど、こちらを気にした様子もなく、ずっと一枚の絵を見ている。

 どんな絵を見ているんだろう。

 

 エマに近づいたとき、そっと覗き込む。

 これも父の絵だ。けれど、誰かの真似ではない。父が私的に描いたものだ。

 小さな額の中には、金色の髪に赤い瞳をした幼い女の子が描かれていた。


「わたしだ」


円環の竜が神様の世界なので通貨を、(トーラス)とわかりやすい単位にしました。

そのうち商売ごとの話が出てきても日本円に換算して理解してもらって大丈夫です!

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