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15話 状況整理と深まった謎

「ほら、中に入って、話をきかせて」


 レンに呼ばれて、カンテラの暖かな光に照らされた部屋へと入った。ラウルとノエルもいて、心配そうにこちらを見ている。


「あの赤毛の人、オブシディアン王の側近で愛人ってレン兄から聞いたけど、大丈夫だった?」

「大丈夫なわけないわよね……まずは座って、ゆっくり話せるところからでいいのよ」


 ノエルに促されて椅子に腰かけた。

 そのとたん、ぐるぐるでぐちゃぐちゃな思考が口からあふれて飛び出した。


 わたしはワーッと一気にまくし立てる。

 さっきセプタリアン伯爵が話してくれたことも、エマと仲が悪そうだということも、城の中の美術品は雑多で趣味が悪いとか、お城のシェフの方が料理がおいしいとか、もうしっちゃかめっちゃか支離滅裂に、とにかくしゃべってしゃべって、すべて吐き出した。


「鉱山は枯れてるし!みんな貧乏だし!伯爵は平民のことより自分のことばっかりだし!戦争の準備は進んでるし!それにパパが心の病だったなんて知らなかったし……! それがクーデターにつながったとか!オブシディアン王を支持して味方になってくれそうな貴族はほとんどいないとか!!……もうどうしたらいいのかわかんない!!!!」


 わたしが叫び散らかすと、ラウルがぽかんとした顔でわたしを見ていて、レンがいつのまにかメモをとっていて、ノエルは静かに頷いている。


「……って感じなの!」


 わたしは、ようやく話を終えて一息つく。


「それは、うん、大変だったことは伝わったよ」

「そうね、まずは話を整理しましょう」


 ラウルのあとに、ノエルがそう言って、レンがメモを見ながらまとめ始めた。


「要するに、ノースシーは鉱山が枯れて貧乏になった。ルチルの父親は心の病で国を動かせなくなり、オブシディアンがクーデターを起こして権力を奪った。そしてオブシディアンも、貴族たちも戦争の準備を進めてる。一方で、庶民の生活はどんどん苦しくなってるというのが現状だね」


 あまりに、絶望的な状況だ。


「貧困も戦争もなくなって、領民がちゃんと暮らせて、パパから王位を奪ったオブシディアンじゃなくてお姉ちゃんが王様になればいいのに!」


 わたしが叫ぶと、メモを眺めていたレンが呆れたように肩をすくめた。


「それは、欲張りすぎ」

「だって、全部何とかしたいじゃない!でも、どうしたらいいのか、わかんないんだもん!」


 喉がつっかえる。泣きたくないのに、視界がにじんでいく。


「最初から、目標は決まってるだろう? 『ニーレイクとの戦争を止めて王弟から王権を取り戻す』だ。それ以上は考えなくていい」

「でも、だって……」


 それは、レンと交わした契約の内容だ。

 本来、レンにそれ以上を求めるのは契約にないから無茶だってわかっている。

 それでも、あの国境の橋から、色んなことがわかった。問題が山積みだって。


「大人が解決できない問題を、子どものルチルがどうにかしようなんて無謀な話だよ」


 レンの言葉に、確かにそうだと思ったら、ふっと肩の力が抜けた。


「それこそ、優秀といわれている姉がいるんだろう? そいつにに全部押し付けたらいいよ」

「それも……そうかも。お姉ちゃんが王様になったら、で、いいのかな?」


 話を聞いていたラウルが発言する。


「ふーん、つまりオブシディアン王がいなくなればいいってことだよね。それなら、僕がサクッと暗殺してこようか?」

「だめよ、あとで問題になるでしょう。暗殺するならせめて病死に見える毒にして」

「おい、お前らその物騒な考えはやめろ」


 ラウルとノエルの冗談をレンが咎めた。


 さすがに暗殺だなんて、あはは!

 ……冗談、よね?


「レン兄は、暴力に訴えるの嫌うよね」

「そういう手段もひとつの解決策だとは思うよ。ただ、最初から頼るのは、なんか負けた気がしてね」

「でも、それってただのレンの意地でしょう。あまり時間は無いみたいだし、手段を選ぶ余裕はあるの?」

「ノエルの言う通り。戦争の準備も進んでるし。僕たちだって、夏至にはニーレイクに戻らないとだよ」


 ラウルの言葉に、思わず慌てた。


「え、夏至!?」


 そういえば、ラウルがハロルドたちに伝言を依頼したとき、そんなことを言っていた。

 夏至まで約三か月しかない。


「無理でしょ!?」

「だよねー」

「だからこそ急がないと。レンは何か策があるの?」


 レンは腑に落ちない様子で、メモ帳を鉛筆でコツコツとたたいた。


「うーん、仮案はいくつかあるけど……まだ全体像が見えないんだよなあ。なんか引っかかってて」

「わかるように話して、レン兄」


 レンはしきりに首をかしげながら言う。


「私は、オブシディアン王が戦争するのは、ニーレイクから土地や食料を奪うためだと思っていたんだ。実際、食料も燃料も薬も足りていない。しかし、金も足りてないのが不思議で……」

「お金が足りないから食料も燃料も薬も買えないのでしょう。どこが不思議なの?」

「ああ、貨幣の数が合わないって言った方がわかりやすいか。私は、他国の懐事情をだいたいは把握しているんだ」


 そんなことなんでわかるのか疑問に思ったら、ラウルとノエルが教えてくれた。


「ニーレイクではね、夏至に決算報告するんだ。どこの誰が何をいくら売って何を買ったかまで国中の商売全部」

「レンは、それを全て読んで丸暗記するのよ。……気持ち悪いでしょ?」

「貿易で動いたお金から、他国のだいたいのお財布事情がわかるんだって」


 夏至の決算報告。それが彼らがニーレイクに戻らなければならない理由だろうか。

 ノースシーが鉱山で成り立っている国なら、ニーレイクは商人国家といわれるぐらい、商売が盛んな国だと聞いたことがある。


 国中の膨大な数字を丸暗記するなんて、レンは本当にそんなことしてるの?

 ……たしかに常人がやることに思えなくて、ちょっと引いた。


 レンは説明を続ける。


「この十年ずっと、ノースシーが貿易で得た金額より、ニーレイクから買った額のほうが多い。つまりさ、ノースシーはずっと赤字ってこと」

「じゃあ、貯金を切り崩してやりくりしてたってこと?」

「ああ。だから、貴族はもっとジリ貧でなきゃおかしいんだ」


 まだレンの言いたいことが分からず、わたしは首をかしげる。


「えーと?」


 レンがわたしの手のひらに金貨をのせた。


「はい、ルチルの手元に金貨10枚の貯金。1年で金貨1枚を使って、領民のためにニーレイクから食料を得るとします。10年後はどうなる?」

 

 わたしは、差し出されたレンの手のひらに10枚の金貨をのせる。


「そんなの、全部使ってしまうわ」

「だよね。これが私が知ってる帳簿の数字だと思って。じゃあ、今度はノエルとラウルはノースシーの貴族、ルチルは王家役ね」


 レンはラウルとノエルの手に金貨を2枚ずつのせて、わたしの手に6枚の金貨をのせる。


「おなじように、1年で金貨1枚を消費した場合、10年後はどうなる?」


 わたしは6枚をレンの手に乗せる。


「ラウルとノエルも払ってくれる?」


 わたしがそう言うと、二人はそのまま金貨を握りしめた。

 ラウルが合点したように笑って、ノエルが眉をひそめた。


「払わないね」

「そうね。払っても、寄付としてなら銀貨1枚ってところかしら。セプタリアン伯爵のような貴族であれば、全財産を使ってまで領民のための食糧を買ったりしないわ」


 二人の言葉を受けて、わたしは、わけが分からなくなった。


「え? でも、ニーレイクに金貨10枚分の記録が残っているなら、誰がお金を出したの?」

「そう、そこなんだよ」


 貴族がお金を出さないなら、代金が足りない。


「だからさ、本来は国の貴族も含めて貯蓄が、もう底をついてないとおかしい。それが戦争の要因と思うよね」

「つまりレン兄は、国全体がもう盗賊みたいに、お金も食料も無いなら隣ん家を襲ってやるぜ、失うものなんて何もねえヒャッハーって状態になってると思ってた、ってこと?」

「ヒャッハーかどうかは知らんが、戦争に踏み切ったのはそういう流れかなとは思ってたよ」


 平民たちは追い詰められていたけども、貴族は……。

 わたしは、セプタリアン伯爵のコレクションを思い浮かべる。


「ところが、実際は貴族にはお金がありそうって言いたいの?」

「そうかなって……領民は飢えていても、貴族たちは戦争の準備を進めるお金がある。徴兵したり、働かせたりするための資金を用意することを、困った程度で済ませる余裕があるんだ」


 それでさきほどの、貴族役の二人の手にあった金貨4枚分の話になる。


「セプタリアン伯爵がお金持ちって話じゃないの?」

「まあ、貴族全員がいままでお金を出し合ってなかったとまではいわないけど、セプタリアンの家は伯爵家でだろう。ふつう割りを食うのは下からのはずし、王家の親族からお金を出させると思うんだ」


 セプタリアン伯爵のコレクションを思い浮かべる。あれは相当な資産がまだあるという証だ。


「貴族が負担していなければ、いままでは国、正確には王家が領民にお金を出してたんじゃないかってこと?」

「ああ、例えば、採掘に国から補助金が出てたとか。鉱山での労働を維持させて、領民に働く場とお金を与えていたのかもしれない。ノースシーから輸出される量からみて、鉱山の大半はとっくに採算が合わなくて閉山していると思ってたんだけど、採掘はわりと最近まで続いていたみたいなんだ」


 わたしがセプタリアン伯爵たちとの夕食に招かれている間に、レンたちは城の使用人たちから情報を収集していたらしい。


「でもそうすると、国の金庫はとっくに空っぽのはずだし、王家は借金をしてなくては計算が合わないんだ」


 貴族にお金を出してもらえなければ、どこかからお金を借りていたはずだ。

 ラウルがレンに尋ねる。


「ニーレイクの金貸しとかどうなの?」

「資産価値の高い美術品がいくつも担保に出されてるけど、それで借りた額も、必要な金額の半分にも満たない。それに、ルチルの実家にはまだ担保になる美術品がたくさんあるんだろう?」

「あるわね。それこそセプタリアン伯爵のコレクション以上のものがたくさん」


 言って、王家もまた余力があったことに気づく。売り払う必要が無かったということだ。


「そう。王家はまだ美術品や宝物に手を付けていない」

「じゃあ、王家はどこからお金を……?」


 レンは、少し身を乗り出し、声を落とす。


「これはあくまで、仮説だし、私の想像に過ぎないのだけど……」


 わたしは、息を詰めて続きを待った。


「クオーツ王は鉱山とは別に秘密の収入源があって、いままで国を支えていたのではないかと思うんだ」



レン曰く、ルチルのパパはこっそり副業していた!?

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