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12話 セプタリアン伯爵

 セプタリアン伯爵の居城へ向けて山道を行く。


 ノエルがキョロキョロと興味深そうに周りを見ている。

 木々を抜けた先には、棚田式の畑が広がり、畝を耕している人たちが見える。


「ノースシーは本当に山ばかりね」


 彼女は本当に観光しているみたいだった。


 レンがわたしに尋ねる。


「セプタリアン伯ってどんな人?」

「パパのお友達。それ以上は知らない」


 わたしの答えにレンは首をかしげる。


「肝心のセプタリアン伯のことわからないんだけど」


 レンが疑問を口にすると、ノエルが会話に入ってきた。


「セプタリアン伯爵は王家の血筋よ。その割に爵位が低いのは婚外子だった先代が爵位をもらったから。前王クォーツの従兄になるわね。だから、セプタリアン伯爵のご子息達はルチル王女の再従兄弟になるわよ」

「なるほど、普通に親戚だね」

「そうなのね!」


 わたしは全然知らなかった。その様子にレンが呆れる。


「お前ん家のことだからな」

「まだ習ってないだけだもん!」


 わたしはつい言い訳を口にしてしまった。

 でも、もっといろいろ知っておかなければいけないことが沢山あるのは事実だ。

 ハロルドたちのことを知らなかったように。

 今のわたしはまだ自分の国のことをもっと知っていかなければならない。


 ノエルとレンはセプタリアン伯爵についての会話を続けていた。


「王家の血筋だから、変な気を起こす貴族がいないよう、中央領じゃなくて外領を与えられたの。でも王家からは優遇されてるわよね。ここ元はパイライト領で、砦となる城があった土地をセプタリアン領としたんだから」

「ああ、それで坑道が領地を跨いでるのか。元は一つの領地なら納得」

「そうね、元々パイライト領が開発した坑道なんだと思う」

「それ、後から採掘範囲で揉めたりしたんじゃないのか?」

「たぶん、そうなることも狙って分割したんじゃないかしら。金銀が出た当時、パイライト家の力が増してきたから、王家はその一部と豊かな盆地をセプタリアン家へ渡した。そして両家を争わせ、互いが疲弊するよう仕向けた……そう考えれば、筋が通るわよね」

「結果として、どちらも王家に刃向かう力を失う。そんなところが考えられるな」

「そして現在、自分の領地の利益を王家親族に取られたパイライト領が王家に対して不満を募らせクーデターに加担した……と推測できるわ」


 そのやり取りを横で聞いて、わたしは思わず目を瞬いた。

 二人の口からすらすらと出てくる話について、わたしは一つも知らない。

 それどころか、聞けば聞くほど、わたしのご先祖様の腹黒さが透けて見え、言葉を失ってしまった。


「もしかしてセプタリアン伯爵は王家を恨んでる?」

「どうかな。今はルチルが父親と友達と思うぐらいには、関係が良好なののだろう?」

「そう、思う……」


 王家とセプタリアン家との関係を聞いて、わたしは不安を抱く。

 父の趣味が絵を描くことであったのなら、セプタリアン伯爵は美術品の蒐集が趣味で、父とは芸術を通じて馬が合っていたようにみえた。


 かなり高台に登ってきた。山の斜面に添うように建てられた家々が見えてくる。山の坂道をずいぶんと上った先は固い岩壁に変わる。岩の間を荷馬車が一台通れるぐらいの道が続き、崖の上にセプタリアン伯爵の城があった。

 峡谷に面していて、まさに城塞という佇まいで歴史を感じさせる。

 振り返れば視界が開けて、遠くまで見渡せて眺めも良い。


 そして、セプタリアン伯爵の城に到着してみれば、わたしはセプタリアン伯爵から歓待を受けた。


「ルチル殿下!我がセプタリアンの城へようこそ!」


 セプタリアン伯爵が玄関で迎えてくれた。

 太った体に、黒に白髪交じり髪に、ハシバミ色の目。瞼が大きく爬虫類にも似た顔をしている。

 彼はわたしを笑顔で迎えた。

 

 だが、しかし、彼の奥にいる赤毛の女を目にして、わたしは全身の毛が逆立つのを感じた。


「ハロー、奇遇だね!お嬢ちゃんおひさ~!」


 赤毛の美女はニヤニヤとわたしを見下ろした。

 オブシディアンの愛人のエマだ。


 ……なんで!? なんで彼女がここにいるの!?


 エマからセプタリアン伯爵に視線を移し、睨みつけた。


「セプタリアン伯爵、貴方は父の友人だと思っていたけど違ったようね」

「……ああ、ルチル殿下、誤解でございます」


 敵の親玉の右腕をそばにおいて、何が誤解だというのか。


「ならなぜ、エマがここにいるのよ!」

「ん? アタシ? ここ眺めがいいからニーレイクまで見えるんだよ。見物にちょうど良くてさ!」


 たしかに、セプタリアン伯爵の城は高い山にあり、遠くまで見渡せた。

 でも、さすがに望遠鏡を使っても点にしか見えないのではないだろうか。


「戦争を見たかったなら当てがはずれたわね、魔物が出て騎士たちはそれどころではないわ」

「らしいなー。マジあのクソ虫むかつくわ。近寄りたくねーし」


 クソ虫とはウネウネのことを言っているようだ。


「まあ、かわりにさ、魔物とニーレイクの兵の戦闘はこっから見れたけどよー、ガッカリだったぜ。噂の第十六王子もたいしたことねーな。結局集団戦でよお、まあ、あの数の魔物を相手に抑え込んだのはそれなりなんだけど、はあー、当てが外れたわ」


 ……どういうことだろうか?


 レンたちの推測だと戦争を有利にするためにニーレイク国の第十六王子を狙っていたのように思われていたのに、物足りない戦いだったことへの失望と、第十六王子に対する期待外れ感が強くにじみ出ている。まるで、もっと別の何かを期待していたかのような口ぶりだ。

 

「お嬢ちゃんこそ、なんでここに?」


 ……しまった。どうしよう。


 エマの口ぶりから、パイライト侯爵の屋敷に火をつけて逃走したということは知らないらしい。打倒オブシディアンを掲げて、わたしが敵対していると知られるのは悪手だ。


 何か、言い訳を考えないと…何か!何かないの!?

 うなれ、わたしのロイヤルブレイン!


 導きだした答えに、わたしは心底苦渋の決断をした。

 不本意だけど、今は仕方がないのだ。


「結婚生活に嫌気がさして家出中なの」


 わたしはニコリと笑顔を張り付ける。


「ああ、結婚したんだったな。なに、あのジジイ、早速、嫁に逃げられんの? ウケるんだけど」

「そう、結婚はしたわ。だから、わたしはパイライト侯爵夫人」


 パイライト侯爵を夫と呼ぶのはとてつもない抵抗があった。

 腸が屈辱で煮えくりかえりそうな気持ちを抑えて続ける。


「つまり、オブシディアン王の陣営。あなた達の味方ね」


 ここは、仲間のふり作戦で乗り切ってみせる!


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