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プロローグ

 きっと神様さえ欠席している。

 がらんとした空間には、参列者の姿が全くない。


(なんなのよ、この寂しい式……いや、親の仇となんて結婚したくないんだけど!?)


 王女ルチルは、目の前の光景を嘆いた。

 しかも嫁ぐ相手はルチルの敵だ。クーデターに加担した老人だというのだからたまったものではない。


 広間の奥には、神父と老人のふたりだけが佇んでいる。

 ルチルにとっては最低最悪な結婚式だ。


「さあ、こちらへ」


 神父に促され、ルチルはしぶしぶ彼らの元へと歩み寄った。


 ちらりと、これから夫となるらしい男を見上げる。

 白髪を撫で付け、杖を頼りに立つ老人だった。もはや棺桶に片足どころか首まで突っ込んでいそうな年齢だ。痩せて皺だらけの顔に、落ち窪んだ目。けれど、その目だけは異様にギラギラと光を宿しており、ルチルをじっと見つめていた。まるで、獲物を見定める獣のような、粘着質な視線だった。その視線が、皮膚の裏まで這い上がってくるような悪寒を感じさせる。


 ルチルと目が合うと、彼は目を細めて三日月のような笑みを浮かべた。


「白いドレスもよく似合っているよ。とても綺麗だ」


 そう告げて、彼は前を向く。

 父の命を奪っておいて何事もないような月並みな言葉を吐く老人に、ルチルは嫌悪と憎悪を強める。


 神父が婚姻の儀式に則り、聖書を読み上げ始めた。


「……竜神様の円環は生と死を司る。男は女の手を、女は男の手を結び円環となす」


 ルチルは現実逃避ぎみに、あの商人がそこの扉を開けてこの結婚式をぶち壊してくれないものかと考える。輿入れの道中で出会った、合理的で拝金主義で、冷酷で、ちょっとだけ優しい、妙な力を持つ若い商人。彼の助けを期待したいが、そうもいかない状況だ。


 老人は杖を牧師に預けると、ルチルに向き直り両手を差し出す。

 ルチルも渋々両手を伸ばし、ふたりの手が重なり輪を成した。


(ここまでは……ギリギリまだ耐えられる……でもこのあとが!!)


「では誓いの口づけを」


 その言葉に、ルチルは心の中で絶叫する。


(やだーーーーーー!!!!

 歳の差いくつよ!!待って、ほんとにするの? あれでしょ介護要員とか老後が寂しいから話し相手的なそれでしょ!? ねぇ、そうだと言って!!!!わたしの初キス、こんな老人と!?嘘でしょ!? わたし、王女なんですけど!?)


 ルチルは怒りを込めて心の中で叫ぶ。


(あのクソ商人!早く助けに来てよ!!)


── 時は遡る。ルチルがなぜこのようなことになったのか、すべての始まりは、あの冬の日であった。


はじまりはじまり~。

さあ、ルチルはどうなってしまうのか? クソ商人の正体とは?


プロローグのシーンは「第6話 パイライト侯爵」で再び登場します。

そこまで読んでいただければ、物語の核心が少しずつ見えてくるはず。


よろしければ、ぜひまずは6話までお付き合いください!



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