62話
先行を取った瑞希の桜のペアは、まずステージの上に立ち、ホールドする。
そして近くにいた生徒が、合図を出すと、タンゴ調の音楽が講堂内に流れ始めると、着ているドレスと相まってまるで燃え盛る炎のように踊り始めた。
「すごい……」
「これは、別次元のダンスです……」
「本当にすごいと言う言葉しか出てきませんね……」
3人が驚くのも無理はない。
2人のダンスには、無駄の動きがなく、全てにおいて完璧であるからだ。
ここにいたるまで、相当な鍛錬を積んだのだろう。
「ねぇ、杏奈……。本当に勝てるかな?」
「大丈夫だよ。麻奈美ちゃん!私達、絶対勝てるから!」
「そ、そうだよね!」
この時、麻奈美は少し違和感を覚えていた。
目の前にいるのは杏奈に扮した亮のはずなのに、亮っぽくなかったからだ。
「気のせいか……」
そうこうしているうちに、音楽が終わり、2人は踊り終えていた。
周りからは割れないばかりの拍手が沸き起こり、瑞希も勝ち誇った顔をしている。
「さて、次は村上杏奈、柏崎麻奈美ペアのお2人です!」
瑞希達が舞台から降りて、今度は亮達の出番となった。
「行こう! 麻奈美ちゃん!」
導くように、亮は麻奈美の手を引きエスコートする。
「うん!」
舞台の上に上がり、2人は1度深呼吸をして、瑞希達とは違う格好でホールドをした。
近くにいた恵梨香が合図をすると、今度はワルツ調の音楽が流れ始める。
「どうか、失敗しませんように……」
心配そうに見つめる恵梨香をよそに、2人は完璧なくらいにシンクロした動きで踊り始めた。
自習、練習していた時以上の動きで、まるで花の上で踊る妖精のようである。
「きゃー杏奈様ー!! 素敵ー!!」
「杏奈さん可愛いですよー!!」
見ていた杏奈推しの人からは黄色い歓声が上がっていた。
「麻奈美ちゃん、私達皆を魅了できるよ」
「私達、皆を魅了するダンスを踊れてるんだね!」
踊りきると、周りからは大歓声と、割れんばかりの拍手が起こる。
それに答えるように、2人は手を振って答えていた。
「素晴らしかったですー!」
「凄く素敵です。杏奈様……」
智代や唯も感動していて同じように拍手と歓声を送る。
「良かったです……。すごく良かったです……」
目から涙を流しながら、恵梨香も拍手をしていた。
その後、 佳苗達は審査結果をどうするか4人で話し合う。
「間違いなく、この勝負、私達の勝ちですね! 貴方達よりもキレがありましたから」
勝ち誇った顔をしていて、瑞希がどや顔してきてた所で、話し合いが終わり、佳苗がマイクを持つ。
「えー、結果発表を始めます……。厳正なる審査の結果……」
周りが静まり返り、片津を飲んで、佳苗が結果が言うのを見守る。
「村上杏奈、柏崎麻奈美ペアの勝ちとなりました!」
「なっ……」
「「やったああああ!!」」
佳苗がそう発表した瞬間、周りからは先ほど以上に割れんばかりの拍手が起き、祝福の言葉が飛び交う。
「良かった……。良かったよぉ……」
涙を流しながら、麻奈美は抱き着き、後ろからは唯や智代も抱き着いてきた。
「おめでとうございます。杏奈様ー」
「良かったですね。杏奈さん」
嬉しさをわかちあっていると、その後ろから、恵梨香も涙を流しながらやって来る。
「杏奈様……本当におめでとうございます……」
「恵梨香もありがとうね」
恵梨香とも抱き合っていると、瑞希は悔しい表情を浮かべながら、近くにあった机を強く叩く。
「納得できませんわ!!」
そう吐き捨てて、佳苗からマイクを奪い、ステージのに立つ。
「今からそこにいる、村上杏奈の秘密を暴露しますわ!!」
「まずい……」
「やばい!!」
急いで恵梨香が、マイクの電源を切りに行こうとするが、間に合いそうにない。
万事休すかと、麻奈美も目をつぶる。
「そこにいる村上杏奈は女ではありません……。女装した男です!!」
講堂内は、驚きの声が飛び交う。
「杏奈様がお……男……?」
「え……」
それは唯や智代も例外ではなく、驚愕していた。
「間に合わなかった……」
「もっと、私が対策を考えていれば……」
2人が絶望する中、亮はにやりと笑いながら、ステージへと向かう。
「違うよ。私は男なんかじゃない……」
「何を今更! こちらにはたくさんの証拠となる情報がありますよ!? もう白状して楽になってしまいなさいよ!」
「だから私は本物の村上杏奈だよ? 信じられないならここで裸になってもいいんだよ?」
脅しにも全く動揺することなく、背中にあるチャックへ手を伸ばそうする。
「ダメです! 杏奈様! それだけはやってはいけません!!」
「杏奈! ダメだって……」
驚く麻奈美と恵梨香が止めようとするが、ここで先ほどの違和感に気が付いた。
昨日と亮の雰囲気が違うし、もし亮だったらここで脱ぐなんて言わないはずだ。
あそこに立っているのは本物の杏奈なのでは?
でも本当にそうなのだろうか?本物杏奈であれば髪の毛の色が違うはずである。
そう不安に思っていた時だった。
「杏奈様をそうやって追い詰めるなんて、最低ー!」
「こんな可愛い杏奈様が、男なわけないでしょー!」
周りにいた生徒たちが突如として、声をあげ始め、瑞希を非難し始めた。
「ぐぬぬ……。こうなったら証拠をばら撒いて……」
お付きの生徒から受け取った用紙を、ばら撒こうとすると、佳苗がその用紙を取り上げて破り捨てる。
「負けたからって見苦しいぞ。神宮寺!!」
怒気を込めながら佳苗は、瑞希を怒鳴りつけた。
「くっ……行きますよ……」
「瑞希さん待ってください!!」
耐えられなくなった瑞希は、無念の表情を浮かべながら、大講堂の外へ逃げて行ってしまう。
「ほ、本物の杏奈なんだよね?」
「そうだよ。麻奈美ちゃん」
麻奈美は、杏奈に近づいて本物杏奈だと再確認すると、2人で抱き合った。
「杏奈様。頑張りましたね……えらいですよ」
頭を撫でて、恵梨香は杏奈の事を褒めたたえると、杏奈は照れ笑いをする。
「あの……。本当に……本物の杏奈様ですよね?」
「こんな可愛らしい杏奈さんが男なわけないでしょう? そうですよね?」
「そうだよ! 2人もいろいろとありがとうね」
その後、5人はジュースの入ったグラスを乾杯をして、机にある料理を食べながら、勝利を分かち合うように喜び合っていた。
「いやぁ……。上手くいって良かったー!」
胸元のポケットに隠していた小さいカメラでその様子を見ていた亮は、ほっとした表情で一息つく。
あの時杏奈は退院がもしかしたら、社交パーティの日になるかもしれないと亮に報告し、こっそり帰ってきた亮と入れ替わって、瑞希を押し入れようと作戦を企てていたのだ。
「でも、こうなるんだったら、入れ替わらなくてもよかったかもなぁ……」
正直、ここまでうまくいくとは思っておらず、まさか周りにいた生徒たちが味方になってくれるとは予想外である。
これも亮が頑張って作った環境のおかげなのだろう。
思った以上に大成功し、勝利に酔いしれた気分となっていた亮は机に会ったジュースを飲みながら一言呟く。
「後は頑張れよ。杏奈……」
そう亮は、画面の向こうの杏奈にエールを送るのだった。
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