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6話

「こっちへ戻って来てたんだ」

「この学園へ通う事になって、この町へ私だけ戻ってきたんだ」


 10年前、麻奈美のお父さんが隣町の大きな病院の院長へ就任することになり、家族ともども引っ越していたみたいで、この学園へ通うのが不便だからと言う理由で麻奈美だけこの町に戻って来てマンションに1人で暮らしているようだ。


「ところでいつから気づいてたんだ?」


 杏奈の声からいつも通りの声に戻して、亮は詮索する。


「朝の満員電車で助けた時から。亮君の髪の毛杏奈よりちょっと濃いって杏奈に教えてもらったからすぐ分かったよ」

「それだけで?」

「そうだよ。意外と女の子ってそう言う小さい事も気付くものだよ?」

「マジかよ……」


 驚いた。自分でも気づいてない所を麻奈美は気づいていたとは……。


「頼む。この事は内密にお願いできないか?」

「いいけど、杏奈に何かあったの?」

「うん……ちょっとね……」


 亮は杏奈が交通事故にあって、全治2~3か月の大けがを負ってしまった事、そして妹のわがままで亮が代わりに通う事となってしまったという話をする。


「そうだったんだ……。大変だったね……」

「交通事故に遭ったって聞いた時はやばい事になってるのかなって思ったけど、足の骨折だけで済んで良かったよ」

 

 そう言いながら亮は安どの表情を浮かべた。


「そうだ。この後お見舞いに行ってもいい?」

「別にいいけど」


(ん?あれ……?待てよ。もし麻奈美を連れてきたら、バレたってことになって2人に詰められるんじゃ……)


 脳裏には、杏奈や恵梨香が怒っている場面が再生される。


(いや、バレたことには代わりねぇや……)


 腹を括った亮は、土下座をする覚悟を決めていると、突如として麻奈美が抱きしめてきた。


「ま、麻奈美ちゃん!?」

「いいじゃーん。久しぶりに再会したんだから、もっと喜ばせてよ」


 そう言いながら、麻奈美はさらにぎゅっと抱きしめる。


「い、痛いって!!」

「だって10年ぶりなんだよー?これぐらいしないと気が収まらないよー」


 かなり強い力で抱きしめられてとても苦しい。


 だけどそれよりも……、麻奈美からはフローラルないい香りがするし、顔には大きくて柔らかいものが当たっていて亮は気が気でない。


「やっぱり、亮君も男の子だね……」

「う、うるさいー!!」


 からかうように、にやっとわらう麻奈美はその後気が済むまで放してくれなかった。






「麻奈美ぢゃ~ん!! 会いたかったよ~!!!」

「私もだよ!! 杏奈~!!」


 杏奈のいる病室へ入った瞬間、感動の再開を果たしたカップルのように二人は抱き合う。


「感動的な再開だなぁ……」


 2人の様子をほろりと涙を流しながら見ていると、鬼のような形相をした恵梨香にがっしりと肩を掴まれる。


「とりあえず全部説明してください」

「わかりました……」


 肩をがっしりと掴まれたまま、恵梨香に睨まれながら麻奈美にバレたことを説明した。


「亮様?いくら幼馴染でも10年経てば性格も変わります。もし言いふらされでもしたら……どうするおつもりだったんですか!?」


 語気を強めながら言う恵梨香に、杏奈は「まぁまぁ……」と言って抑える。


「私が麻奈美ちゃんに、見分け方教えちゃったのが悪いんだし……。許してあげてよ……」

「……杏奈様がそういうなら」


 杏奈の説得により、恵梨香は怒りを鎮めた。


「ふぅ……」

「次はありませんからね」


 助かったとほっと一息つくと、ギロッと睨みつけて、恵梨香は亮から離れる。


 少し過保護気味なところはあるけれども、恵梨香が怒る理由も分からなくはない。あの学校で男だとバレてしまうのは、死を意味する。


 亮だけではなく杏奈にも迷惑をかかってしまう。これからはなお一層気を付けようと反省をしようと心に決めた。


「まぁまぁ恵梨香ちゃん。私も一緒に亮君の事サポートするから大丈夫だよ」

「麻奈美ちゃん……」


 なんて優しい娘なんだと、亮は感激していると花瓶の花のお世話をしていた恵梨香があざ笑う。

 

「そんな、ゴミ人間と一緒にならなくて大丈夫ですよ」

「あはは……恵梨香ちゃんは相変わらずだね……」


 流石は恵梨香の毒舌。


 麻奈美も少し引いた顔で愛想笑いをする。


「こうやって皆で集まるの久しぶりだね」

「そうだな……。本当に10年ぶりくらいか……?」


 記憶が乏しいが、4人で最後にこうやって集まったの小学生の時以来だ。


 引っ越して行ってしまった時は二度と会えないと思っていたが、またこうやって集まれる日が来たのはとても嬉しい。


「それにしても、お兄ちゃん……制服似合ってるね……」

「たしかにめっちゃ可愛いよ、亮君!」


 2人は舐めまわすように、何度もスマホのカメラで写真を撮る。


「恥ずかしいから、あんまり見るなよ……」

「「きゃわ!!!」」


 顔を赤らめて、気恥ずかしそうにそういった瞬間2人は何やらこそこそと話し始めた。


「お兄ちゃん、椅子に座ってこういうポーズを……」

「な、なんで……?」

「それが終わったら、このポーズね!」

「え……?え……?」


 どうやら2人に火がついてしまったようで、目を輝かせてスマホのレンズを向けながら、命令してくる。


「亮君!」

「お兄ちゃん!」

「「はーやーく!」」

「2人ともやめて……。恵梨香も見てないで助けてよー」


 圧力をかけてくる2人を自分では止められないと感じ恵梨香に助けを求める。


「楽しそうですね……」


 一言笑顔でそう言うと、花瓶をもって病室を出ていく。


「そんなぁ……」


 その後2人の気が済むまで、亮は撮影に付き合ってあげたのだった。

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