59話
次の休みの日、杏奈の病室に行きいつものように杏奈にノートを見せていた。
「お兄ちゃん、だいぶ字が綺麗になってきたねー」
「あ、ありがとう……」
心ここにあらずといった感じで、亮は返事をする。
「お兄ちゃん、今日はどうしたの? さっきから元気ないけど……」
「わ、わぁ!!」
心配した杏奈は、亮の目の前に顔を近づけてきて、亮は椅子から転げ落ちた。
「何があったの……?」
今日は恵梨香もいないので、最近の恵梨香や麻奈美の事を杏奈に話す。
「あはは!! お兄ちゃん、モテモテハーレムだねー!!」
腹を抱えながら、杏奈は笑い、ニヤニヤしながらそう言う。
「そうなのかなぁ……」
腕を組みながら、信じられないと言う顔を亮はする。
「そうだよ?2人共、お兄ちゃんの事が大好きだから取り合っているの!」
それを聞いて、亮は呆れかえっていた。
杏奈や亮の人生がかかっているというのに、そんな事をしてる暇はないはずだ。
「こんな一大事な時に何やってるんだか……」
「え……一大事?」
そうボソッと呟くと、杏奈に聞こえてしまう。
しまったと口を押えるも、時すでに遅し、杏奈に肩をがっしり掴まれてしまった。
「ちょっと、一大事って何!? お兄ちゃん!?」
体を揺らされながら、問い詰められるが、心配を掛けさせる訳にはいかない。
「う、うーん……何の事かなー……」
口笛を吹きながら、誤魔化そうとするが、杏奈はほっぺーをびよーんと伸ばし始めた。
「痛い! 痛い!」
「言えー!! 言えー!!」
ほっぺーを思いっきり、伸ばされても口を閉ざし続け、ようやくあきらめたのか、ほっぺをつねるのをやめる。
ほっとしたのもつかの間、なんということか、杏奈は着ている服を脱ぎ始めてしまう。
「え、ちょ……杏奈何してるの?」
下着姿になった杏奈は、手にナースコールを持ち、ボタンに手を掛けた。
「教えてくれなかったら、このボタン押すからね?」
笑ってはいたが目は本気の目である。
この状況で、ボタンを押されてしまうと、亮が妹に脱って脅迫したと勘違いされてもおかしくはない。
「わかった!! 言うから!! とりあえず服を着てそのボタンを置こうな?」
「おっけー」
堪忍した亮は、今自分たちが晒されている危機を、杏奈に話す。
「なんで話してくれなかったの?」
服を着ながら、聞いていた杏奈は驚いた表情をしていた。
「だって……、杏奈に心配をかけさせたくなかったから……」
「お兄ちゃん……。すごく妹思いで優しい……」
亮のやさしさに、感動のあまり杏奈は涙を流し始める。
「え、ちょ……そこまで……」
急に涙を流し始めた杏奈だったが、すぐに涙を拭いて、表情を真面目な顔つきへと変えた。
「たくさんの人を呼ぶって事は勝っても、負けても、絶対に言いそうだよね? 何か策はあるの?」
「一応、あるにはあるけど……」
亮の考えを話すとやはり、頭のさえる杏奈も同じ考えのようだ。
「でも、ちょっとそれじゃあ足りないかなぁ……」
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
「私達、兄弟にしかできないことがあるでしょ?」
そう言って、杏奈は亮に耳打ちをする。
「⁉ 本当にうまくいくのか? それ……」
「うん、絶対うまくいく!」
「でも……お前を……」
「お兄ちゃん? たまにはお兄ちゃんに恩返しさせて? されてばっかじゃいや!」
そう訴えかけるように言う杏奈の表情は、真剣そのものであった。
杏奈の熱意に押された亮は、首を縦にふる。
「わかった。絶対に成功させような」
「うん、お兄ちゃん!」
2人で手を取り合って、決意を新たにしていると、唐突に病室のドアが開く。
入ってきたのは、検査に来た看護婦だった。
「村上さーん。血圧の測定に……え……」
まだ完全に杏奈は、服を着終わっていない。
しかも、病室の床で2人が手を取り合って密着しているという病院であってはならないシチューエーションだ。
変な誤解をされないはずもなく。
「すみません、また後でにしますね」
真顔でドアを閉めて、看護婦は出て行ってしまう。
「ちょ、ちょっと! 看護師さん!!??」
その後、戻ってきた看護婦の看護婦の誤解を解くのに相当苦労してしまうのだった。
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