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44話

 机に並べられたスイーツを唯は睨みつけるように見ていた。


 ぶつぶつと何かつぶやいていて、かなり集中しているのだろう。


(すごい集中力……。でも何を言ってるのだろう?)


 亮はよーくを唯の声に耳を澄ませる。


「食べたい、食べたい、食べたい、食べたい」


 涎を垂らしながら、念仏のようにそう唱えていた。


(普通に食べた意欲を我慢してるだけだった……)


 一方の瑞希は、にやにやとただ唯を見つめるだけ。


 気味が悪いと思いながら見ていると、隣に不安げな表情の麻奈美が近づいてくる。


「大丈夫だよね? 唯ちゃん……」

「多分……」


 心配する麻奈美と亮をよそに刻一刻と時間は過ぎて行く。


 すると、スマホに一通のメッセージが入る。


『お兄ちゃん、本当にこの娘任せて大丈夫なんだよね?』


 送ってきた杏奈の表情を見ると、麻奈美と同じように不安げな表情をしていた。


『大丈夫。唯ちゃんを信じよう! もし万が一の時は兄の俺がなんとかする!』


 安心させるために、亮は杏奈に送信すると、満面の笑みをこちらに向ける。


(本当に可愛いな……守ってあげないと……)


 可愛い妹を守るためには、まずは唯に高級スイーツを当ててもらわなければいけない。


 しばらくして、唯は漸く分かったのか用意された答えを書くボードに書いていく。


 そして意気揚々と答えを出そうとした時だった。


「ちょっと待ってください!」


 突然智代が待ったと静止をかける。


「え? 智代ちゃんどうしたんですか……?」


 急に静止をかけてきたので全員訳がわからず、瑞希も困惑していた。


「ど、どうしましたの? 栗花落さん?」


 そう問われた智代は、机の上にあったスイーツを持って、瑞希に見せつける。


「ここにあるスイーツは、全部高級スイーツではありません!」


 智代がそう宣言すると、全員は驚きを隠せていなかった。


「杏奈、どういう事?」

「さ、さぁ……」

「なぜそう言いきれるのですか!?」


 動揺した瑞希は、智代に問いただす。


「どれも安物ばかりで、それを高級っぽく見せるために手を加えています。かなり分かりにくく巧妙に高級品ぽく作られていますが、数々のデパートを牛耳る私を欺く出来ませんよ?」


 たしかに手に取ってよーく見ると、智代の言う通り手を加えたような跡がある。


「言われてみればたしかに!」


 唯も、目の前に置かれたスイーツの違和感に少し感づいていたようだ。


「瑞希ちゃん、妹の連絡先をなんとしても手に入れたいからってイカサマしたの?」

「え、えっとお……」

「み、瑞希様……?」

 

 問い詰められた瑞希は大量の冷や汗をかいていて、桜もかなり困惑した様子だった。


「どうなんですか? 神宮寺様?」

「どうなの……?」


 次第に恵梨香や麻奈美にも追求される。


「え、えっとその……。あ!? 用事を思い出しました! 行きますよ桜さん!」

「へ? 瑞希さん! 待ってくださーい!」


 耐えられなくなったのか、瑞希達は尻尾を巻いて、逃げていってしまう。


「逃げましたね……」


 そう呟きながら、智代は唯と一緒に机へ置かれたスイーツを頬張っていた。


「ありがとう。智代ちゃん。また助けてくれたね」

「いえいえ、愛する杏奈さんの妹に手を出されるのはいやですからー」


 笑顔で智代は、亮と杏奈の両方を抱きしめる。


「智代様、あまり過度なスキンシップはおやめください」


 ブチギレた恵梨香は、2人を智代から引き離し、どこかへ連れて行かれてしまう。


 その隣でも、麻奈美が呪文唱えるようにぶつぶつと言いながら、恵梨香と同じようにブチ切れている。


(こわっ!! 麻奈美ちゃんめっちゃブチギレてる!)


「杏奈様もそうですけど、杏子様に至っては、まだけが人なんですよ? また悪化したらどうするんですか?」

「はい、すいませんでした……」


(こっちは説教されてるし……)


 少し離れたところでは、智代が恵梨香に説教されていて、小さくなってしまっている。


「あー、良かった……。私の連絡先が流出しなくて……」

「私も一安心だねー」

「杏奈様、杏子さん! 良かったら食べませんかー?」


 2人一息ついているところに、唯が一生に瑞希が置いていったスイーツを食べようと誘ってきたので、3人で一緒においしくたいらげたのだった。

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