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第六話 木津城攻めー義か策かー



第六話 木津城攻め ― 義か、策か


永禄二年(1559)初春。

雪解けの風が甲賀の山を抜ける。

だが、その静けさの裏で、北畠家がじわじわと勢力を広げていた。


長野家の残党が北畠に走った。

その拠点が――木津城。


報せを受けた俺は、観音寺城の広間で地図を睨んでいた。


「北畠が伊賀を通って甲賀へ……か。

 放っておけば、国境が崩れる。」


布施清秀が低い声で言う。

「殿、早急に攻めるべきにございます。

 奴らは、長野の怨念を背負っておる。手をこまねけば再び反乱を。」


青地信孝が笑いを含んで口を挟んだ。

「若殿――いや、今はもう殿ですな。

 また“義”を説いて、戦を止めるおつもりでは?」


「……止めはせん。ただ、殺すだけの戦はしない。」


そう言いながら、胸の奥でざらついたものが残った。

あの時、長野業盛を赦した。それでも、こうなった。

俺の“義”は、間違いだったのか。


---

出陣 ― 霧の甲賀


木津は甲賀の南端、山に囲まれた要害だった。

俺は先鋒を青地、主力を布施に任せ、自ら本陣を取る。


甲賀の忍びたちが前を走る。

彼らは風のように現れ、消えた。

六角のために動くが、明日には敵の味方をしているかもしれない。

それが甲賀だ。


「殿、木津には長野業盛の影が見えたと。」


百地ももちと名乗る忍びがそう報告した。

この百地というこの男も忍びだが武骨な武将のようにも見えるな…

俺は手綱を握りしめた。


「……やはり、生きていたか。」


---


木津城前


木津の谷に着くと、霧が深く、音が吸い込まれるようだった。

俺は白旗を掲げ、矢文を送る。

返ってきたのは、一通の文。

筆跡は、間違いなく業盛のものだった。


「六角の義仲殿へ。

この城は、義を失った者の来る場所ではない。」


読んだ瞬間、胸が熱くなった。

信じていた“義”を、裏切られたかのように感じた。


「話をつける。俺が行く。」


布施が止める。

「殿、危険です! 業盛は裏切り者。言葉は通じませぬ!」


「通じるかどうかは、俺が決める。」


対面


霧の中、俺は城門の前に立った。

櫓の上に、煤けた鎧の男が姿を見せる。

長野業盛――確かに、あの時のままだった。

だが、目の光はもう違った。


「……久しいな、業盛。」


「義仲。お前はまだ“義”なんて言葉を信じているのか。」


「信じるさ。

 人を生かすための義がある限り、俺は戦を選ばぬ。」


「綺麗ごとだ。お前が赦したから、俺は流浪し、北畠の傘下に入った。

 六角に居場所はなかった。」


業盛の声には怒りよりも、疲れがあった。

俺は叫んだ。


「なら、戻れ。俺はまだお前を討つ気はない!」


「……戻れだと?

 俺を斬らず、赦し、また従えと? そんな義は偽りだ!」


その瞬間、城内から火矢が放たれた。

矢が地に突き刺さり、火花が散る。

――戦が始まった。



木津城攻防


「撃てぇぇぇ!」


甲賀の山々に銃声が響く。

布施の隊が橋を渡り、青地の騎馬が側面を突く。

俺は前へ出て、槍を構えた。


霧と煙が混じる中、敵味方の区別もつかない。

燃え上がる木々の向こうに、業盛の旗が見えた。


「業盛――! 無駄な血は流すな!」


だが彼は聞かなかった。

炎の中を駆け抜け、俺に槍を突きつけた。


「義仲! お前が俺を狂わせたんだ!」


槍と槍がぶつかり、火花が散る。

力がぶつかるたび、言葉が消えていく。

やがて、彼の足がもつれた。

燃え崩れた櫓が、業盛の背後に倒れかかる。


「業盛――!」


俺は手を伸ばした。

だが、届かなかった。

炎が彼を包み込み、姿が消えた。


「義を……貫け……若殿……」


最後に、確かにそう聞こえた。



戦のあと


夜明け。

城は灰になり、風だけが残った。

勝ったのか、負けたのか、もうわからない。


青地が声をかけた。

「殿、木津は落ちました。これで北畠の勢も退きましょう。」


「……そうか。」


「ですが、あの業盛という男、最後まで殿を恨んでいたようには見えませぬ。」


俺はうなずいた。

「恨みで動くなら、人はここまで強くならん。

 ――あれは、義の人だった。」

あの時死んだように見えるが分からんな

---


義の覚え書き


観音寺へ戻る途中、馬上で筆を取った。


「義を掲げる者は、血に濡れねばならぬ。

生かすと誓い、見殺すしかなかった。

それでも、俺は義を信じたい。

それが俺の名に刻まれた宿命だから。」


筆先が震える。

だが、墨を止めなかった。

“義仲”という名に、恥じぬように。



終章 ― 甲賀の風


山を抜けると、甲賀の忍び・百地が現れた。

「殿、北畠は一時退きましたが、伊賀が騒がしくなっております。」


「……伊賀、か。やはり簡単には終わらんな。」


「ですが――長野業盛は、最後まで“殿を恨んではおらぬ”と。」


俺は馬を止め、空を見上げた。

春の霞が、柔らかく広がっている。


> 「義は、まだ生きている。」


そう呟いて、手綱を握り直した。

甲賀の山を越えた先、また新しい戦が待っている。




今回は義仲が初めて“自分の信じた義が裏切られる”体験を描きました。

彼の若さと理想、そしてそこに芽生える孤独感――

その揺らぎを感じてもらえたら嬉しいです。

ここまで読んでくれた方、ブックマ・感想で義仲を応援お願いします!。


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