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第15話 揺れる家、量られる六角



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## **第15話 揺れる家、量られる六角**


 評定の間に座ると、すぐに気配が変わった。

 官位の話は、すでに家中の耳に入っている。

家中の者としては何かと言ってくるだろうな

「若殿――いや、義仲殿…今我らが気になる事がございます」


 最初に切り出したのは、義賢派の古参家臣だった。


「朝廷より、**従五位下・左衛門佐**の打診があったと聞き及んでおります。おいては家臣団としてとても嬉しく家が安堵することになります

 これは六角にとって名誉でありますが――」


「軽々に受けてよいものではない、ということか俺としてもある程度考えはあるだかな」


 俺が促すと、古参は続けた。


「左衛門佐は都の治安と軍事に関わる役。

 京が乱れれば、責めは六角へ向かいましょうそれは殿にとっても危険なのでは?」


 もっともな意見だ。六角氏にとってもリスクもありながらメリットもあるので家臣としても

 だから別の声がすぐ上がる。皆心配しているのだ。


「だが、今の六角が“何もしない”方が危うい三好氏や他大名に就けたら困る事もあるだろうよ。」


 重臣の進藤賢盛が前へ出た。


「官位は枷にもなれば、盾にもなります。

 朝廷の名があれば、三好も浅井も、軽々には動けませぬ六角としても京でも動きやすいですしな」


 ああ、それは確かにある。俺としても都で動き初めておき、パイプ役の公家など出来るのも考えたからな。


「殿、我ら国人衆の思いですが――

 官位など遠い話であります。

 重要なのは、殿が近江を守り、民を保つことでございます国内の安定を最優先して貰いたいと」


 国人衆代表も、少し距離感を保ったまま顔を上げた。


(名誉を恐れる者、利用しようとする者、巻き込まれるのを嫌う者様々な思惑があり、それそれの動きは始まってると)

(どれも間違っちゃいないでも家中の思惑を一緒にしていかないとな)


「俺はまだ決めていない家中の皆と慎重に決めて行きたいと思っておる」


 俺がそう告げると、場が静まった。


「だが一つだけ言える。

 六角は誰かの後ろ盾になる家ではない我らがしっかりとした態度示す必要がある。」


 それだけで、何人かの顔が引き締まる。



 評定が終わると、進藤を残した。


「京の様子、詳しく頼む色々な事が起きると聞く事が多そうだな」


「承知しました」


 三好長慶殿の話が出た。


「三好三人衆の内紛は、表面上は混乱でも、長慶殿の掌の上にございます。長慶殿として何とか広がりない小さくしておきたいだと

 松永久秀も表では従っていますが、内心は測り

難い」


「朝廷の動きは?どんなのがある?」


「六角殿への官位打診は、すでに長慶殿も承知されています」


「反応は?三好氏達のは?」


「――警戒と納得、半々にございます。

 近江が安定するのは都にとって有益です。

 しかし、朝廷が別の武家に目を向けたことは、面白くないでしょう」


 三好は京を押さえているが、正統性は幕府・朝廷から与えられたものではない。

 そこに、俺の名前が浮かぶ――。



 その日の夕刻、都からの密書が届いた。


――近江が乱れぬなら、それで良い。

――余計な真似は互いに避けよう。


 差出人は無い。

 だが、筆致から三好長慶の意思を感じた。


「……牽制か」


 同じ頃、尾張からの文も届いている。


――近江殿。

――官位の件、承知した。

――動きは見ている。

――余計な真似はするな。

――背後は押さえておこう。


「随分と上からだな」


 小姓が詰め寄る。


「殿、これは……友好の証では?」


「違う。値踏みだ」



信長は、俺を見ている。

 敵として叩くか、使える相手として並べるか、


 あるいは――後で始末するか。


(柴田や佐久間なら、俺を“古い大名”と見るだろう)

(だが、藤吉郎は違う)


 あの男は、人の動きを読む。

 剣を振るわず国をまとめる難しさを、骨身に染みて知っている。


「近江が動けば、尾張も動く」


 文を指で叩きながら、俺は呟いた。


「だが、動かねば――飲み込まれる」


 文を丁寧に畳み、机の端に置く。

 朝廷、三好、そして織田。

 外からの圧が、同時に押し寄せ始めている。

(六角は、もう静かにしていて許される家じゃない)

 そう、はっきり理解した。


 信長は、人の動きをよく見る男だ。

 戦わずに国をまとめる厄介さを、理解している可能性がある。


「近江が動けば、尾張も動く。

 だが、動かねば――飲み込まれる」


 俺は文を畳み、机に置いた。



 夜。

 灯りの落ちた廊下を、俺は一人歩いた。


(国を治めるとは、こういうことか)


 剣を抜かずとも、判断は尽きない。

 一つ決めれば、どこかで誰かが困る。


(逃げ場を失えば、六角は終わる)


 近江は京に近い。

 寄れば都の影響が重く、離れれば尾張の視線が刺さる。


「……面倒な立場だ」


 だが悪くはない。


 剣だけでは届かぬ場所に、言葉が届く。

 言葉だけでは足りぬ時、剣がある。


(選べるうちは、まだ強い)


 硯に向かい、一筆走らせる。


――六角は、近江を乱さず。

――京を脅かさず。

――だが、侮らせぬ。


 朝廷とも、織田とも、三好とも。

 近すぎず、遠すぎず。


 その均衡が崩れる時――

 本当の戦が、始まる。


---


## **(第15話 完)**


第15話では、六角家の内側と外側――

家中の反応・京の動き・三好長慶・そして織田信長という、

複数の視線が同時に義仲へ向き始めた回でした。

官位という一見「名誉」に見えるものが、

実際には期待・監視・圧力の塊であること。

それを受ける側の重さを、義仲の独白と周囲の反応で描いています。

特に意識したのは、

「誰も義仲を助けに来ない」という状況です。

朝廷は守りを求め、

三好長慶は静観し、

織田信長は値踏みをする。

家中ですら、一枚岩ではない。

――それでも、当主は立たねばならない。

この回で義仲はまだ決断していません。

ですが、逃げ場が無くなりつつあることだけは、はっきりしました。

個人的には、

「近江が動けば、尾張も動く。だが、動かねば飲み込まれる」

この一文が、今の六角家そのものだと思っています。

次回はいよいよ、

官位を受けるか否か、

そしてそれが六角家に何をもたらすのか――

家中の亀裂が、表に出てきます。

ここから先は、

剣よりも言葉が、

言葉よりも覚悟が問われる展開になります。

引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

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