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第14話 都の声、尾張の値踏み



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## **第14話 都の声、尾張の値踏み**


 京からの使者が来たのは、朝の政務が一段落した頃だった。領内の書類や国境問題等の様々な物をある程度終わらせて梅茶を飲んでゆっくりとしてた時に小姓が来た


「朝廷よりの使者にございます」


「……通せ」(久々に来るな何かあるのか?)


 通された公家は、装束こそ整っているが、目の下には濃い隈があり、歩みも慎重だった。

 都の疲れを、そのまま背負ってきたような男だ。


「六角義仲殿。此度は近江の静謐、まことに慶賀に存じます我が名は万里小路充房までのこうじあつふさでございます。」


「静謐ね。血の臭いが消えたばかりだが京では将軍様と三好氏の争い、近江では我が六角と北畠氏の争いが少し落ち着いてきただけだが?」


 俺がそう返すと、公家は苦笑し、扇を閉じた。目元を細め、小姓に出せれた茶を一口飲んで言った


「武家の申される“静けさ”とは、そのようなものなのでしょうなこれからも...」


「で、祝いだけで京から人は寄越さない。要件を言え武家は少しばかり短気だからな。」


 遠回しは好かん。面と向き合ってるのにどうして回りくどく言われ無いと行けないのか

 公家は一息置き、声を低くした。


「率直に申し上げます。公家としても三好氏共の頼りにせずに他家に治めて貰いたいですのです。

 京は――武家の目を必要としております」


「三好では足りぬ、と?軍事や外交力もあり、安定しているように見えているそれでも駄目か?」


 名を出すと、公家は小さく首を振った。


「足りぬというより……縛れぬ、と。

 寺社、浪人、公家同士の争い。応仁の乱から続く下克上も辞さない考えや野盗の増加などの問題

 幕府の命も、もはや形ばかりにございます」


「つまり、都は誰のものでもないそして治めてる者も定かで無く不安定なものでもあると。」


「……はい我らも安定と民の暮らしの為と何よりも天皇の為に動きたいのです。」


 否定はなかった。朝廷はお金と名誉をかけることが出来なくているというより出来ない等しい式の準備や宮殿の維持を武家の資金や力が必要なのだ。

 それが、今の朝廷の現実だ。


「そこで六角か。

 京に近く、三好と正面衝突せず、近江を治めていて幕府にも顔を立てることも出来るし朝廷とも関係深いからと…」


「まるで便利屋ですな幕府、織田、朝廷からもお願いをされてくるとは困ったような少し嬉しい変な気がしてくるものだな。」


「便利であることは、今は力でございますそれをいい方向にも悪い方向にするのも六角殿の判断で変わりまする。」


 正直だ。そして本当に力無く助けを求めているいや、正直にならざるを得ないのだろう。天皇の唯一無二の存在を無くしては公家としては生きていけないと思ってるのか


「朝廷よりお願いがございます」


 公家は一歩踏み込み、深く頭を下げた。


「六角義仲殿に、**従五位下・左衛門佐**をお受けいただきたく」


 やはり来たか。


 左衛門佐。

 京の治安と軍事に関わる官位。

 名誉と同時に、都に縛りつける鎖でもある。天皇と京の民も守り、他大名も牽制していく役割だ。


「軽い役じゃないな色々な責任や面倒事が有りそうだな、気が持たそうな物になりそうだ。」


「承知しております。

 ですが今の都には、“名で兵を動かせる武家”が必要なのです」


「盾になれ、と?」


「盾であり、睨みであり……最後の抑えでございます」


 俺は黙ったまま、公家の顔を見た。


「俺が断ったら?」


 一瞬の沈黙。

 公家は視線を伏せ、静かに言った。


「……次を探します。

 ですが、その時は、都はさらに荒れるでしょう」


 脅しではない。ただの事実だ。


「考える。俺は近江を疎かにはしない」


「もちろんにございます。

 近江が乱れれば、京も終わりますゆえ」


 公家は深く頭を下げ、去っていった。



 同日の夕刻。

 今度は尾張からの使いが現れた。


 差し出された文には、簡素な筆致で名が記されている。


――**織田信長**。


 嫌な予感は、だいたい当たる。


 文は短かった。


――近江殿。

――京の件、聞き及んでいる。

――動きは見ている。

――余計な真似はするな。

――背後は、こちらで押さえよう。


「……随分と上からだな」


 思わず鼻で笑うと、小姓が恐る恐る口を開いた。


「殿、これは……友好の意思では?」


「違う。値踏みだ」


 信長は俺を見ている。

 敵か、使えるか、それとも後で叩くか。


(柴田や佐久間なら、俺を古いと見る)

(だが……藤吉郎あたりは違う目をしているだろうな)


 あの男は、人の動きを見る。

 戦わずに国を保つ厄介さを、理解しているはずだ。


「近江が動けば、尾張も動く。

 だが動かねば――飲み込まれる」


 文を畳み、机に置いた。



 夜。


 灯りの落ちた廊下を歩きながら、俺は二つの声を思い返していた。


 朝廷は、守りを求めてきた。

 織田は、俺を量りにきた。


(どちらも、逃がしてはくれない)


 六角は、もう地方の一国ではいられない。

 京に近く、尾張と向き合い、畿内の節に立っている。


「……面倒な立場だ」


 だが、悪くはない。


 剣だけでは届かぬ場所に、言葉が届く。

 言葉だけでは足りぬ時、剣がある。


(選べるうちは、まだ強い)


 硯に向かい、一筆走らせる。


――六角は、近江を乱さず。

――京を脅かさず。

――だが、侮らせぬ。


 朝廷とも、織田とも。

 近すぎず、遠すぎず。


 その均衡が崩れる時――

 本当の戦が、始まる。


---



今回は、戦ではなく「声」を描く回でした。

朝廷の縋るような言葉と、織田の値踏みする文。

どちらも刃を向けてはいませんが、義仲にとっては戦と同じ重さがあります。

従五位下・左衛門佐という官位は、名誉であると同時に枷です。

都を守るという期待は、動かねば責められ、動けば警戒される立場を意味します。

それでも朝廷が打診してきたのは、それだけ武家が不足しているという現実でもあります。

一方の織田は、好意とも敵意とも取れる距離で近づいてきました。

信長は助けるとも、従えとも言わない。

「見ている」という一言に、当時の緊張感を込めています。

義仲はまだ決断していません。

ですが、逃げ道が消えていく感覚だけは、はっきりと掴み始めています。

次話では、この官位と外交が家中にどう波紋を広げるのか。

六角という家が、内から試されることになります。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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