第12話 近江路を行く
#第12話 近江路を行く(下書き)**
秋の気配が、ようやく近江にも降りてきた。少し寒くなって観音寺城も少し居づらくなる
俺――六角義仲は、数名の近習だけを連れて領内巡回に出ていた。城の平舘の中に常に居るのは少しばかりは体を動かして行きたいのと民と国人共と交流して良好な関係にしておきたい。派閥争いが起きている訳だしな……
当主になってから、政務と軍議に追われる日々だ。城の中だけで国を治めた気になるのは、どうにも性に合わない。
(国は、人が作ってる。人が城・宝・力だ。人により国を作れて経済を回して知恵物や商人集まり宝を生むそして力もたらして軍事力を付ける。)
それを、この目で確かめたかった。試してみたい六角氏の可能性を…
市の朝
最初に立ち寄ったのは、野洲の市だ。
朝靄の中、すでに人の声が飛び交っている。
さすが六角氏の領土の中で一番デカイ市だ。動き始めるのが早い
「へい、鮒寿司だよ! 昨夜漬け上がったばかりだ!酸っぱさと魚の味が美味しくなってるよ。」
「近江牛の干し肉はいらんかね!旅のお供やおやつ、酒のつまみに良いよ。」
木箱に並ぶ魚、干し肉、野菜。
鼻をくすぐる発酵の匂いに、思わず足が止まる。
「殿、これは……少しばかり刺激が強くて、万人受けしない食べ物ですが…」
「いい匂いだな。鮒寿司か鮒を酢に漬けて酢飯を木枠に酢に漬けた鮒ともに木枠で押すと云う食べ物
だな。俺の好きな梅とは違う匂いするな…。」
俺が言うと、商人の男がぎょっと目を見開いた。
「へ、へぇ……お武家様も召し上がられますか?お口に合うか分かりませんが…」
「国の名物だ。食わない方がおかしいだろ国の食べ物を食べないとその国が分からんからな。」
男は嬉しそうに笑った。
「ありがてぇ話だ。近ごろは戦が続いて、市も静かになりがちでして最近やっと少しずつ人が増えてきた所ですしな。」
「それでも、こうして店を出してる今も鮒や鮒寿司を売ってるじゃないのか?。」
「ええ。食わにゃ、生きられませんからなあとは人の顔を見て楽しみたいを見るのが楽しみたいと云う気持ちがあるのでね。」
その言葉が、胸に残った。
田のあぜ道で
市を抜けると、田畑が広がる。
水路の整備が進み、田には水が張られていた。
そして黄金色の稲穂が多くなっていて風に揺れている
鍬を担いだ農夫が、こちらに気づいて頭を下げる。体つきは少し貧弱だが筋肉はついてるというか丈夫な体だと分かる。
「お役人様で?こんなに人を連れて来るのは珍しいですね?ワシなんか悪い事したかね…」
「いや、通りすがりだちょっとばかり旅をしようと思って仲間と一緒に行こうとしてる訳だ。」少しばかり苦しげな言い訳だが
そう答えると、農夫は少し笑った。
「今年は水回りが良うて助かってます。
前より年貢も取り立てが穏やかになってまぁ…旅人に言っても意味は無いと思ってますがね。」
「……それは、良かった確かに年貢や取り立ては良くなってあんたも笑顔で田をやってる訳だしな。」
「六角様が代わられてから、役人の目が変わったって皆言うてます」
俺は何も言えなかった。
ただ、頭を下げた。
(評価は、城じゃなく田から返ってくる)
茶屋にて
昼時、街道沿いの茶屋に馬を止めた。
茅葺きの屋根に、煤けた暖簾。行き交う商人や百姓が、汗を拭いながら腰を下ろしている。
「ここで休むか」
「はっ」
小姓が先に戸を開ける。
「いらっしゃいませ」
中は狭いが、囲炉裏の火が落ち着く。
腰を下ろすと、ほどなくして膳が運ばれてきた。
麦飯に、刻んだ沢庵、味噌仕立ての汁。
油気はないが、湯気の立つ匂いが腹を刺激する。
「殿、質素ですが……」
「これでいい」
戦の後や政務の合間に、贅を並べる気にはなれん。
一口、麦飯を噛みしめる。少し硬いが、噛むほどに甘みが出る。
(生きる飯だな)
その様子を見ていた茶屋の婆さんが、声をかけてきた。
「お侍様、どちらまで?」
「近江の中を、見て回っている」
「ほう……それはそれは」
婆さんは目を細めた。
「このあたりは、戦が少のうて助かってます。
畑も、去年よりゃ出来がいい」
「不満はないか?」
俺がそう尋ねると、婆さんは少し考え込んだ。
「欲を言えば……
道を、もう少し整えてほしいですな。
雨が降ると、荷が通らん」
「そうか」
横で聞いていた小姓が、小さく頷く。
(軍備だけじゃ、国は強くならない)
人が通り、物が動き、飯が回る。
それが止まれば、どれほど兵がいても国は痩せる。
「貴重な話だ」
「いえいえ。聞いてもらえるだけでありがたい」
婆さんはそう言って、また客の方へ戻っていった。
夕暮れ
日が傾くころ、丘の上から城下を見下ろした。
家々の屋根から、夕餉の煙が立ち上る。
子どもたちの笑い声、桶を打つ音、牛を引く声。
戦場では決して聞こえない音だ。
(生きている国の音だな)
「殿……」
小姓が、遠慮がちに声をかける。
「どうした」
「先ほどの茶屋の話……
皆、殿の治世を頼りにしております」
「……重いな」
剣を握るより、ずっと重い。
兵を率いるのは、敵だけを見ていればいい。
だが国を率いるのは、味方の暮らしも背負うということだ。
(俺は、この風景を守れるか)
一つ判断を誤れば、田は荒れ、人は去る。
勝った戦より、負けた政が国を滅ぼす。
「殿」
「わかっている」
簡単な返事だが、覚悟は軽くない。
「――逃げる気はない」
夕焼けに染まる近江を見つめ、俺は静かに言った。
「六角は、ここに生きている」
城でも、軍でもない。
この土地と、人の中に。
だからこそ、俺は前に立つ。
この国の音が、消えぬように。
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この話では、戦や政争から少し離れ、
「国を治めるとは何か」を義仲の視点で描いてみました。
派手な出来事はありませんが、
茶屋の飯や、道の不満、夕暮れの城下といった
小さな風景こそが、義仲にとっての“守るべきもの”です。
武将として強くなる物語は多いですが、
為政者として悩み、考え、覚悟していく過程も
同じくらい重いものだと感じています。
義仲はまだ迷っています。
ですが、この回で少しだけ、
「剣ではなく国を背負う覚悟」に近づいた――
そんな一歩になればと思い、書きました。
次はまた、国の外からその覚悟を試される展開になります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
今年もありがとうございました。と言っても約1年ぶりに書き始めたので2ヶ月ちょっとだけでしたが楽しんでもらったのなら嬉しいです。年明けは1月の2週間目の5日
以降かなと予定しています。来年以降も頑張って
行きます!。




