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ep.9 魔域に挑むということ

脱出門を抜けて外に出たらUターンしてもう一度魔域に入る。

 日が少し傾いてたしサッとローブ取って今日は終わりにしよう。


「『トゲ』と、『身体強化』」


滑り対策のトゲを靴裏に張り、戦闘用の身体強化をして、中央に突っ走る。


短時間で苔が生えないところまでやってきた。


「ふぅ。あれだけ強化してまっすぐ来ればすぐだな」


木々の間を抜けて中央の広場に入る。ヌシのトカゲは相変わらず眠っている。


「あち~…寝てるとこ悪いね。ふぅー…『嵐刃』」


先手を取れることを利用し、集中して多く魔力を掛けて放つ。

トカゲは目を覚ますことなく討伐品を残して消滅した。


「よし。ローブ確保っと」


討伐品をしまい、脱出門を通って外へ出る。


夕陽に顔を照らされながら集会所に戻りローブ以外の換金を済ませると、夜飯には少し早いが魔域に行くには遅いという絶妙な時間帯だった。

 何して時間をつぶすか…そうだ、『水線』の練習でもしようか。



南門から街を出て平原を取り囲む森の手前まで歩く。

まずは手始めに拳ほどの大きさの水を出し、魔力で押し潰すようにして圧力をかける。


「…よし、今度は穴を小さく…」


魔力に小さな穴を開けると高圧にかけられた水が線となって樹目掛けて発射される。水は樹を貫通し小虫サイズのトンネルを作った。


「よし。後はこれを直接発動出来るようになれば完璧だな」


手のひらを樹に向けさっきの水をイメージする。


「『水線』」


水が直線を描いて出たはいいものの威力が足らずただの水やりのようになる。


「うーん…もっとこう、絞る感じか?『水線』」


発射口を思い切って小さくイメージして唱える。


「くおっ!」


今度は上手くいったが反動が強く制御が難しくなる。反動に驚いて思わず声が出てしまった。


「よし出来た…っしもう一発。『水線』」


次は反動に備えて構えた腕に強化をして唱える。

反動を抑え込むことに成功し、『水線』を横に薙ぎ払う。的にしていた樹は切断される。


「よし!良い威力だ。でもそれに応じて魔力消費もそこそこある…それに反動がなぁ。あまり連発には向かないな」


その後『水線』の射程などを確認していたら暗くなってきたため街に戻り、熊の背で夜ご飯を食べて宿に戻る。いつも通り、魔法で体を綺麗にしてベッドに寝転ぶ。


「〔炎熱の坑道〕か…楽しみだ」



―翌日―



「これが〔炎熱の坑道〕の門か…」


門は石で出来ていて少し赤みがかっている。門の横では3人組が会議をしている。

 人が少ないな。道中、先を歩いてる人もあんまり居なかったし…Cランクの探索者は思ってたより少ないのか?

ローブを袋から取り出し、纏う。


「よし、行くか」


門をくぐると三叉路の真ん中に出た。

点々とぼんやりとした灯りが天井に付いているがかなり暗い。

ほとんど無風で今まで感じたことがないほどの暑さで、ローブに隠れていない顔と足元に強烈な暑さが襲い来る。逆にローブの内側はほんの少しだが冷気を放っており暑さを感じないどころか心地よい。


「あっつ…これはローブが無いとキツかったかもな…」


 ベールズさんありがとう。さてここの中央は…

右の通路から中央のものと思われる魔力を感じるが、かなり弱い。


「これしか感じないってことはここはかなり広そうだな…しかもこの暑さ…慣れるまでは中央まで行けないかもな」



通路を歩き進めていると手程の大きさの黒い蟻の群れに遭遇した。

 デカい蟻か…気付かれる前に…


「『風刃』」


手前の数匹に狙いをつけていくつかの刃を繰り出す。が、甲殻に弾かれ傷一つ付かない。

 硬い!

蟻がこちらに気付きカサカサと襲い来る。


「『壁』!」


 壁はどうだ?

蟻たちは魔力壁にぶつかるとアゴで掘り始めた。ゆっくりだが確実に魔力壁を掘り進めていく。


「壁もいかれるか…さすがCランク。『風鎌』」


蟻の高さに合わせて魔法を撃ち、魔力壁の後ろにいる蟻たちを上下に分断していく。が、数匹切ったところで鎌は勢いを失い霧散してしまう。


「硬っ!こいつは厄介だな…どうしたもんかな」


魔力壁に魔力を追加しながら手を考える。


「虫だし火はどうだ?『放炎』」


蟻に炎を浴びせる。蟻は焼き焦げ、魔素になっていく。

 あれ、こんだけ暑い魔域の魔物だから火に耐性があると思ったけどいけるもんだ。


「まぁ虫は虫ってことか。『放炎』」


蟻を全て焼き払い、焼き跡に残った魔石を拾う。魔石は黒色で、つまめるほどの大きさだ。


「けっこう硬かったのにこんなもんか…」


魔石を拾い集め先へ進む。



「お、宝箱」


道のわきにポツンとある宝箱を見つけた。中身は片手で掴めるほどの大きさの石だった。


「石…?」


 出魔品にただの石?

しかし手に取ってみると普通の石より重い。

 ん、重いな…


「あ、もしかしてこれが鉱石ってやつか?初めて見たや」


鉱石を袋にしまう。

 ちょっと重い…これがいくつも出てきたら強化掛けないとダメかもな。



いくつか宝箱を開けて鉱石を集めていると、今度は道の真ん中に宝箱があった。

 ここだと宝箱を探すために首を振る必要が無くて楽だな。

中身は手のひらに収まる大きさの半透明な深い紫色の歪な石だった。


「これは…宝石か。シュウトさんがいくつか持ってて教えてもらったな…加工するのが大変とかなんとか…」


街から遠い村にも行商に来ていたシュウトの荷物の中に宝石があったのを思い出す。

宝石をしまおうとしたところで前方の曲がり角から足音が聞こえてくる。


「『壁』」


自分の手前に壁を作る。

 人の足音っぽいけど、油断はしない。歩き木みたいな奴かもしれん…

足音が近づいてくると何かを引きずる音と荒い息遣いも聞こえてくる。


「ん?人じゃないかこれ…?」


曲がり角からぐったりしたルークと、その肩を持って歩くリズが現れた。


「ルーク君!リズさん!」


何か異常な空気を感じ、壁を解除して駆け寄る。


「あぁ、アイン君…ルークが…ルークが…!」


リズは涙を流してひどく取り乱している。

ルークは意識を失っていて、顔の右半分は火傷で覆われている。


「これは…一旦寝かせてください。『冷霧(れいむ)』」


空気を冷やす霧を発生させる魔法を使い、鎧を脱がせてルークを寝かせる。火傷は顔だけでなく、肩から手まで広範囲に広がっていた。

 鎧の下まで…息はある…


「ひぐっ、アイン君、回復薬とか、んぐっ、持ってるの?」


リズは嗚咽交じりに聞く。

 回復薬?


「いや、持ってない…でも、治せるかもしれない」


「え…?」


―――――


「あてっ!」


ある日、村の友達と追いかけっこをしていた時。足がもつれて転んでしまった。


「いてて…」


膝を見てみると結構な大きさの擦り傷が出来て結構血が出ていた。


「大丈夫?」

「大丈夫?アイン」


友達が集まってきて心配の言葉を掛ける。


「捕まえた!」


友達の一人の手を掴んで宣言する。


「えー!?」


それを見てみんなクモの子を散らすように逃げていく。


「もーそれアリかよぉ」


捕まった友達は文句を言う。


「うそうそ。逃げていいよ」


掴んでいた手を離して友達を逃がす。


「よーし、いっつつ…」


狙いを定め、追おうとしたところで痛みに思わず足が止まる。


「大丈夫か!?」


遠くで見ていた父さんが駆け寄ってくる。


「父さん!」


「ほれ見せてみな」


擦りむいた足を出す。

こういう怪我をしたときはいつも水魔法で綺麗にして「大丈夫だ!それ行け!」と送り出してくれる。父さんに大丈夫と言われると本当に大丈夫になるからいつも助かっている。


「ん…擦りむいただけじゃなくて少し強く打ったか…」


父さんはさっき転んだ場所をちらりと見る。転んだ場所には血が付いた石が転がっている。

 あれ、水かけないのかな…


「『治癒』」


父さんが膝に手をかざして唱えると、みるみるうちに傷が消えていった。


「え!?」


跡を触ってみるが全く痛くない。


「すごいすごい!なに今の!」


「ふぅ。今のは『治癒』っていう魔法だ。自分の怪我を治すのに使う魔法だな。ふぅ、頑張ればアインも使えるようになるぞ」


父さんは少し息を切らしている。


「自分の?でもアインの治したよね?」


「ああ、魔力がたっっくさん必要になるけどね。ふぃー…」


「じゃあ魔力がたっっくさんあれば友達も治してあげられるってこと?」


「ああそうだな」


「じゃあもっと魔力増やすためにもっと頑張る!」


「おっ!じゃあ父さんが怪我しちゃった時はアインに任せちゃおっかな~?」


「えっやだ。父さんは自分で治せるじゃん」


「アイン!探検いこー!」


「うん!いくー!」


友達のもとに走る。


「…即答でやだって…」


残された父は一人呟いた。


―――――



 使えるようになって分かったけど『治癒』は自分に対してでも大量の魔力を使う…他人(ひと)に使うなんてとんでもない…でも、やるしかない…!


「会った時をイメージ、会った時をイメージ、会った時を…」


ブツブツと呟いてイメージを固める。


「フゥー…『治癒』!」


魔力を大量に消費し、魔法をかける。ルークの火傷はみるみるうちに治っていく。


「え…傷が…」


「ぐっ…くぅ…ッ!」


魔力切れを超えて魔法を使い、気絶しそうになる。


「アイン君!」


リズの声でなんとか持ちこたえる。


「くっ…ハァ…大丈夫。それより、ルーク君は…」


「ん…」


ルークが目を覚まし起き上がる。


「ルーク!」


リズはルークの腹に顔をうずめて泣き声を溢す。


「リズ…アイン君、まさか君が…治してくれたのか?」


ルークはさっきまで火傷に覆われていた右腕を見て聞く。


「フゥ…ああ、治ってよかったよ。ハァ…でも痕が、残っちまった」


傷は治っているがそこには痛々しい痕が残っている。


「…君がいなければ僕は死んでいただろう…本当に、ありがとう」


「ありがどう…」


ルークは頭を下げる。それに続いてリズもこちらに向き直って頭を下げる。


「ああ、どういたしまして。ふぅ、じゃあもう外に出よう。二人は、脱出門を見かけた?」


「ズズッ、う”ん。来るまでに一つ見た」


リズが鼻水をすすりながら答える。


「よし、はぁ、ルーク君立てる?」


「ああ、痛みもない」


ルークは鎧を着ながら答える。


「フゥー…俺は魔力切れだ。魔物が出たら、頼む」


「ああ!任せてくれ!」


ルークはドンと胸をたたいて答えた。


「荷物は私が持つわ」


「あっ俺の荷物、重いけど大丈夫?」


「全然大丈夫よ。私『肉体強化』使えるから」


リズはそう言って軽々と持ち上げている。

 肉体…俺のやつと同じような魔法か。


「アイン君、歩けるか?」


「ああ、いける」


「よし、門を見たのはこっちだ。行こう」

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